スカウト職も悪くない

ティー氏

これが私の仕事、報酬は肉だ。

 鬱蒼うっそうたる森の中を、羽根が撫でてくるような風の速度で進む。

 人間の背丈を優に超え何倍もある樹々の枝から枝へ、樹海とも呼べるこの場所をスカウトとして偵察するのが今の私の仕事だ。

 とにかく私は目が良い。私以上に目を活かしている存在は知らないし、私以上に機動力がある存在も知らない。偵察という仕事はまさに天職だ。


 私に偵察を命じた人間が言っていた、今回の獲物は豚人間――オークらしい。

 アレは良い肉だ。その巨体とは裏腹に肉は柔らかく、量もある。

 仕留めた後を想像し身体に力が漲る。より一層、仕事に身が入るというものだ。


 しばらく進むと、視界の隅で影が映る。

 何かがいると本能が訴えた。

 正体を確かめるために急旋回し、自慢の機動力で通り過ぎる。


 やはり私は優秀だ。

 獲物であるオークが、地面に落ちている木の実や土を掘り起こして虫を食っている姿を発見した。

 オークは雑食だ。目に映ったモノは食べれるなら何でも食べる。故に、獲物が見えたら追いかけてくる習性がある。


 樹の枝に止まり、オークを見下ろす。

 

 さて、仕事の時間だ。


 ピーッと、口から音を発する。甲高い音が周囲に伝播していく。

 オークも私に気づき、獲物だと判断したようだ。間抜けな奴だ。肉として食われるのはお前の方だというのに。


 わざとオークの目の前に姿を見せて逃げる。

 オークに合わせて速度を調整し、掴めそうで掴めない絶妙な距離感でオークを誘導する。涎を垂らし、脂肪を揺らし、地面がオークの足で唸っている。


 対して私は、高音を発したまま移動していく。オークには私が必死で逃げようとしている鳴き声に聞こえているだろう。

 

 仲間がそろそろこの知らせに気づくはずだ。

 私を夢中で追いかける無防備なところを、突然攻撃を加えて仕留める……いつもの私たちのやり方だ。


「レオーン!」


 私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 それに応えるように、先ほどよりも一段と高く響く音を発する。


 オークの目の前から、枝の上へ移動する。これで奴の目は上に向けられ、死角が出来た。

 その巨体と手を伸ばして私を捕まえようと醜い顔を晒している。


 私の視界に銀色の煌めきが走った。

 私に夢中だったオークが地面に倒れる。足の腱を斬られたのだろう。呆けた声が聞こえた刹那、オークの首が飛んだ。


「はーい、お仕事完了。お疲れレオン」


 私に向かって手を振る娘。冒険者の恰好をした彼女は、その剣の技量から分かるようにかなりの手練れだ。正直なところ、私の能力は彼女には必要ないことだろうが、どうやら彼女は私と離れたがらない。私としても、報酬である肉が無くなるのは困るのでお互い様である。


 彼女が腕を私に差し出す。いつもの合図だ。


 枝の上から飛び降りて、レザー装備がされている腕に停まる。

 

 その動作で偶然抜けた羽根がひらひらと舞った。


「レオンは相変わらず優秀だねぇ、よしよし」


 優しく撫でられてくすぐったい。


「キッキッ」

「はいはい、ご飯ね」


 懐から干し肉を出されて、彼女からそのまま口に与えられた。


「帰ったらお腹いっぱい食べさせてあげるから、今はそれで我慢ね」


 干し肉を食べ終えると、今度は周囲の警戒に移った。

 その間、手際よくオークが血抜きされ、部位ごとに分けられる。獲物袋にオークが詰め込まれると


「さっ、帰るよレオン」


 呼ばれて空いた肩に停まる。

 首元を手でさわさわと撫でられた。

 

 この仕事の対価はオークの肉だが、この一生で一番の報酬は彼女の手だ。

 この優しい感触のために、明日も頑張ろうではないか。


 私はレオン。彼女の唯一の相棒である、鷹のレオンである。

 誇らしくも凛々しい顔が、彼女の撫でテクニックで蕩けていた。

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スカウト職も悪くない ティー氏 @TEA_JPN

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