自信過剰な配信者

@machi313

第1話

自信過剰な配信者

 

20時ちょうど。配信が始まる。

待機画面から映像が切り替わり、画面中央でナコが微笑むと、コメント欄が一気に加速した。ナコの配信はじまりの挨拶は「ナコちゃ」や「わこナコ」が多いが、有料会員だけが使えるスタンプを押したり、「こんばんは」とか「こんばんナ」と言う人もいて様々だ。配信はじまりのわくわく感が一気に高まる。ナコは画面中央でにっこりと微笑んでコメント欄が落ち着くのを待ってから、お決まりの挨拶をした。

「今日はバトロワで遊ぼうかなって思ってるよ。みんな、遊んだことある? この配信ではね、たまーに、やってるかな。ずっと見てくれてるひとは知ってる? かも」

《知ってるーー。》

《楽しみ。》

「コラボでやることが多いんだけど、今日はマッチングしてみようかな」

ナコは言いながらバトロワを起動し、ナコ自身の映像を縮小して右下に寄せた。しばらくするとマッチングが完了し、ゲーム映像は飛行機の中に移る。バトロワは、百人のプレイヤーが同一マップ上に配置され、最後の一組になるまで殺し合うバトルロワイヤルゲームだ。プレイヤーは、常に安全圏と呼ばれる円の内側にいる必要がある。五分おきに円が狭められていく仕組みだ。

「るきちゃん。初めましてー。早速だけど、どこで降りる?」

言いながら、ナコはるきのステータス値を拡大表示した。ピロン、とミュートにした音。ミュートにしている間は、ナコの声は仲間のるきには届かない。

「初心者っぽいね。ナコが主導権取った方がよさそう」

「初めまして」とるきの声が重なるが誰も聞いていない。

《わあ……》

《ナコち、大変じゃん》

「大丈夫、任せて!」

ピロン。ナコがミュートを解除した。

「だいたいね、この辺りに安全圏の円が出ることが多いんだよね。だから、この辺がおすすめかな。序盤、敵も少ないし」

るきが頷くのを待って、タイミングを測る。

「じゃあ、行くよ? 3、2、1、ゴー」

二人で飛び降りた。程なくして、パラシュートが開き、地上がどんどん近づいてくる。降りたところは、森の中の廃墟だった。バラックが幾つか立っている。バラックの中に武器や食料などが落ちているので、まずは各自必要なものを回収し、装備を整える。

「エナジードリンク拾えた? 武器はね、短距離用と中距離用を揃えておくのがおすすめだよ」

ナコの言葉に、「拾えました!」とるきが答える。

「了解!じゃあ、移動しようか」ナコは近くに停めてあった車に乗り込むと、バラックに横付けする。

「乗って」

るきが乗り込むのを待って、発車する。森を抜け、草原を走る一本道は、とてものどかで美しい田園風景だ。

「ねえ、るきちゃんは普段どんなゲームしてるの?」

「最近は、何でしたっけ、シュウマツの……」

《シュウマツの黙示録かな?あれ好き》

《最後に記憶失った主人公が仲間と一緒に捕まって、「犯人だと名乗り出るかどうか」って聞かれるんだよね。仲間とは相談できなくて、二人とも犯人だって名乗り出たら五年、二人とも黙秘なら二年、片方が黙秘なら、名乗り出た方は即釈放、黙秘した方は十年の実刑》

《えぐい選択肢出るやつ》

「シュウマツの黙示録?」

「そう、それです!」

「ナコまだそこまで行ってないんだけど、最後さあ、捕まって、犯人かどうかって聞かれるじゃん? もし実際そういうシチュエーションだったらどう答える?」

「相手との関係性にもよると思いますけど、名乗り出ますかね。二人とも黙秘した方が効率はいいですけど、記憶なかったら相手を信頼できないと思います」

「そうだよね。でもさ、一発で五年とか十年の実刑って結構な犯罪してるよね。それって、相手を信頼してるってことじゃない?」

「確かに」

《さつじん?》

《確かに、信頼してないと共犯になれないよね》

《ナコちが誰かを信頼するとかw》

ピロン。「ナコが誰かを……何か言った?」ピロン。

《ごめん》

そのとき、銃声が二発、立て続けに響いた。

「撃てる?」ナコは鋭い声で言い、るきが反応する前に車を停める。停めた瞬間にまた二発食らった。ナコは窓から身を乗り出して応戦した。一発、二発。彼方で血飛沫が上がる。

「仕留めた」

《早》

《ナコち、さすが》

《信頼……w》

「ありがとうございます、すみません、反応しきれなくて」るきが申し訳なさそうに言った。

「いいって」ナコは運転を再開しようとしたが、車は動かなかった。

「ああ、タイヤやられちゃってるね。仕方ない、歩いて行こうか」

「はい!」

大通りから道を逸れて、草原の中を走る。るきが後に続いた。草の丈は高く、大通りを走るより敵から見つかりにくい。

「さっきの話ですけど、もし相手が愛する人だったら、ナコさんどうします?」

「名乗り出るかな」ナコは即答した。

「ナコが黙秘した場合、相手は無罪放免の可能性あるってことでしょ? 大きな犯罪して無罪放免されたら、きっとまた同じことしちゃうと思うんだよね。だから」

「一緒に塀の中にいた方が安心だってことですか?」

「そう。その場合ナコは十年塀の中だから、サポートしてあげられないしね。まあ、ナコならきっとすぐ脱獄できるけど」

《ナコちの愛情って歪んでるよな》

《サポートw監禁だろww》

ナコは突然止まった。

「今、目線左の奥、木のところに敵がいるの、見える?」

「はい、見えます」

「まだこっちに気づいてないから撃ってみて」

るきに指示しながらナコ自身も同じ敵に照準を合わせた。るきの銃声が響く。一発、二発。るきが二発外したところで三発目をナコが撃ち、血飛沫が上がる。続けてナコは二発撃った。それぞれ、画面中央と中央右寄りで血飛沫が上がる。

「もういない。行こう」

二人の足音だけが響いた。しばらくすると街に入る。ナコはマップで安全圏を確認した。街はちょうど安全圏の外縁すれすれに位置している。

「接近戦になるからナコから離れないで」

るきは無言でついてきた。ナコは、一番近い建物に走り寄った。視界が開けたところにいるのは危険だ。残りの人数は十人を切っている。目の前の建物の左側から一人敵が現れ、ナコはショットガンで応戦する。その時、るきがナコの逆、建物の右側に向かって走っていくのが見えた。チッ、とナコは舌打ちする。そのとき、建物の右から敵が現れ、るきが素早く走り込んで敵を仕留めた。

You win!!

 画面に大きく表示された勝利宣言を、ナコは呆然と見つめた。

《GG!》

《ナイスー》

「接近戦は得意なんですよね」と、るきは微笑んだ。

 

シュウマツの黙示録の、件の質問の正解は黙秘だ。主人公が黙秘を選択し、十年の刑を大人しく受け入れることによって、無罪放免された仲間が主人公の脱獄の手助けをし、協力して本来の目的を果たす。その正解の選択肢に行き着くまでに、ナコはどのくらい試行錯誤するんだろう、と、みんな考えていた。ネタバレになるからこれ以上は言及しないでおこう、と互いに牽制しながら。

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