王子はもちろん最強です!

咲森 こう

その男こそ最強。

「者ども下がれぇぇぇぇい!!

ここからは王子の出番じゃあ!!」


ここはダンジョン最深部。

目の前の強大な敵は最早虫の息。


キラリと光るモノクルの奥。

全ての「最適」を見極めた

究極有能万能執事長「じいや」が全力で叫ぶと


背後で控えし「我らの最強」が

満を持して登場する。


「讃えよ!皆の衆!!!

容姿端麗!!成績優秀!!

手に持つ剣はあのっっっ伝説の剣!!」


じいやの前口上に、

その場にいた者が全て膝をつき

『彼』の登場を待ち焦がれた。


「よっっっ!!待ってました、王子!!」


最前線から一歩飛び退いたトリックスターが盛大に拍手すると、

腰の短剣が短いリズムでチャラチャラチャラ!と鳴り響く。


「王子…!!足元にお気をつけて…!

ここは危険ですのよ…!!」


後方から過保護に声をかけるヒーラーは、

巨大な胸に溢れんばかりの母性本能を滲ませる。


「控えろ、二人とも。王子の邪魔になる。」


長刀の柄に油断なく手をかけたまま

片膝をつく侍は、

騒がしい仲間の様子に低く声を漏らす。


「…だいじょうぶ。おうじなら、やれるから。」


魔法使いは幼く見える小さな身体で

大きな杖に寄りかかるようにして立ちながら

彼に対しての絶大なる信頼を短く伝える。



「彼こそ我らが救いの勇者!!

ご紹介しましょう!!んんんんんんん!!!

獅子王!!レオぉぉぉぉぉ!!!王子ぃぃぃぃ!!」


コツ、コツと響くブーツの音。

肩に乗っている可愛いライオンの子が

彼の余裕を表すように「にゃあ…」と一声眠そうに鳴き声を上げた。


「待たせたな…皆んな…。」


「王子!!!」


「レオ様!!レオさまぁぁ!」


手に持ったままだった長剣を

一度軽く横に薙ぎ払うと、

剣身に薄くへばりついていたモンスターの体液が

後方へと飛び散る。


「…途中でオレの邪魔をするやつがいて

遅れてしまった」


「王子の邪魔を…?

ああっ、なんてこと…お怪我は…

お怪我はありませんか?レオさまっ…!」


心配から卒倒しそうになるヒーラーの肩を

行きがけにぽん、と叩いて粋にウィンクを送る。


「まあ…スライム程度…。

さして苦労はしなかったさ。」


安心させようと明るく言うその姿に

トリックスターが「ヒュー♪」と口笛を鳴らす。


「流石俺らの王子!

よっ、気遣い名人!!」


「やめろ。…今はそんな時じゃないだろ?」


冗談めかして肩をすくめて答えると、じいやが焚きしめるスモークをゆっくりと蹴散らしながら歩いて行く。


彼が…彼こそが最強の名を欲しいままにする

ラディアント王国、第一王子

レオ・ラディアント。


人呼んで「最強王子」その人である。


「さあ、行こうか。

準備運動なら…済んでるぜ。」


足元に倒れ、息を荒くする巨大なモンスターを前に


長剣を構えてニヤリ、と口角を上げると

レオはぐぐっ、と両足に体重をかけ

小さく息を吐く。


「スリー…トゥー…?ん、ワン…。」


カウントが減るのを

仲間たちが固唾を飲んで見守り

そして…


「ん、ゴォっ…!!!」


モンスターへと飛び掛かったその時…!!!


神の悪戯か…

数歩先に転がっていた小さな果実程度の岩が

彼の足を捉え、その結果


「あああああああああ!!!!!!」


勢いのまま、レオは顔面から地面へと

思い切りスライディングしてしまう。


途端に上がったのは、

背後に控えていた従者達の派手な叫び声。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

レオさまぁぁぁぁ!!」


駆け寄ったヒーラーは

スライディングしたままのレオの側に

素早く走り寄り、

最強の回復魔法をかけまくる。


「ご無事ですかっっ??

お美しいお顔は、っ…?!!

い、いやぁぁぁ!!!こんな!こんな所に傷が!!

