名誉職になった閻魔大王、異世界(現代)の物語市に転生してしまったので「終わり」を配る係として痛くない地獄を短くします〜スライムと更新地獄の住人にしおりを挟んだら救いじゃなく区切りが残りました〜

アベタカシ

序:通達

「閻魔大王職は名誉職として存続するが、実務は廃止とする」


 冥府の役所に貼り出されたその紙には、朱印が三つも押されていた。三つも押すときは、だいたい「揉めた」か「責任を分散した」かのどちらかだ。閻魔は嫌な予感を抱きながら読み、読み終えたあと、朱印ごと端から端まで引き裂いた。


 閻魔大王が職を失ったのは、地獄が滅びたからではない。

 むしろ逆だ。地獄は、よく、今も溢れている。


 死者の世界の、名誉職。

 閻魔は喉の奥が熱くなるのを感じた。怒りは熱を持つ。地獄の釜の熱ではない。もっと小さく、しかし人間くさい熱だ。


「では、誰が裁く?」

 閻魔が低い声で問うと、役人は笑顔のまま、硬い言葉を返した。


「裁きは分散されました。皆様へ」

「皆様とは誰だ?」

「需要に応じて……」

「需要?」


 その言葉に閻魔は耳を疑った。冥府で需要などと言うな。罪は需要で増減しない。罪は罪として数えられるべきだ。罰は罰として配られるべきだ。――そういう世界を、閻魔は永遠とも呼べる長い間支配してきた。


 その夜、閻魔は眠らなかった。いや眠れなかった。帳簿を開き、頁を繰り、朱筆を握り、空白に怒った。罪状の欄は埋められる。埋めれば裁ける。裁けば終わる。終われば次へ送れる。


 だが通達は、埋めること自体を無意味にした。

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