03 : Etude / Overlapping Melodies

 学園の旧講堂地下、数千メートル。

 そこには武雄の歴史のどれにも記されていない、巨大な科学の神殿が広がっていた。

 広大な格納庫には、白銀の04号機だけでなく、他にも幾つかの巨神が鎮座している。

 制服を思わせる直線的な装甲を持つ01号機『エチュード』。

 重厚な盾を背負った02号機『インテルメッツォ』。


 アリアは、施設内の簡易ベッドで目を開けた。

 隣には、豪華なソファで不機嫌そうに紅茶を啜るワカの姿がある。


「目覚めたかしら、アリア」


 声をかけてきたのはカノンだった。

 彼女は既に学園の制服を脱ぎ、体にフィットした薄手の神経接続用ウェアを纏っている。余計な装飾を排したその機能的な装いは、彼女の冷徹なプロ意識を象徴しているようだった。


「カノン……ここは?」


「テツトさんが作った、世界の『バックアップ拠点』よ。SAGA SAGAの綻びを修正し、エコーを排除するための戦場。……これ、飲んで。糖分を補給しないと脳が焼けるわよ」


 手渡されたのは、武雄名物の饅頭だった。

 こんな状況でも地元のお菓子が出てくることに、アリアは少しだけ緊張が解けるのを感じた。


「……説明してほしい。なんで、皆がこんなことをしているの?」


 アリアの問いに答えたのは、部屋の奥から歩いてきたテツトだった。

 彼は白衣のポケットに手を突っ込み、端末のホログラムを操作しながら、アリアたちの前に立った。


「簡単な話だ。この世界……僕たちが生きているこの『現実』は、誰かの記述(コード)によって維持されている。だが、その記述者は気まぐれだ。ある日突然、物語の続きを書くのをやめ、一方的に物語を断絶させることがある」


 テツトの瞳が、ふと険しさを帯びる。


「『SATURATED-BOREDOM』。……そんな理不尽な理由で、僕たちの日常は消去されようとしている。エコーとは、その捨てられた物語の断片がバグ化したものだ」


「……だから、戦うの? 私たちが?」


「そうだ。君たちには、世界の綻びを認識できる特殊な『共鳴率』がある。だからこそ、アポリアに乗ることができる。捨てられた物語を、自らの手で『書き換える』ために」


 沈黙が流れた。

 ワカが、ティーカップをテーブルに叩きつけるように置いた。


「ふざけてますわ! わたくしをこんな地下に連れ込んで、怪獣退治をしろと仰るの!? わたくしの優雅なティータイムを、誰が保証してくださるんですの!」


「ワカ、落ち着けって。テツトさんも、無理やりやらせるつもりはないんだろう?」


 カナタが苦笑しながらなだめるが、テツトは首を振った。


「いいや、無理やりだ。選択肢はない。……今、この瞬間も、武雄の北側に新たな『綻び』が発生している。エコーの出現予測時刻まで、あと一二〇秒」


 けたたましい警報音が施設内に鳴り響いた。

 カノンが素早く立ち上がり、カナタも表情を引き締める。


「アリア、立てる?……次は私とカナタが出るわ。あなたは後ろで見ていなさい。精密射撃と絶対防御の『旋律』がどういうものか、教えてあげる」


 カノンの言葉には、冷徹なまでの自信が溢れていた。

 アリアはふらつく足取りで立ち上がり、巨大なモニターに映し出される「空」を見た。

 そこには、再び走り始めた漆黒のノイズと、それに向かって出撃準備を整える、カノンの01号機『エチュード』の姿があった。

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