第4話 画用紙入れに隠された手紙と未完の約束
夏森柚がいなくなってから三ヶ月後、汐見町に冬が訪れた。
潮風が顔に吹きつけ、まるでナイフで切りつけられるように痛かった。古い灯台の下の石段には、薄い霜が積もっており、冷たくて刺すような感触がした。
秋也はまた「無口な秋也」に戻ってしまった。
彼はもう屋上にも行かず、海にも行かなくなった。毎日頭を垂れて教室に入り、机に伏せて寝ている。放課後のベルが鳴ると、ゆっくりと家に帰るだけだった。クラスメイトたちは彼に声をかけるのをやめ、イチゴ味の飴をくれた女の子も、彼の机の中に飴を入れるのをやめてしまった。
担任の先生がまた彼に話しかけてきたが、その口調は優しいものの、どこか無力さが込められていた。「秋也くん、あなたは……」
彼は先生の話を遮り、声をかすらせて言った。「先生、大丈夫です」
大丈夫なはずがない。
ただ、心の中の海が、また無音に戻ってしまっただけだ。
彼は夏森柚からもらったスケッチを、大事そうに詩集に挟み込んでいた。毎晩、彼はそれを取り出して眺めていた。紙の上の夕陽、紙の上の灯台、紙の上の彼女の笑顔は、とても輝かしかった。
彼は指先で紙の上の彼女の笑顔をなぞり、ささやいた。「夏森、会いたい」
だが誰も、その声に応えてはくれなかった。
クリスマスの日、汐見町に雪が降ってきた。
雪がふわふわと空から舞い落ち、大地を白い布団で覆っていた。海岸の防波堤は白い帯のように見え、古い灯台には厚い雪が積もって、まるで白い帽子をかぶった巨人のようだった。
秋也の誕生日は、クリスマスの日だった。
以前、母親がイチゴのケーキを買ってきて、ろうそくを立てて言っていた。「秋也、お誕生日おめでとう」それから母親がいなくなってから、彼の誕生日はもう一度も祝われることはなかった。
彼は机の前に座り、窓の外の雪を眺めながら、夏森柚からもらったスケッチを手に持っていた——石段に座り、海を眺めている彼の姿が描かれたその一枚だ。
突然、彼はスケッチ用紙の裏面に何かが書かれていることに気づいた。
彼は慌ててスケッチ用紙を裏返した。
一行の美しい文字が、彼の目に飛び込んできた。
「秋也くん、この手紙を読んでいる時、私はもうとても遠い街にいるはずです。別れを告げる暇がなくて、本当にごめんなさい。あなたの心の中に、お母さんのこと、この海のこと、たくさんの想いが隠されていることを知っています。私はあなたのことを描く絵を、たくさん描きました。紙の上のあなたのように、この海に向かって笑顔を見せてほしいです。それに、あなたの書く詩を、こっそりと読ませてもらいました。とても素晴らしい詩です。特に、私のことを書いた詩は。私も大好きです。夕日を一緒に見る秋也くんが——夏森柚」
秋也の指が激しく震え始めた。
彼女は、これらの詩を読んでいたのだ。
彼女は、彼の想いを知っていたのだ。
彼の涙が、再び溢れ出してきた。
彼は突然、夏森柚がいなくなる前日、教室に画用紙入れを忘れていったことを思い出した。彼はそれを拾って、翌日彼女に返そうとしていたが、彼女はもう来なかったのだ。
画用紙入れは、まだ彼のカバンの中に入っていた。
秋也は慌てて立ち上がり、リビングに駆け込み、カバンを手に取ってその画用紙入れを取り出した。
画用紙入れの錠前は、閉まっていなかった。
彼は小心翼翼に画用紙入れを開けた。
中には、彼のスケッチだけが、たくさん詰め込まれていた。
屋上の片隅に佇む彼の姿、頭を下げて本を読む彼の姿、オレンジジュースを飲む彼の姿、夕陽を眺めて微笑んでいる彼の姿——一枚一枚のスケッチの裏面には、一行の文字が書かれていた。
「秋也くん、今日のあなたはとても優しいです」
「秋也くん、笑顔がとても素敵です」
「秋也くん、この海はあなたのおかげで、もっと優しくなりました」
一番下には、まだ描き終えていないスケッチがあった。
紙の上には古い灯台の下の石段が描かれ、夕陽がゆっくりと沈み込んでいる。白いシャツの少女が石段に座り、隣には空席が残されていた。
空席の隣には、一行の文字が書かれていた。
「夕日を一緒に見るために、待っています」
秋也は画用紙入れを抱えて床に蹲り込み、子供のように泣き叫んだ。
自分の想いが、ずっと一人だけの秘密だったわけではなかったのだ。
彼女もまた、夕日を一緒に見る少年のことを、好きだったのだ。
雪はますます激しく降り、窓の外の世界は一面の真っ白になっていた。
秋也は涙を拭いて、絵筆を手に取り机の前に座った。彼はその未完のスケッチを見つめ、空席の位置に詩集を抱えた少年の姿を描き加えた。
少年の唇には、かすかな微笑みがこめられていた。
彼はスケッチの裏面に、一行の文字を書き込んだ。
「夕日を一緒に見るために、待っています」
それから彼はノートを開き、ペンを手に取って一首の詩を書き始めた。
詩のタイトルは、《星降る無音の海》だった。
「灰色の海に、星が降りてきた。
オレンジジュースの甘みが、塩気の混じった風を包み込んだ。
灯台の下の約束が、画用紙入れに隠されていた。
未完の夕日を待ちながら、
優しいあなたを待っている。」
詩を書き終えた彼は、頭を上げて窓の外の雪を眺めた。
雪の結晶が窓ガラスに付着して、水滴に溶けていく。まるで透明な涙のように。
彼は母親が言っていた言葉を思い出した——「秋也、見てごらん。この海はどんな嵐が来ても、翌日には必ず穏やかになるんだよ」
母親は正しかった。
嵐はいつか過ぎ去るものだ。そして優しさは、永遠に心の中に残るものだ。
彼はノートと画用紙入れをカバンにしまい、厚いコートを着て、マフラーと手袋をして家を出た。
雪はもう止んでおり、夕陽の残り霞が白い世界を淡いオレンジ色に染めていた。
彼は厚い雪の上を踏みしめて、海岸の方へ足を運んだ。
防波堤の果てに、古い灯台の下で彼は石段に座り込み、画用紙入れを抱えて夕陽を眺めた。
夕日はとても美しく、金赤い光が雪の上の海を染め上げていた。
彼はささやいた。「夏森、見て。今日の夕日は、とても美しいよ」
風が海面から吹き込み、雪の冷たい匂いと共に、かすかなクチナシの香りが漂ってきた。
彼はそれが幻覚ではないことを知っていた。
なぜなら彼の心の中に、永遠に消えることのない光があるからだ。
その光は、彼女のことだ。
彼女が彼の灰色の世界を、再び明るくしてくれたのだ。
彼女が彼に教えてくれたのだ。救いとは他人からの施しではなく、誰かがあなたと一緒に優しい夕日を見てくれることなのだと。
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