人間不信になった僕

第1話  浮気されました。――高雲太陽




僕、高雲太陽たかぐもたいようは、この春に高校二年生になった。

高校二年生といえば、早い人であれば既に大学受験へ向けて勉強したり、就職について考える人もいるだろう。

そんな僕も、大学へ向けて塾に通っている。

でも、なにも勉強ばかりしている訳じゃない。

ちゃんと高校生らしい青春を謳歌している。

そう……それは――



「美星!」

「あら、太陽……?」



山河美星やまかわみぼし、春になる前に付き合い出した、僕の大切な恋人だ。

僕から告白して、彼女が受け入れてくれて交際に至った。

ずっとずっと大切にしていきたいと、初めて思えた。

だけど、その想いは一瞬で崩れ去ることになる。



「えっ……み、美星……?そ、その人は……?」



僕の目の前には、恋人だったはずの美星が僕とは違う、別の男性と恋人繋ぎをして歩いている光景が広がっていたんだから。

あり得ない場面に出くわしたせいか、心拍数が跳ね上がって心臓がうるさいくらいに脈打っている。

口が乾いて声が裏返ってしまった僕に、彼女であるはずの美星は冷たい眼差しをしながら僕を見つめた。

そして、深い溜め息を吐いて呟いた。



「はぁ〜……最悪、まさかお金を搾り取る前に見付かっちゃうなんて……」



……え?今、なんて……?

聞いたことがない彼女の冷たい声と言葉に戸惑いが隠せない。

冷や汗がだらだらと流れ、身体が小刻みに震える。

それでも、何かの間違いと思って必死に声を出す。



「い、今……なんて……?」



必死だったせいか、再び声が裏返る。

でも、それすら気付かない僕の問いに、彼女は「あっはは!」とさも面白いといった感じに笑った。

いや、嗤ったと言ったほうが正しいか。



「なーに声裏返ってんの?まじキモ!まだ分かんない?あんたは、私のATMになるつもりだったの!お金だけは持っていそうだったし、ブランドものとか理由つけて現金巻き取ろうとしたのになぁ……まさか、こんな場所で会うなんて思わなかった」



山河美星は清楚みたいな外見で、性格も優しいといったイメージだった。

でも、それは本当にイメージだけだった。

僕は、彼女の本質を見抜けていなかった。

勝手に彼女を優しい人だと頭の中でイメージ像を作り上げて、勝手に好きになっていただけだった。

でも、今の僕にはそれを受け入れる余裕がなかった。



「あぁ〜あ……せっかくいいカモ見付けたと思ったのになぁ……ざーんねん♪」



さも楽しそうに、とても残念そうに嗤う彼女は、もはや僕の知る彼女はいなかった。



「おい、こいつか?ATMになるはずだった男は?」



彼女と手を繋ぎながら僕を見下していた男が、嗤いながら美星に訊ねる。

それを悪びれもせずに、くすくす嗤いながら首を縦に振る美星。



「うん、そうだよ。こいつから巻き取ったお金で、一樹くんと遊ぶ予定だったの」

「へぇ、悪い女だなぁ」

「だぁって、こーんな美人で優等生な私がこーんな冴えない男に告られたんだよ?付き合うのは絶対嫌だし、簡単に振るのもつまんないし……!もはや、これはこっちが罰ゲーム受けてるみたいだし?それなら、お金でも取らなきゃ損じゃん?私に告白して付き合えたっていう夢を見させてあげたんだから、その対価は払ってもらわなきゃだったのに!」



次から次へと、息継ぎもせずに語る彼女。

それが本音だと嫌でも理解してしまう。

それでも、信じたくなくて。

夢であってほしいと、信じられずに目を向ける。

でも、彼女は冷たい目のままだった。



「計画がおじゃんよ!あんたに使った私の時間、返してほしいわ!」

「っ……」

「あっ、ショック受けてんの?でもさ、なーに勝手に私に理想抱いて、勝手に幻滅してんの?そういうの自己満だし、めっちゃ迷惑なんだけど?一人で気持ちよくなってて、まじ笑えたわぁ。オナるなら、勝手にしてくんない?」

「ぶはっ、まじそれな!」



僕を馬鹿にしながら嗤う二人。

でも、ショックが大きすぎて反論する余裕すらない。

そんな僕なんてお構い無しに、美星は嗤いながら続ける。



「あぁ、それとね?私達のこと言い触らそうたって無駄よ?あんたの発言なんて誰も信用しないわ。私みたいな優等生とあんたみたいな陰キャ、皆どっちを信じると思う?」



それは……その通りかもしれない、と情けないことだが納得してしまう。

美星は学年トップの優等生、僕は言うなればカースト最下位の陰キャだ。

皆、美星の言うことを信じてしまうだろう。



「あぁ、ついでに言えばね?私、『山河財閥』の一人娘よ?だから、例えあんたが言い触らしても、パパの力でなんとでもなるの。つまり、あんたは詰みってわけ♪」



あの大手企業の山河財閥の一人娘?

そんな話は聞いたことがなかった。

いや、聞かされる必要すらなかったということか。



「で、でも……それなら、なんで……僕をATMになんか……」



そうだ、そんな財閥の娘ならお金なんて持ってるはずだし、学生ごときのお金なんていらないはずじゃ……?



「ちっ……わかんない?あんたは、ただの暇つぶしってことだよ。ATMにすらなれないとか、マジで終わってるわぁ〜」



呆れたような声で吐き捨てる彼女に、僕はつい手を伸ばしてしまう。

何かの間違いであってほしいと、冗談だよって言ってほしくて。

でも、それは本当に愚かな行為に過ぎなかった。



「てめぇ、なに美星に触ろうとしてんだ!」

「がっ……!?」



突然腹部に衝撃が走る。

それと同時に熱と痛さが襲い、僕は地面に崩れ落ちた。

初めての痛みに対し、胃の内容物が全て吐き出されてしまう。



「うわっ、キモ!こいつ吐いたし!」

「陰キャは倒れる姿も無様ってか?」



そんな僕を嗤いながら見下ろす二人。

何も考えられず、何も喋れない。

そんな僕に飽きたのか、二人は仲良く手を繋ぎながら背を向けて歩き出す。



「じゃあね〜?二度と関わんないでね?」



ひらひらと手を振る彼女の姿を見た僕は、未だに腹部を押さえて吐き気と痛みを我慢している他なかった。

そう、か……僕は、裏切られて騙されたのか。

僕の本気の恋は――跡形も無く容赦なく切り裂かれた。



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裏切られ人間不信になった僕だが、どうやら最強の双子義妹が仕返しするらしい 里村詩音 @shionalice1106

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