第四話
三日目。
「かける、紅茶を淹れてくれないか?」
「はい。ご用意します」
紅茶を淹れたことなんて一度もない。
せいぜい市販のティーパックだ。
水島さんに聞こうかと辺りを見回すものの、どこにもいない。
厨房に行って、手探りで淹れてみたが形にはなった。
野ばらさまにお出しする。
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
ティーカップを手に取り、野ばらさまは紅茶を口に含む。
時間が止まったように動かなくなった。
「の、野ばらさま?」
僕が声をかけると、野ばらさまはティーカップを置いた。
「水島。かけるに紅茶の淹れ方を教えてやってくれ」
「かしこまりました」
いつの間にか水島さんが近くにいる。
やはり、僕の淹れた紅茶がまずかったのだ。
失敗した。
「申し訳ありません、野ばらさま。僕が淹れた紅茶はすぐに下げて、別のをご用意します」
「いい」
野ばらさまは笑わないで言った。
まずい紅茶を出されて、怒っているのだろう。
なにも言われないのが、逆にきつい。
野ばらさまは、ティーカップに入っている紅茶を再び口に含んだ。
「僕が淹れた紅茶を、無理して飲まなくてもよろしいですよ」
「かけるが、あたしのために淹れてくれた紅茶だ。飲むから置いといてくれ」
野ばらさまは怒っている訳ではなかったのか。
まずい紅茶をお出ししたのに。
なんで。
「え、っと」
なにを言うか考えていると、野ばらさまが僕を見た。
「昔、新米使用人が淹れた紅茶を口にしたが、まずくて飲めなかったんだ。それに比べたら、かけるが淹れた紅茶の方が美味いぞ」
野ばらさまなりに、励ましてくれているのだろう。
「ありがとう、ございます……?」
視界の端で、水島さんが珍しく落ち着かなそうにしているのは気のせいだ。
その様子を見て、野ばらさまは満足気に笑う。
「次に紅茶を淹れる時は、もっと美味しいのを期待しているぞ」
「はい。美味しい紅茶をお出しできるよう精進します」
その後、水島さんに紅茶の淹れ方を徹底的に教わった。
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