じいや!!セバス!!セバス・チャン!!!

レオさまのっっ!!レオさまの新しい鎧を!!!」


ヒーラーの合図と同時に滑り込んできた

じいや、セバス・チャンが

目にも止まらぬスピードでレオの鎧を

新品と交換した。


「ぼっちゃん!!!レオ王子っっ!!

平気ですかいっっ???!

ちくしょう!!!これか!!

ぼっちゃんを攻撃しやがったクソヤロウは!!」


後方から音も立てない素早さで

レオの転倒の原因を作った岩の前に

踊り出たトリックスターを


同じ速さで駆け寄った侍が

刀で静止させる。


「落ち着け、馬鹿者!!!

こやつは我らがラディアント王国にとって

大罪に…大罪岩だ!!!


キェェェェェイ!

おのれ、っ…!!速やかに連行し、

国全体で思い知らせてやらねば…!!!」


長髪を振り乱して

取り憑かれたように、侍が早口で叫ぶ。


その後ろでは、

更に魔法使いがレオの横にしゃがみこみ、

懸命にその頭を撫でながら伝える。


「レオ…つよい…。

こんなにころんだのに…なかなかった…。


すごい、えらい。ほんとうにえらい。」


新しい金ピカの鎧を着込み、

そんな仲間の様子を座ったまま見つめていたレオは


ふ、と不安そうに呟く。



「な、なぁ…皆んな…。


もしかしてオレは…やっぱりその…。


よ。


………。


弱い、の……


……では……?」


その瞬間、その場にいた全員…いや、

転倒の際に王子の肩から転がり落ちて

少し離れた地面でのんびりと伸びをする

小さな獣以外の全員が


一瞬の空白の後

レオの前に音速で集結して断言した。


「いいえとんでもないっっ!!!!


王子はもちろん!!最強です!!!!」


ヒーラーいわく。


「レオ様ほどお優しく

高潔な方はいらっしゃいません!!


雨の日、園庭で濡れていた

小さな子猫にそっと傘を差し出していたあのお姿!!


全ての従者が泣き濡れましたのよ!お忘れですの??!」


トリックスターいわく。


「俺と坊ちゃんの

あの冒険の数々を忘れたんですかいっ???


あのトカゲ…いやっ!ドラゴンを前に!!

俺を庇って前に走りでたあのお姿っっっ!!


っかーー!思い出しただけで痺れる!!

酒場でどれだけ話題に上がってるか!!!」


侍いわく。


「レオ殿との修行の日々を

思い出さぬ日はござりませぬ!!


泣きながら重たい剣を必死に振るわれるあの姿…。

男泣きに泣いたあの素晴らしき日よ…!!

ああああ…尊い…尊いぞ、尊いっ…!!」


魔法使いいわく。


「レオは、やさしい。


いつもお菓子をわけてくれる。


国のこどもたちも、笑顔であそんでくれる

レオのことが皆んな大すき。

それを忘れたらだめ…。」


執事長は…言わない。

口を開かぬまま、他の者の意見に

うんうんうんうんと頷いている。


四人同時に目の前でヤイヤイヤイヤイ言われている内に

レオのぽかん、とした表情は少しずつ変化していく。


頬に赤みが刺し、目には本来の輝きが戻った時、

彼の胸の内にもまた力強き応援の声が響き渡った。


「そうだ…。

オレはレオ…。


レオ・ラディアント…。


オレこそ最強の勇者であり、王子!!!」


勢いよく立ち上がった姿に、全員が拍手喝采を送り


うつ伏せで倒れていた上体を少しだけ起こして

律儀にこちらの様子をうかがっていた

巨大モンスターに向けて…


レオの背後から、無言の圧を強烈に送り始めた。


『分かってるよな…???』


『分かってるよな?!!』


『読めよ?空気を…。

空気を読めよ??』


四人の瞳が強くギラギラと輝きを放つのを見て、

巨大モンスターは思い出す。


一体『誰らが』。

このダンジョンで最強を誇っていた

我が部族をあっさり蹴散らし、

けちょんけちょんになるまで

この巨大を小突き回して


トドメまであと一歩という所まで

弱らせるに至ったのか。


『分かってるよな?!!!!!』


「ひっ…。」


眼光に射抜かれ全身から脂汗を流して

動けなくなってしまったモンスターの前に

じりじり、じりじりと両手で長剣の柄を握りしめ

たままレオが近付き、そして…


しゅっ…!!!


