「花大猫」涙と感動の由来

花大猫

「花大猫」の由来

 花大猫と申します。「大猫」と名乗ることもあります。ていうか、「大猫」と名乗った期間の方が長いかも。


 たまに「犬猫」「太猫」と間違われることもありますが、「大猫」は「大猫」です。はい、デカい猫です。そのまんまです。


 そのまんまなんだけど、このペンネームにした背景を語れば、ほんのちょっと、7ミリくらい世界線を深堀りできるかもしれません。 


 私の本名は玉緒(たまお)といいます。

 この時点で分かる人には分かるのだけど、とりあえず黙って先に進んでください。


 

「いい名前だね」と、誰からも言われます。羨ましがられたりもします。

 この名前は父が付けてくれたのですが、理由は中村玉緒が好きだったから、それだけです。

 吉永小百合が好きだからさゆりちゃん、加護亜依が好きだからあいちゃん、それはいいんです。全然問題ありません。


 でも玉緒、はいけません。これほど身の丈に合わない名前もないのです。中村玉緒は梨園のお嬢様中のお嬢様、そういう人が名乗るべきであって、富山県出身、父方は猟師、母方は漁師という女には全く似つかわしくないのです。


 由来はおそらく百人一首で有名な式子内親王の名歌「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする」と思われます。忍ぶ恋、痛々しくも典雅華麗な言の葉は、粗野で無教養な猟師×漁師の末裔にはますます似つかわしくない。


「玉の緒」とは命という意味だそうです。魂の緒、玉を貫いた糸、解けばバラバラに散って落ちて行きます。

 生後間もなく両親は別居して、その後離婚したので、私は父の顔を知りません。その父にもらったのが命と「命」という意味の名前とは、冗談にもほどがあります。


 そんなわけで長らく自分の名前が嫌いでした。普通の名前になりたかったとずっと思っていました。しかも、ちょっと変わったこの名前のおかげで、私を名字で呼んでくれる人はほとんどいません。どこへ行っても「玉ちゃん」「玉緒さん」です。



 ところで私の夫は中国人です。

 上海出身で日本に住んで四十年近くになるのに、いまだに日本語がド下手です。私は北京に留学していたことがあり、多少中国語ができるので家では日本語交じりの中国語で会話をしています。


 今を去ること三十数年前、夫と付き合い始めた頃、お互いをなんと呼んだものかと話し合いました。名字で呼ぶのもあれだしというので、名前で呼び合うことにしました。嫌いな名前だけど仕方がありません。


 ご存じの方も多いと思いますが、中国語には「声調」というものがあり、音の高低で意味を判別します。同じ発音でも声調が変わると違う意味になります。馬、麻、罵、全部Maと発音しますが、高低差を付けなければ意味が通じません。


 中国人は声調のない日本語を喋っても、なぜか高低差を付けたがります。で、面白いことに「たまお」という日本語の発音に声調をつけると、中国語になったりします。

他罵我(ターマーウォー) 彼は私を罵る

打毛毛(ターマオマオ)  赤ちゃんを叩く

大猫(ターマオ)     デカい猫


 そう、ダンナは「たまお」と呼ばずに「大猫(ターマオ)」と呼び始めたのです。もちろん、その方が発音しやすいからです。

 最初は「なんだそりゃ」と思ったのですが、耳になじむにつれて悪くないんじゃないかと思うようになりました。「玉緒」の呪縛からちょっぴり解放された気分にもなりました。

 ちなみに生まれた息子のことはしばらく「小猫」と呼んでいました。



 1990年代初め、かのニフティサーブに加入して「ハンドルネーム」を登録する際、迷わず「大猫」としました。以来、三十数年、このペンネームを使い続けています。


 「花」はどうしたのかって? 「大猫」だけではいかにも軽々しいので、ひとつ名字でも持とうかと思い、あまり考えずに採用しました。

 ディズニーアニメの「ムーラン」の名前は「花木蘭」で、名字として割とポピュラーだったこともあります。

 が、それ以上の理由があります。「花大猫」の「花」は、「フラワー」の花ではありません。中国語の「花」はフラワーの意味もありますが、「模様、飾り」の意味もあるのです。

「花猫」と言えばまだら模様のある猫です。「花大猫」はまだら模様のデカい猫です。中国語的には「大花猫」の方がしっくりくるのですが、まあ、いいや、ということで。



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