私はもう、写真を撮れない。

黄身の味

第1話

私はもう、写真を撮れない


夕映えの時間が一番嫌いだ。

何もかも終わってしまいそうで、落ちていく太陽と沈んでいく心はよく似てる。

でもどこかには、夕映えの空、友達とかけっこしたり、笑い合ったり、喧嘩したり…

そんな誰かが、どこかにいる。

私がいつか写真に収めた夕映えは、涙が出てくるほど綺麗だった。

私はもう、あんな写真は撮れない。

私はもう、写真を撮れない。


風が吹いてくる。

窓から突き抜ける風は曖昧な体温で、心とカーテンだけを揺さぶった。

壁に飾られた写真はびくともしない。

優雅に映る滝の景色や可憐に咲く蓮の花。

こんな写真を見ても、ちっとも何も感じなくなってしまった。

心揺さぶるものはたくさんあって、例えば、文字や言葉…動画や写真。

頭から捻り出した最良の『心揺さぶるもの』は結局現実の光景に勝てない。

この目で見た、夕映えで見た、あなたが輝く姿に勝てない。

私がいくら写真を撮ろうが、あの時の景色には敵わない。


写真が好きだった。

写真の中になら、いつでも心を保管しておけるように思えた。

だから、どんな景色も思い出も、心と写真で残してきた。

いつか見た時笑えるようにと、思い出せるようにと、残してきた。

時が経ったらわかった。

そんな心の味は永遠じゃないんだ。

今だと胸が痛くて、辛くなる。

そんなものばっかりだ。

過去の私は、こんな苦しいものばっかりを残し続けてきた。

桜に春吹雪。

青空に木漏れ日。

紅葉に秋晴れ。

椿に小春。

季節にあなた。

止まった写真のページが、私の残雪になって、今でもこんなに胸を焦がし続けている。


人は声から忘れると言う。

動画にしたから、声を忘れない。

写真にしたから、姿を忘れない。

手紙があるから、文字を忘れない。

心があるから、あなたを忘れない。

夕映えはあなたが一番輝く時だった。

たとえ他の誰かを見つけても、

たとえどんな景色を見つけようとも、

私はもう、写真を撮れない。

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私はもう、写真を撮れない。 黄身の味 @Kimisarazu

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