最弱召喚士の俺、ハズレ枠の“卵”を引いたら古代竜でした

kuni

第1話

 この世界において、召喚士の価値は『最初に引いたクジ』ですべてが決まる。


 努力も、知識も、人間性も関係ない。

 最初の儀式で「強い相棒」を呼べれば英雄。「弱い相棒」なら一生底辺。

 それが、召喚士にとっての絶対のルールだ。


「――次、レオン・アークライト。前へ」


 試験官の無機質な声が響く。

 王立召喚院、卒業試験会場。張り詰めた空気の中、俺は祭壇の前へと進み出た。


「おい見ろよ、レオンだ」

「筆記試験満点の“天才”様だな」

「平民のくせに生意気なんだよ。どうせ実技でボロが出るさ」


 背中から突き刺さるヒソヒソ話を、俺は無視した。

 着古して袖が擦り切れた制服。貴族ばかりのこの学園で、平民の俺が首席を維持するのは並大抵のことじゃなかった。

 けれど、それも今日で報われる。

 病気の妹を良い病院に入れるには、どうしてもSランクの召喚獣が必要なんだ。


(大丈夫。イメージトレーニングは完璧だ。俺の魔力波長なら、高位の幻獣か、あるいは精霊が応えてくれるはず……!)


 俺は震える手を抑え、祭壇の中央に立つ。

 床に描かれた魔法陣が青白く輝き始めた。


「我、契約を望む者なり。彼方より来たりて、我が魂の半身となれ――サモン!!」


 練り上げた魔力を一気に注ぎ込む。

 カッ! と視界を埋め尽くすほどの閃光が走った。

 会場がどよめく。この光の強さは、間違いなく上位召喚の証だ。


「やった……!」


 俺は確信と共に目を開いた。

 光が収束し、魔法陣の中央に“それ”が姿を現す。


 ――しかし。


「……は?」


 誰かの間の抜けた声が聞こえた。

 そこに在ったのは、威風堂々たるドラゴンでも、美しい精霊でもなかった。


 黒く、ゴツゴツとした、岩の塊。

 いや――卵、か?

 子供の頭ほどの大きさがある、煤(すす)けたように汚い、真っ黒な卵だった。


「な、なんだこれは……」


 試験官が眉をひそめ、水晶のモノクルで鑑定を行う。

 俺は心臓が早鐘を打つのを感じながら、その判定を待った。

 きっと、すごい魔獣の卵のはずだ。そうでなければ、あんな光が出るはずがない。


 だが、試験官は残酷な事実を淡々と告げた。


「鑑定不能(エラー)。魔力反応、なし」

「え……?」

「ただの石化しかけた卵だ。中身は死んでいる可能性が高い。……判定は『ハズレ』。不合格だ」


 頭が真っ白になった。

 不合格? 俺が? ハズレ?


「ぶっ、あははははは! 見ろよあのゴミ!」


 静寂を破ったのは、爆発的な嘲笑だった。

 振り返れば、クラスメイトたちが腹を抱えて笑っている。その中心にいたのは、次席のガイウスだった。

 金髪をなでつけ、高価な装飾品をジャラジャラと鳴らす大貴族の息子。


「傑作だなレオン! 筆記試験で粋がっていた結果が『石ころ』ひとつとは! いやあ、平民にはお似合いの相棒じゃないか!」

「ガ、ガイウス……」

「どけよ雑魚。本物の召喚ってやつを見せてやる」


 ガイウスは俺を肩で突き飛ばし、祭壇に立った。

 彼が詠唱すると、紅蓮の炎と共に巨大な虎が現れる。Aランク魔獣『フレイムタイガー』だ。


「おおっ! 素晴らしい!」

「さすがはガイウス様だ!」


 称賛の嵐。

 俺に向けられていた期待は、すべて嘲笑と侮蔑に変わっていた。

 試験官が冷ややかな目で俺を見る。


「レオン。お前の特待生資格は剥奪だ。即刻、Fランク寮へ荷物を移せ」

「ま、待ってください! もう一度だけ……もう一度だけチャンスを!」

「くどい! 一度きりの運命、それが召喚術だ。失せろ、この落第者が」


 俺は、動かない黒い卵を抱きかかえるしかなかった。

 冷たくて、重い。

 これが、俺の人生のすべてを奪った元凶。


 ……なのに。


「……ごめんな」


 学園の隅にある、ボロボロのFランク寮。隙間風が吹く部屋で、俺は卵をベッドに置いた。

 不思議と、怒りは湧かなかった。

 周りの奴らは「死んだ卵」だと言った。石ころだと笑った。

 でも、俺にはどうしても、こいつが死んでいるようには思えなかったのだ。抱きかかえた時、指先に微かな、本当に微かな温もりを感じた気がしたから。


「俺もお前も、周りから見れば『ハズレ』同士か」


 俺は自嘲気味に笑うと、残った魔力を練り上げる。

 回復魔法の要領で、掌から魔力を卵へと流し込んだ。


「でも、俺は諦めないぞ。お前も……生きたいなら、俺の魔力を全部食っていい。だから」


 目を覚ませ。

 俺たちの戦いは、まだ終わっちゃいないんだ。


 その夜。

 俺は魔力枯渇で気絶するまで、その黒い卵を温め続けた。


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