第2話

仕事を辞め、昼夜逆の生活を始めてどれくらい立つだろう。

昼は部屋でのんびりと過ごし、夜になると仕方なく出かけた。

近所のコンビニで文芸雑誌が目に止まったが、手には取れなかった。立ち読みする気分でもなく、何より店員の目が気になった。

仕事を辞めてしばらくは、小説家になりたかった。だけど、一ページ書き終えるごとに彼の声が聞こえた。恋愛などとうにやめていたのは、向いていないから。それなのに小説を書こうと思い立ったのは、何かの勢いだったのかもしれない。脈絡のない直感と衝動。書き終える頃には、彼という人物を爪の先まで取り戻していた。低い柔らかな声も、時折黙り込む痩せたうなじも。どこに行ってしまったのだろう。私の中に羹をふくような感覚を何度も呼び起こす工程と、躊躇ってはワレモノを扱うようにそっとまた箱に戻す作業を繰り返し、まるで使う勇気もないくせに買ってしまった高価な茶器のように、最後は単なるコレクションにしてしまった。仕舞って使わなければ、持っていないに等しいというのに。

今日からそういえば二月だった。贈り物は先週日比谷のホテルで買った。すぐに届けようかと思ったけど、これ以上関係を望むほど心は湿ってもいなかった。水を飲んで、白い箱を眺めて、ただ満足したあと、静かにまた紙袋に戻した。

それから、スマートフォンの着信履歴を意味もなくチェックした。スクロールした着信履歴の番号に、指が止まる。

だけど、かけたかったのではなく、何かを消せばなにか新しい何かが得られるような気がした。新しい何か。求めては空中に溶ける何か。

昨日食べたリンゴの種が落ちているキッキンに立ち、拾い上げると埋めてみたくなって、先週枯れたアイビーのポッドにぐいと埋めた。芽は出ないだろうが、だけど、それでいい。

何も変わりはしない。もうわかっているから、それでいい。

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