赤い傘と空に架ける橋 〜高校を捨てた僕が、赤い傘の中で見つけた光〜
村上玲仁
第1話 孤独な努力者
チャイムがけたたましい音を立てて鳴り響き、授業の終わりを告げた。途端に教室の空気は緩み、生徒たちは一斉に歓声や私語を弾ませながら席を立つ。
しかし、その少年は喧騒の中で、微動だにしなかった。彼は、さっきまでの数学の授業の教科書の問題をノートに解き続ける。
休憩時間も勉強を続けることは、彼にとって唯一、教室という空間で存在する理由を保つ方法だった。
その時、教室の中央付近で立ち話をしていたグループの視線が、彼の席へと向けられる。中心にいるのは、運動神経が良く、冗談でクラスを笑わせる男子生徒だ。
「おい、見ろよ」
肘で隣の友人を突いた。
「まだやってんぞ、あいつ」
男子生徒の声は、他の生徒の話し声に紛れてはいたが、やけに少年の耳にはクリアに届いた。少年はペンを握りしめ、顔を上げないように耐える。
その友人が少し大げさな溜息をついて続けた。
「マジかよ、休み時間まで? ストイックっつーか、つまんねー奴っつーか」
今度は女子生徒が、少年の席に向かって少し声を張って言った。
「ねぇ、斉藤くんって、テストで一位でも取んないと死んじゃうの?」
笑い声が、意図的に彼の席の周囲で高まる。
少年は、自分がまるで動物園の檻の中にいる、珍奇な生き物になったように感じた。彼らにとって、休み時間に立ち上がって会話をしない彼は、「成績を上げるために必死な努力家」ではなく、「周囲との調和を乱す奇妙な異物」でしかない。
彼——斉藤小雪は、勉強を続ける手を止めた。顔の血の気が引き、耳の奥で自分の鼓動だけがやけに大きく響く。耐えきれず、彼は乱暴に教科書を閉じ、カバンの中に押し込んだ。
小雪は逃げるように席を立ち、ただ用もないのに教室の外にあるロッカーの方へと歩き始めた。彼の背中には、「あ、逃げた」という意地の悪い声が、鋭い針のように突き刺さっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます