手の無い国
タヌキング
手が無い
私は一大決心をして危険な国を旅することにした。約100万円の滞在許可書を買って、安全の為にガイドを付け、そうして町を歩きながら異様な光景に目を奪われた。
その異様さというのは、この国の人間は手が無かったのである。というのもこの国の王様が残酷な人で、王族や貴族以外の手を切断するという法律を作った。ゆえに国民の手首から先が無いのである。生まれてくる赤子も生後間もなく手を切断される。あのモミジの様な愛らしい手が切断されることを考えると身の毛がよだつ。およそ人間のすることではない。
王様に謁見できるというので、町中を探索しながら王城を目指した。事故で手が無い人は見たことあるが、人為的に綺麗に手を切断された人々の腕を見ると本当にやるせない気持ちになる。
私は路地裏で毬突きをしている赤い服を着た女の子を見つけた。もちろん毬を突いているのは手ではなく、手を切断された腕の先であった。その子にこんな問いかけをしてみることにした。
「手が無くて不便じゃないかい?」
するとゾッとするような答えが返ってきた。
「手って何?」
王城に到着すると、その高さ、その煌びやかな装飾に目を奪われた。堅牢な石造りの城壁は敵の如何なる攻撃にもビクともしない、そんな主張がされているようで、これからこの建物の主に会うと思うと足が震えてきた。
王の間は全てが金色で、眩しくてとても凡人の私では一時間も居れない様な場所だった。これ全てが金だとしたら一体どれほどの値段になるのだろう?そう考えていると、これまた立派な玉座に座る王が話し掛けてきた。
「旅人よ、よく来られたな。まぁ楽にしてくれ」
小太りで真っ白なひげを蓄えた老人。頭は剥げているのだろうが、頭には立派なダイヤの装飾をされた王冠が乗っていた。これがこの国に手を無くす法律を作った男だと考えると緊張で手が少し震えた。自分の言葉一つでこの手が無くなるかもしれない、そう考えると怖くて仕方ない。
「そう怯えることは無い。その首から下げている滞在許可書を無くさない限り、お前の手は付いたままだよ、あっははははは♪」
本人は冗談のつもりなのだろうが、たまったものではない。全然冗談に聞こえないが、とりあえず私は愛想笑いをした。
「それでワシに何か質問があるんじゃないかな?」
目を輝かせる王様。きっと自分が何を言われるか分かっているのだろう。私は恐怖と緊張を押し殺して単刀直入に聞くことにした。
「何故、国民の手を切り落としてるんですか?」
私の質問に王様はニタニタしながらこう答えた。
「そりゃお前、ワシに逆らわせない為さ。手が無ければ、文字通り討つ手が無いからな。これを考えた時に自分は天才だと思ったね♪手が無ければ銃も剣もまともに握ることが出来ない。反逆を考える頭があっても、それを行動に移す手が無ければどうすることも出来ないだろう?」
それを聞いてゾッとした。確かに手が無ければ細かい作業は出来ないし、戦うことも難しいだろう。だがしかし、一国の王として国民にそこまでのことを強いることが出来るのかと信じられなかった。
「他に質問はないのか?」
王様はまだ喋り足らないといった感じだったが、こんな王に何を聞いたところでまともな答えが返って来るわけが無い。けれど、これだけは聞いておくことにした。
「これからもアナタは国民の手を斬り続けるのですか?」
「そうだ、少なくともワシの生きている間はな。ワシは長生きするぞぉ♪」
悪魔のような笑みを浮かべる王様。私は帰国の際の飛行機の中でも、その笑顔が頭に焼き付いて離れなかった。
王様が死ぬのが先か、それとも国民が手が無くても王様を排除しようとするのか、それは私にも分からないが、手があって指を動かせることが幸せなのだと、今はしみじみに思う。
手の無い国 タヌキング @kibamusi
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