第九話

 鬼村は声を上げる。

「なんだ、お前ら!」

 僕は見間違いかと思った。

 こんなところに来るはずがない。

「埃っぽいところだな。お邪魔するぞ」

 野ばらさまが腰に手を当てて立っていた。

 水島さんが斜め後ろにいる。

「綺上院野ばらか。あいつらを殺せ!」

 鬼村は十人の部下たちに指示をした。

 水島さんが野ばらさまの前に立つ。

「野ばらさま、どうなさいますか?」

「好きにしていいぞ。ただし、殺すなよ」

「かしこまりました」

 水島さんは一礼する。

 襲ってくる鬼村の部下たちを、水島さんは素手で気絶させていく。

「す、凄い……」

 呆然としていると、野ばらさまが僕に近寄ってきた。

「かける、大丈夫か?」

 僕は野ばらさまから後退りする。

「こんな危ないところに、なんで来たんですか。僕は、あなたをだまして、殺そうとしていたんですよ」

 普通は怒ったり、泣いたりするだろう。

 野ばらさまは、僕に笑った。

「当たり前だろう。大事な使用人を迎えに来たんだ」

 ああ、眩しくて、見ていられない。

「本当に、申し訳ありません。野ばらさま」

 僕は頭を下げた。

 鬼村は倒れている部下たちに怒鳴る。

「お前たち、一人相手になにを手こずっていやがる!」

 水島さんは、鬼村の部下たちを相手に優勢のようだ。

「おい、百谷! 最後のチャンスをくれてやる! 綺上院野ばらを殺せ!」

 鬼村に名指しされ、僕は野ばらさまを背中に隠す。

「もう言いなりになるものか」

 銃口を向けられる。

「じゃあ、お前から始末してやるよ」

 避けられない。

 水島さんが叫ぶ。

「百谷くん!」

 弾声が響く。

 目の前に野ばらさまがいた。

 いつの間に、僕の後ろから移動したのだろう。

 僕を庇って、野ばらさまが撃たれた。

 小さな体を僕は受け止める。

 野ばらさまは額から血を流す。

 嘘、だろう。

「野ばらさま! 百谷くん!」

 水島さんが来た。

 鬼村の部下たちは、一人残らず気絶しているらしい。

 僕は野ばらさまを見つめる。

「野ばらさまが僕を庇ったから、僕の、せいで」

 水島さんは野ばらさまを見て、眉間にしわを寄せた。

 鬼村の笑い声が聞こえる。

「やった! やったぞ! 十億は俺のものだ!」

 聞いていると、気分が悪くなる声だ。

「百谷、前言撤回してやる。死ぬまでこき使ってやるよ。お前のおかげで、綺上院野ばらを殺せたんだからな!」

 僕は野ばらさまを抱きしめた。

「父さんを殺したばかりか、僕の大事な主人も殺したのか」

「なに言ってんだ。お前も共犯だろ」

「鬼村、絶対に許さないからな!」

「お前に、なにができるんだよ! 惨めに吠えてろ!」

「その言葉、そっくり貴様に返そう。鬼村」

 野ばらさまは目を開けた。

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