ツノ持ちの娘
間零
第1話
「――切り落とせ」
その一言は、男が医師として積み上げてきた年月を、簡単に踏みにじりました。
無機質な会議室の壁一面のスクリーンに一人の少女が映されていました。黒髪は獣のように項を覆い、眼は人よりも深く、何より、顬から伸びる二本の角が、彼女をこの世のいずれにも属さぬ存在にしていました。
両親はいません。
名も、正確な生年月日もありません。
ただ、感情が昂ると、空が荒れ、海が騒ぎ、地が軋む。その事実だけが、彼女の存在理由として記録されていました。
「感情が昂るたび、自然災害を引き起こす存在だ」
上司は淡々と説明し始めました。
「地震、暴風、豪雨、洪水、ハリケーン…… すでに死者も出ている」
男は拳を強く握りました。
「……彼女は患者です」
「だからだ」
即答でした。
「彼女を生かすなら、ツノを切除するしかない。ツノ持ちから、人間にするんだ。」
男は勢いよく立ち上がったので、椅子がガタッと動きました。
「それは彼女の人格を否定する行為です。
命を救うために、命を壊すつもりですか」
上司は冷たい目で見返しました。
「これは国家が決めたことだ。海外では暗殺計画が進んでいる。刺客たちが日本で暴れることになるぞ。組織は、彼女を“災害そのもの”として排除するつもりだ」
さらに追い打ちをかけられました。
「お前ならできる。災害が起きても、人が危険に晒されても、成功させられる。……彼女のことを思うなら、せめて、人間に戻してやれ」
その言葉が、男の胸をえぐりました。
結局、選ばされるのは自分である。
拒否すれば、誰かが死ぬ。
受け入れれば、彼女が壊れる。
そうぐるぐると心の中でモヤが周り続け、彼は、震える手で書類にサインをしました。
その瞬間、胸の奥で何かが折れました。
男は落ち込みました。
……やっぱり俺は、優しさという名前の愚かなものに負ける、意志のない人間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます