ねんころり

元高校生。

ねんころり

 ――いや、眠いには違いないよ。それは貴方もそうだろうよ。だからといって何事でも無い話だ。だが眠れないんだ。あくびの合間に少し語るとするか。眠るまでな。

 最近、世界中が10秒だけ停電したらしい。人間がたくさん騒いでいた。お天道のやつが悪さしたんだと。意味は知らないが、映画だったらこれをきっかけに何か起こるものなのに、残念ながら現実にはびーとるずは消えないし、嘘が発明されたわけでもない、とのことだ。それでもやっぱり異常には違いなくて、有名な人間の、「これは世界終末までの序章だ。」という言葉1つで、たしか『count10』だったか。そんな感じの名前を付けたと聞いた。配信者とやらはこぞって動画をあげる。おんなじ話と世迷い言、そんな阿呆の群れだ。ご主人のせいで覚えてしまった。

 そしてこれが一番の非常事態であったが、クーラーが壊れた。私はカラクリのことを深くは感知しないが、冷たい空気が来なくなったのは壊れたと言って差し支えない。フローリングに寝そべって、埃まみれで涼む姿に誇りは無かった。汗が毛を絡めて体に貼り付ける不快感はたまに来る老いた人間のメスと肩を並べるほどだ。ご主人は暑さにも負けずに私を抱くが、私はその時の気色の悪い顔にそろそろ耐え切れない。このままいくと、あと何日も経たない内に毛玉が詰まって死にそうだ。酸素の欠乏はストリートで何度か経験したが、極楽浄土にでも行けそうな浮遊感と少しの恐怖のミックスは経験しないに限る。それでもたまには、という中毒性もある。あれはマタタビのようなものだ。



 ――さて、近況報告はここらで打ち止めだ。飽きたからな。私は偉大なる先輩とは違って、特に語りたい程のことには出くわしていない。こんなところに出されたからには語るがな。今はただ、目の前のふわふわしたものが気になって仕方がない。ところで、私は賢いのだよ。これが私の尾でないことはキチンと確認した。ふわふわ、ふわふわと。もしやこれが、「いーとはーヴ」とかいうやけに長い名前の町で蟹に聞いたクランボン?とやらなのか。水陸両用とは恐れいった。向かいの家の犬畜生と同じだ。ああ、おぞましいったら、もう。きっとこいつもご主人に可愛がられるのさ。ふわふわで、跳ねてて、水陸両用。共通点はたんまりある。数のことは詳しくない。だが私のおやつよりは多いだろう。多いはずだ。だからといって、素直にやられる私ではない。私にも矜持というものがある。格好付けてプライドと呼ぼうか。まあいいさ。名前はあとからついてくる。しかも税金もかからない。さあ、狩りの時間だ。



 ――困ったことになったのは認めよう。私が原因の8割、いや、3......5厘くらいなら持ってみよう。ああ、心配しなさるな。私は無事である。だがどうだろうか。ストリートの臭いがする鼻先のそいつは。まさか血の通るやつだったとは。クランボン……。赤毛はモテなさそうだ。体は食べてしまえばいいが、潰した跡は消せない。このままでは玩具もおやつも失いそうだ。それが許容できるほど、私は寛容ではないのだ。今日の私は死が近いが、明日の私が困る。それは生きてるとは言えないかもしれない。よし、隠し通そう。まず作戦を立てねば……。ねば?そういえば、あの犬畜生なら怒られて捨てられても、まあ、いいか。私じゃないしな。……待て。眠気が私を狩りに来た。これでは犬畜生も呼べないではないか。ちくしょう。臭い。こんな中での昼寝なんて、もう。



 ――全く、なんて仕打ちだ。私はご主人を守ろうともしていた気がするのに。ここまで怒られるとは。おやつも玩具も無くなって。それもこれもクランボン。奴のせいか。せっかく赤毛にもなったのに。ご主人のためなのに。もういい。もう終わりだ。お布団を温めるのだ。

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ねんころり 元高校生。 @shiro-to

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