異星の手
神谷嶺心
異星の手
目覚まし時計は午前六時に鳴った。
いや、正確には「鳴ろうとした」。
その前に、左手が勝手に止めてしまったのだ。まるで「お前の人生に時間厳守なんて必要ない」とでも言うように。
結局、遅れて起きることになった。時計を見て、ため息をつく。
葬式は十時。――なんて、朝の始まりにふさわしい予定だろう。
「お前、飽きないのか?」
そう呟きながら、自分の指を見つめる。勝手にひらひらと振られていて、まるで妨害を祝っているかのようだった。
もう喧嘩はしない。ただ言い合うだけだ。
永遠に居座る厄介な同僚と話しているようなものだ。
手は無関心に、すでに挨拶の練習を始めていた。
まるで葬式を舞台に変える準備でもしているかのように。
――もし葬式でさえ笑いものになるのなら、主人公は最初から俺じゃなかったのかもしれない。
遅れて起き上がる。いつものことだ。
目覚ましを止めたのは手で、今は何事もなかったかのように布団の上に伸びている。まるでただの体の一部を装っているように。
ベッドを整えようとしたが、手は枕を投げ飛ばした。
一つは床へ、もう一つは壁へ。
俺はため息をつく。もう戦いではない。日課だ。俺が整え、手が崩す。秩序なんて、手にとっては私的な冗談にすぎない。
洗面所ではさらに酷かった。
右手に歯ブラシ、歯磨き粉も準備済み。口に運ぶだけのはずだった。
だが左手――異物のような手――は歯磨きを格闘技に変えた。
鏡に歯ブラシを押し付け、壁にペーストを飛ばし、挙げ句の果てに俺の目を突きそうになる。
「お前、ほんとに分かってないだろ…」
鏡に映る自分を見つめる。半分は人間、半分は操り人形。
手は泡だけを返してきた。
シャツを慎重に着る。普通に見せたいからだ。
だが手はボタンを外し続ける。俺が留めるそばから、勝手に外す。
結局、ボタンは二つずれ、襟は曲がり、葬式は死者より俺が主役になりそうな格好になった。
玄関で深呼吸する。
手は勝手に振り始める。まるで親族への挨拶を練習しているかのように。
俺は止めない。掴まない。ただ放っておく。
道を渡りながら考える。葬式までの移動なんて語る価値はない。
本当の恥は、到着してから待っているのだから。
墓地の門は、まるで自分も喪に服しているかのように軋んだ。
俺は重い足取りで中へ入る。シャツは曲がり、髪も乱れたまま。
そして手は、勝手に先走って道行く人々に手を振っていた。
「やりすぎだろ…」
小声で呟いたが、手は無視して、まるで選挙候補者のように挨拶を続ける。
親族たちは哀れみと困惑の入り混じった目で俺を見た。
病気のことを知っている者もいれば、知らないふりをする者もいた。
だが手は誰にも見逃させない。花輪を指差し、蝋燭を直し、泣いている叔母の髪にまで触れようとした。
「おい、弔いを尊重しろ」
腕を引き戻すと、叔母は幽霊でも見たかのように怯えて後ずさった。
式場の中央には白い花に囲まれた棺が置かれていた。
重苦しい沈黙。椅子の軋む音だけが響く。
俺は慎ましく近づこうとしたが、手は舞台の幕を開けるように動いた。
拍手をし、死者に手を振り、花を倒しかける。
「お前、本当に分かってないな…」
子供に言い聞かせるように小声で呟く。
周囲からは神経質な笑い声、あるいは視線を逸らす仕草。
俺はため息をついた。もう恥ではない。日常だ。
この醜態は、すでに俺の一部になっていた。
神父が祈りを始めると、手は勝手に挙がり、まるで説教に参加するかのようだった。
俺は止めなかった。戦う価値はない。
むしろ、手の方が俺より信仰心があるように見えた。
葬儀は始まりと同じように終わった。
重苦しい沈黙、萎れた花、そして場に溶け込もうとする俺。
