憧れのデート
右中桂示
憧れてたけど物足りなくて
俺が好きなのは木上さん。常にクールで笑ったりしないどこか不思議な雰囲気の女子だ。
そんな木上さんに告白したら漫才コンビ兼カップルになった。よく分からないまま、流れでそうなってしまった。
実はお笑い好きなギャップと積極性で更に好きになったもんだから、文句は言えない。
それから数日。
土曜日に二人でファミレスに入っていた。
「うーん……」
木上さんは迷っている。わざとらしく唸って手をあごに添えているから、きっとボケの前振りのはずだ。
俺は素直に乗っておく。
「迷ってるの? ゆっくり選んでいいからね?」
「間違いが全然見つからない……」
「それただのメニューだよ」
「あ、このハンバーグ焦げ目が濃くない?」
「気のせいだよ」
「このハ、漢字の八じゃない?」
「だったら意地悪過ぎるよ」
「こっちだけチーズがかかってる!」
「そういうメニューだからね」
「正誤判定厳しくない? はっ、店側の回し者!?」
「そんな訳ないし。そもそもここ、間違い探しのある店じゃないからね?」
「コングラッチュレーション!」
「いきなり何ぃ?」
「そう、間違い探しが無い、その事が間違い。全てのファミレス、いいやありとあらゆる全ての施設に間違い探しはあるべき。私はこの間違った世界を正しに来た!」
「間違い探し過激派……!」
木上さんはひとしきりボケて満足げしたのか、ニヤニヤしていた。可愛い。周りに聴こえてたらと思うと恥ずかしいけどこのおかげで許せる。
ボブカットと眼鏡は学校と同じ。オーバーサイズのジャケットとワイドパンツにニット帽、私服が新鮮で最初に見た時はドキドキした。でも話しだすと見た目どころじゃなくなって馴染んでくる。
その後はサクッと普通に注文。俺はハンバーグセット。木上さんは和風パスタ。ドリンクバーは二人とも。
デート、兼ネタの打ち合わせ。というけどメインはネタの方だと思う。
「文化祭目指して頑張ろうね。とりあえずさっきのやつもっと面白くできるかな。どんどんアイディア出してね」
「いや、まだ何ヶ月も先だけど?」
「プロの芸人さんが一本のネタ作りにどれだけ時間かけてると思ってるの?」
「そりゃあ、まあ一日二日じゃできないだろうけど」
「人それぞれだよ」
「うん。当たり前の話だね」
「だから私達なら多分ギリギリまでサボってイチャイチャしてても大丈夫」
「ぶっ!」
噴き出しそうになって、慌てて手で押さえた。
危ない危ない。ちょっと破壊力が高かった。
求められてたのは「死亡フラグ」とか「夏休みの宿題最終日にやるタイプ」とかのツッコミなんだろうけど。正直否定したくなかったし、不意打ちで余裕がなかった。
木上さんは不思議そうな顔で俺を見つめてくる。慣れてきたはずなのにドキドキしてきた。
「……どうしたの?」
「いや、うん、なんでもない……」
「そっか、やっぱり遊んでないで真面目に勉強しなきゃダメだよね。それじゃあ本番まで一日百本とかやり込んで……間違い探しを極めよう」
「間違い探し過激派!」
ボケのおかげで元通り。有り難いような、残念なような。普通のデートじゃなくても、木上さんが楽しそうだから良しとしようと決めた。
たっぷりネタのアイデアを出し合って店を出る。
楽しいし可愛い。充実した時間だった。
でもやっぱり物足りなさはあった。漫才優先で恋愛は二の次の感じが寂しい。強引にいって嫌われたくないから、文句は言わないけど。
木上さんは上機嫌だ。
「やっぱり良いね。二人ならすごくはかどるよ」
「なら良かった」
「これで究極の間違い探しが作れるね」
「まだ過激派引っ張るの!?」
「君とはもうやってられないよ」
「いやそれ俺の台詞!」
「どうもーありがとうございましたー」
木上さんは律儀に一礼。漫才のシメのやりとりだけど、俺はどうすればいいか困惑していた。
沈黙。二人で見つめ合う。
そして木上さんは小首をかしげて、ささやくように言った。
「……これでもう、ボケとツッコミじゃなくて彼氏と彼女だよ?」
彼女はほんのり顔が赤いような、いつも通りのような。期待による錯覚かもしれない。
それでも彼女は、ツッコミではないものを求めていた。
ノリが合うし、一緒にいて心地良い。だから、お笑いだけの関係じゃない。恋愛は二の次だなんて決めつけは失礼だった。
俺は顔が熱くなるのを感じながら、手を差し出す。
「じゃあ、さ」
「うん」
握った手の平も、熱い。
しっかりと手を繋いで、寄り添って、俺達はデートを続けるのだった。
憧れのデート 右中桂示 @miginaka
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