JKだけど朝起きたら手がハサミになっていたので魔王を倒します!
加藤ゆたか / Kato Yutaka
JKだけど朝起きたら手がハサミになっていたので魔王を倒します!
朝起きたら頭に猫耳が生えていた。
「何これ……?」
ついでにお尻には猫のしっぽも生えている。
「妹! 体は平気⁉」
「お姉ちゃん?」
姉が慌てて私の部屋のドアを開けて入ってきた。
姉の手はハサミになっていた。
ハサミというけど、金属的なやつじゃなくてカニのハサミみたいなあれである。
「お姉ちゃん。私は変な猫耳としっぽ以外平気だけど、お姉ちゃんのその手は何?」
「どうやら魔王が現れて人間を魔物に変えようとしてるらしいのよ。」
「ええ?」
姉はハサミを動かして言った。グーパーの要領で動かすと閉じたり開いたりできるらしい。まあ、チョキなんだけど。
「魔王って……、現実の日本でそんなことありえるの?」
「テレビのニュースでやってたんだから間違いないよ。」
「そっかあ。」
寝間着から着替えてリビングにいくと、テレビはずっと魔王のニュースで持ちきりみたいだ。さすがのテレ東でも魔王が出てくるアニメをやっている。
私は姉がコーヒーのコップを持ちにくそうにしていたので取って口に運んであげた。
姉の腕とハサミの継ぎ目は綺麗に繋がっていて、どう見ても完全に手がハサミになっていた。
姉は悲しそうに言った。
「もう、ネイルとか、できなくなっちゃったのかな……。」
「お姉ちゃん……。」
姉はハサミになった手を見つめて、そっと撫でようとしたみたいだけれど、両手ともハサミなのでガツンとハサミがぶつかる音がしただけだった。
姉はまだ寝間着のままだ。ハサミが邪魔で着替えもできないのだろう。
これではオシャレができないどころか、日常生活にも支障をきたしてしまう。
姉はバリバリ現役のJKである。
「妹。私、決めたよ。魔王を倒す。」
「魔王を?」
「うん。ほら、私JKだし、さっきテレビでね、日本政府が魔王討伐の勇者を募集してるって言ってたの。」
「日本政府が。」
「こんなハサミの手じゃ勇者の剣は持てないかもしれないけど。」
勇者の剣。私は今まで十数年をこの日本で生きてきて、その存在を聞いたことも考えたこともない。でも魔王がいたのだから実は勇者の剣もあるのだろう。姉がそう言うのだし。でも本当は警察とか、アメリカとか、なんかそういうのに任せた方がいいのでは? とも思う。
はたして姉が勇者になって魔王を倒す必要があるのだろうか?
私は頭の猫耳をぴこぴこと動かして考えた。
「妹。その猫耳、動かせるんだね。」
「あ……うん。なんか頭に意識を集中したら動かせた。」
「可愛いね。」
「えへへ。ありがとう、お姉ちゃん。」
「私の手はハサミなのに。」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。」
その時、緊急魔王速報という字幕がテレビに流れた。
そしてテレビの映像が切り替わる。
「あっ、魔王だ! 魔王が会見を開くらしい!」
「魔王、テレビに出るんだ。」
テレビに顔色の悪い強面の男が映し出される。
『日本のみなさん、はじめまして。私が魔王です。』
テレビに映る魔王が言った。日本語だった。
『日本のみなさんにお願いがあります。世界征服を手伝ってほしいのです。』
ええ? やっぱり魔王の目的って世界征服なんだ……。
「魔王! そこにいるのね! 妹、私ちょっと行ってくる!」
「え? お姉ちゃん⁉」
姉はテレビに映る魔王を見るやいなや家を飛び出していった。
『おりゃああ! 魔王、覚悟!』
そして次の瞬間にはテレビに映り込んでいた。
姉のハサミが魔王の頬を打つ!
「どういうこと⁉ カニって瞬間移動が使えるんだっけ⁉」
ああ、でもダメだ。姉は勇者の剣を持っていない。あれでは魔王を倒せない。
「お姉ちゃん! ダメだよ! 帰ってきて!」
私はテレビに映る姉に向かって叫んだが、もちろん私の声はテレビの向こうの姉には届かない。
そうこうしているうちに姉の大きなハサミは魔王の頭に何度もヒットしていた。
魔王が反撃しようとするも、魔王の攻撃は姉に当たらない。正確には当たったと思ったら姉の姿がすっと消えてしまう。たぶんあれは実体がないのだ。そしてまた別の角度から姉が現れて魔王を殴る。
「すごい! お姉ちゃんが分身の術してる! これ……本当に倒せちゃうんじゃ……。」
私がそう思った時、突然剣を持った男性が乱入してきて姉と魔王に斬りかかった。
『うおおお! 魔王、覚悟!』
『えっ⁉ ちょ、ちょっと⁉』
『ガッキーンッ!』
『くっ! このハサミ女、邪魔するな! 俺こそは勇者! 魔王を倒すのは俺の役目だ!』
この人が勇者⁉ なんか普通の人っぽくてちょっと残念な感じがするけど……。
自称勇者が持っていた剣は幸いにも姉のハサミに当たり弾かれた。
さっきまで姉にボコボコにされていた魔王が姉の背中に隠れる。
「はぁ? いや、魔王弱すぎ! 剣はズルでしょ! お姉ちゃん!」
どうしよう! 今度こそ姉が危ない!
でも猫耳としっぽが生えただけの私に何ができるというの⁉
姉たちがいるテレビ局にも行けないし!
『魔王を庇うならまずはお前からだ!』
テレビの中で自称勇者の剣が再び姉に襲いかかる!
「お姉ちゃん!」
『うおおお! JK舐めるなし!』
『な、何ぃいい⁉』
姉が両手のハサミを構えるとピカッと光が発せられ、自称勇者がふっとばされた!
「す、すごい! でも、カニってここまでのことができるんだっけ⁉」
テレビの中で姉がハサミを高くかかげて勝利宣言をした。
自称勇者も魔王も、姉の前で深く土下座した。
この映像はその後もテレビで何度も流れたし、ネットでも何度も配信された。姉はちょっとした有名人みたいになってサインくださいなんて声をかけられることもあったみたいだけど、やっぱり両手がハサミのJKは扱いが難しいみたいで次第に映像も使われることは減っていった。
「結局、魔王も勇者も私たちと同じように変わっちゃった人だったんだね。魔王が原因じゃなかったんだ。」
「うん、原因不明のまま。」
「お姉ちゃん。せっかく有名人になれたのに良かったの?」
「いいよ。だってよく考えたら私寝間着姿のままだったし。それは可愛くないじゃん。」
「あはは、そうだね。」
姉のハサミも私の猫耳もまだ元には戻らない。
でもなんとか生きてる。
姉のハサミはキレイにペイントが施されて、可愛らしいシールなんかが貼ってあった。
姉が両手のハサミを上に向けて笑った。
「フォ、フォ、フォ、フォ!」
「なに、その笑い方?」
案外日常なんてこんな風に、ある日突然変わっちゃうものなのかもしれないなと私は思った。
JKだけど朝起きたら手がハサミになっていたので魔王を倒します! 加藤ゆたか / Kato Yutaka @yutaka_kato
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