丁寧に横へと払った剣の切先が、

モンスターの腕に薄く傷を作った。


「…………。」


困惑したモンスターが、後ろの四人を不安そうに見つめると、

四人は無言で己の首を親指で切り捨てるようなゼスチャーを行う。


それを見た瞬間、全てを悟ったモンスターは


「ご、ああああああああああああ!!!!!」


派手に叫び、一度立ち上がってから

喉元を押さえて後ろに大きな音を立てて倒れ込む。


「…あ。」


一瞬倒した相手を同情するかのように見つめたレオだったが…


「やったぁ!!!」

「さすが坊ちゃん!!!」

「やりましたな!」

「すごい、えらい!」


と、後ろから駆け寄った者たちに囲まれて

褒めちぎられキョロキョロと周りを見回した後



「へ、へへへ…♪」


照れたように頭に手を伸ばすと、

フワリとした金髪を掻いて小さく笑う。


それを見た従者たちは、強烈な衝撃を受けて

心臓を押さえてしゃがみ込む。


彼らの想いはひとつ。


———うちの王子、最強に可愛すぎるっ……。


「さーあ、レオ様っ!帰りましょう!

先ずはお風呂ですわっ!!

わたくし、お身体の傷を隅々まて確認しなければ

納得しませんわよ!」


「い、いいって…。

レイアは心配症過ぎるんだよ…。」


「おっと、坊ちゃん!!

今夜は俺たちとの祝盃にも付き合ってもらいますよ!

秘蔵の酒を持ってきます!」


「レイア!ジグ!!

やめんか!!馬鹿めらが!

殿はお疲れだ!!

先ずはしっかり休息される事こそ必須!!」


「なんですの??ササキ!!

ご自分ばかりレオ様の心配をしているとでも?」


喧々諤々と言い合う3人を尻目に、

誰よりも身長の低い魔法使いが

子ライオンを腕に抱いてレオにさしだす。


「はい、レオ。

あなたのプリン。忘れていったらだめ。」


「ありがとう、トゥイニー。」


受け取ったプリンを定位置である肩に乗せると、


小さなライオンは「くわぁ…」と眠たそうに

大あくびを漏らす。


「失礼いたします。」


トゥイニーがレオと手を繋いだタイミングで、

執事長セバス・チャンが逆の手に握られていた

抜き身の剣を預かり、

恭しく頭を下げる。



そして……。


「獅子王、レオ・ラディアント殿下、

ご帰還でございます!!!」  


いつの間に用意されたのか。


ダンジョンの出口へと続く

真紅の絨毯の上を

最強と言われる王子レオと、

彼を敬愛してやまぬ者たちとが

誇らしげに進みゆく。


今日も彼がやってくれた!

万歳、レオ殿下!!


彼こそ我らの最強の王子!

レオナルド・ラディアント!!







…ここから先は蛇足。


本作品が1話で終わる短編なれば

必要のない展開。


読むも読まぬもあなた次第…。




「………。」


彼らの高らかな笑い声が完全に聞こえなくなるまで死んだふりを続けていたモンスターが、

ようやくそろり…と動き出した時…。


目の前でにこやかに微笑む人物に気付き、

ぎくり、と身を固くする。


「…おや。察しが良い。

これにて退場。お疲れ様でした。」


答える前にモンスターの身体には、

先ほどレオが手にしていた剣が

深々と突き刺さり、そのまま霧散して

キラキラと輝く宝石に変化する。



その人物は、足元に転がった宝石を

白いハンカチを使って拾い上げて

胸元へとしまいこむ。


「……我らがラディアント国よ、

永遠なれ。」


モノクルの奥で光る鋭い眼光。


こちらに気付くと、

薄い唇に人差し指を当てて

しーっと呟き


再び深く頭を下げた。



「この続きはまたいつか。


皆々様。ごきげんよう。」







——王子はもちろん最強です!——

完。





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