第10話 奇妙な旅人

「あーもう、アネッテ! うちもそれ食べたい!」

「はいはい、ちゃんとあげるから、ほら!」


 リーシエは甘いものに目がない。アネッテが注文した王国パイをどうしても食べたいらしい。いつも通りの二人の様子に私は思わず吹き出してしまう。


「なんで笑うのよイオナ! うち必死なの!」

「だってリーシエったら、また高いアクセサリー買っちゃうんだから。そりゃ金欠になって当然じゃない」

「イオナの言う通りよ! まぁ別に、分けてあげるけどさぁ」


 リーシエが買ったというネックレスは彼女の首元を華やかに飾っていた。以前私が持っていたものにそっくりだ。


「てか、ヨルンとアランってば今日も畑の手伝いなの?」


 リーシエは獲得した王国パイをむしゃむしゃと満足そうに頬張りながらあたしに尋ねた。ヨルンとアランは救出されてからというもの、大好きだったいたずらを止めて大人たちの手伝いに没頭しているみたいだった。急に変わってあたしはすごくびっくりしたけど、きっとあの子たちを助けてくれた勇者様に憧れてるんだと思う。私も例外じゃない。


「そうなの。勇者様に感謝しなきゃ」


 もうそこにはないネックレスに触れるように、無意識に首元に手をやった。女の子というのは他人の気持ちに本当に敏感なもので、私の想いは二人にはとっくにバレてしまっていた。


「あ! ほらまたー、最近ずっとこんな感じじゃない?」

「ね! ほんと勇者様ラブって感じよね」

「ちょ、ちょっと!」


 顔に出てしまっていたことに気づかず、リーシエとアネッテにからかわれてしまう。私の顔は今真っ赤になっているはずだ。


「あ、でもそういえば、砂漠のお姫様さ。その勇者様にフラれたってきいたよ」

「まじ? クール過ぎない? あんな美人なお姫様なのにフラれる意味わかんなすぎー」


 その話を聞いてあたしは雷に打たれたような衝撃を受けた。砂漠のお姫様がダメならもちろんあたしが選ばれるわけはなかったからだ。でも別に良かった。勇者様はきっとどこかでまた誰かの助けになっている。そういう人生を選ぶんだろうとなんとなく思っていた。


「恋する乙女ってかわいいよねー。うちも恋したーい」

「それなー。...あ、てか聞いた?」


 ついにすべての王国パイを奪われてしまったアネッテは話を切り出した。それはやけに聞き覚えがあるような話だった。


「なんか宿屋にさ、ぼろきれ一枚着て、木の棒大事そうに持ってる無口な女の子が来たらしいよ」

「えー、知らない」

「リーシエは見に行くっしょ? イオナも行く?」


 他人様をそんな好奇の目で見るなんて...と思ったが、興味の湧いた心は止められなかった。


「うん、行く」


 あたしらはお店にお金を払って席を立った。雲一つない青空の下、どこかの家からはケイヴナッツのスープの香りが漂っていた。

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無口な勇者 禍々。 @kakamaru_jp

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