もちろん手は協力しない。最後の別れの時、皆が棺に近づくと、手は空港で友人を見送るかのように大きく振った。
「やりすぎだろ…」
呟いたが、もう遅い。親族たちは神経質に笑い、あるいは視線を逸らす。
俺はただため息をついた。
出口に向かう途中、手はコーヒーテーブルのパンを取ろうとしたが、失敗して皿ごとひっくり返した。
音は式場に響き渡り、まるで拍手のようだった。
俺は謝らなかった。ただ歩き続けた。
もう言い訳する気力もなかった。
外に出ると、午後の陽射しが目を刺した。
葬儀は終わったが、一日はまだ終わらない。
そして理由も分からないまま、俺は約束していた「会合」に向かうことにした。
意地だったのか、それともまだ「普通」を演じたいだけだったのか。
カフェは小さく、窮屈なテーブルに、古びたケーキの匂いと安っぽい香水が混ざっていた。
彼女はすでに座っていて、控えめに微笑み、俺が何か言うのを待っていた。
俺は口を開こうとした。だが手が先に動いた。
唇に指を当て、まるで「静かにしろ」と命じるように。
彼女の目が大きく見開かれる。俺は凍りついた。
「違うんだ、そういう意味じゃない」
必死に説明しようとしたが、手はしつこく唇を押さえ、秘密の番人を気取っていた。
気まずさは一瞬で広がった。
彼女は椅子を引いて後ろに下がり、笑うべきか逃げるべきか分からない顔をしていた。
俺はそのまま、疲れたため息しか出せなかった。
「……俺には病気があるんだ」
指を必死に払いのけながら呟く。
「この手は俺の言うことを聞かない」
沈黙。
言葉よりも重い沈黙が落ちた。
手は気にもせず、ナプキンを折り始めた。奇妙な形にして、まるで芸術を披露するかのように。
俺は思った。――もし彼女が今逃げないなら、俺より忍耐強いのかもしれない。
彼女は皿にも、コップにも触れなかった。
ただ座り続け、形式だけを守るように動かず。
そして立ち上がると、何も言わず、ただ小さく頭を下げて、走らずに逃げるように店を出ていった。
残された俺は、手つかずの皿を見つめる。
手は無関心に、指で机を叩き始めた。まるで太鼓のように。
「見ただろ? お前がやったんだ」
小声で問いかける。
手は沈黙で返し、すぐに指を唇に向けて「黙れ」と示した。
「いや、今は駄目だ。黙らせるな」
思わず声が大きくなる。
周囲の客たちが振り向く。
神経質に笑う者、眉をひそめる者。
俺は自分の手と口論していた。レストランの真ん中で、それが当然のことのように。
「お前は全部壊す。いつだって。俺が普通を演じようとしても」
手は無関心にナプキンを裂き始めた。細かくちぎり、床に散らす。
俺はため息をついた。もう戦いではない。
始まる前から負けていると知っている者の諦めだった。
店を出るとき、振り返らなかった。
外は冷たく、風が肌を切る。
重い足取りで歩く。体だけでなく、「言うことを聞かない手」という宇宙的な冗談まで背負っているように。
家に着いても灯りは点けなかった。
靴を履いたままベッドに倒れ込む。
手は胸の上に置かれ、無邪気なふりをしていた。
天井を見上げて思う。
――主人公は俺じゃなかったのかもしれない。
最初から、ずっと彼女(手)だったのかもしれない。
彼は靴を履いたまま眠りについた。
横にもならず、深い眠りに落ちる。
そして、その瞬間に一日は終わった。
実際には何も起きていなかったのだ。
葬式も、出会いも、醜態も――すべて作り物。
物語は彼のものではなかった。
最初から違っていた。
彼がいびきをかいている間、書いていたのは手だった。
もちろん、彼女は自分を主人公に据えることを忘れなかった。
異星の手 神谷嶺心 @kamiya_reishin
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