本当は怖い荷物持ち

茶電子素

第1話 今日も笑顔で

僕の名前は マルク・ホルン。

勇者パーティーの荷物持ちです。

中肉中背、小太り寄り、丸顔、いつでも笑顔。

初対面の人にはだいたい「優しそう」と言われます。

実際、優しいと思うんだけど――

ただ、仲間からは最近、微妙に距離を置かれている気がするんですよね……。


理由はよくわからない。

僕は荷物を運んで、食事を作って、掃除をして、

敵を倒して、道を切り開いて、罠を解除して、魔物の巣を壊滅させて、

ついでに魔王軍の前線基地を三つ更地にしただけだけど。


……あれ、こうして並べると、荷物持ちの仕事って意外と多いな。


そんなことを考えていたら、前を歩く勇者の レオン が振り返った。

金髪碧眼、絵に描いたような勇者様。

でも、最近は僕を見るときだけ顔が引きつっている。


「マルク、今日の目的地は“黒鉄の洞窟”だ。魔物が多いらしいから、気を引き締めていこう」


「はい、任せてください。荷物は全部持ってます」


僕が笑顔で答えると、レオンはなぜか喉を鳴らした。

後ろの 魔法使いリリア と 僧侶カイン も、同時に視線をそらす。


……なんだろう。

僕、なんかしたかな。


いや、昨日のことかもしれない。

野営地の近くに魔物の群れがいたから、

寝る前にちょっと散歩がてら片付けておいた。

朝起きたら、三人が

「なんだよこの肉片」

「地獄の跡地みたいになってるんだけど」

と騒いでいた。


でも、魔物は危ないし、放置したら夜襲されるかもしれないし、

むしろ感謝されてもいいくらいだと思うんだ。


そんなことを考えているうちに、洞窟の入り口に着いた。


黒鉄の洞窟は、名前の通り黒い鉄鉱石がむき出しになったような岩肌で、

入口からして不気味だ。

風が吹き抜けるたびに、金属が擦れるような音が響く。


「うわ……嫌な感じね」


リリアが肩をすくめる。


「魔物の気配が濃い。気をつけろよ」


カインが杖を握りしめる。


レオンは剣を抜き、僕に向き直った。


「マルク、くれぐれも無茶はするなよ。俺たちもいるんだから」


「もちろんです。皆さんのサポートが僕の仕事ですから」


そう言うと、三人の表情がなぜか曇った。

どうしてだろう。

僕、変なこと言ったかな。


洞窟に入ると、すぐに魔物の群れが現れた。

牙の生えた巨大なコウモリが相当数、天井からぶら下がっている。


「来るぞ!」


レオンが構える。


僕は荷物袋を下ろし、軽く肩を回した。

戦闘前の準備運動は大事だ。


「マルク、下がってろよ!」


レオンが叫ぶ。


「はい、わかりました」


僕は素直に一歩下がった。

その瞬間、コウモリたちが一斉に飛びかかってきた。


レオンたちが迎撃しようとしたが、どうにも動きが遅い。

魔物の数が多すぎるのだ。


仕方ない。仲間が危ないんだ。


僕は笑顔のまま、足元の石を拾い上げた。

ただの石。

でも、狙いを付けて投げれば十分だ。


軽く指で弾くように投げれば、石は空気を裂いて飛び、

コウモリを無造作に貫いた。

血の雨をまき散らしながら、数十匹が、ほぼ同時に地面に落ちる。


洞窟に静寂が戻った。


「…………」


レオンたちが固まっている。

リリアは口を開けたまま、カインは杖を落としそうになっている。


「危なかったですね。皆さん、大丈夫ですか?」


僕が声をかけると、三人は同時に一歩下がった。


「マルク……今の、ただの石だよな?」


レオンが震え声で言う。


「はい。ちょうどいいサイズのが落ちてたので」


「落ちてたので、じゃないわよ!」


リリアが叫ぶ。


「すみません。ほんの少し大変そうに見えまたので……」


「だからって、こんなグチャグチャにする必要は……」


カインが言いかけて黙る。


僕は首をかしげた。

倒すなら、一撃で確実に仕留めたほうがいいと思うんだけどな。


その後も、洞窟を進むたびに魔物が現れた。

レオンたちが構えるより早く、僕が片付けてしまう。

だって、危ないし。

仲間が傷ついたら大変だし。


気づけば、洞窟の奥にあるボス部屋に着いていた。


巨大な鉄の甲殻を持つ魔物、アイアン・ビートル が鎮座している。

レオンたちは緊張した面持ちで武器を構えた。


「マルク、ここは俺たちに任せろ。お前は後ろで――」


レオンが言い終わる前に、アイアン・ビートルが突進してきた。


速い。

レオンたちでは間に合わなそうだ。


僕は笑顔のまま、荷物袋から錆びついたハンマーを取り出した。

別に武器じゃない。

テントの杭を打つための道具だ。


それを軽く振ると、アイアン・ビートルの甲殻が粉々に砕け、

内臓をぶちまけながら壁にめり込んだ。


静寂――そして鉄の臭い。


レオンたちが、また固まっている。


「……マルク」


レオンがかすれた声で言う。


「はい?」


「お前、本当に荷物持ちなんだよな?」


「もちろんです。荷物なら全部持ってますよ」


僕が笑うと、三人はそろって視線をそらした。


洞窟を出る頃には、レオンたちは妙に僕から距離を取って歩いていた。

まるで、僕が危険物みたいに。


「皆さん、疲れましたか? 肩でもお揉みしましょうか?」


「いや、大丈夫だ!」

「私は平気!」

「触らないでくれ!」


三人が同時に叫んだ。


……なんでだろう。


僕は今日も笑顔だ。

仲間の役に立てたし、魔物も全部片付けたし、洞窟も安全になった。

いい一日だったと思う。


ただ、帰り道でレオンたちがひそひそ話していたのが気になる。


「なあ、リリア……マルクって、やっぱり……」

「うん……たぶん、私たちより強い」

「いや、強いというか……」


耳が良すぎるのも考え物だ……

離れてついて行く僕は聞こえないふりをした。

仲間が仲良く話しているのを邪魔することもないだろう。


それでも、ひとつだけ気になることはある。


僕、そんなに怖いかな。


今だって満面の笑顔を向けているのに――。

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