掌小説集『海月とギア』

夏の月 すいか

第1話 あき缶

 公園であき缶を拾った。長く続いた暑い夏の夕立のあとだった。

 先程の風雨でどこからか転がってきたのだろう。

 足に当たり止まった缶を拾い上げてふたを開けると、缶の奥の暗闇がキラキラと光った。

 赤や青や黄緑色の光は缶からあふれ、海の水のように勢いよく天に向かい、秋刀魚さんまの群れが跳び出した。

 スズムシの鳴き声と共にショウリョウバッタとクツワムシが次々と跳ね、アキアカネが空に円を描く。ススキが冷めた風を呼び、金木犀きんもくせい銀杏ぎんなんの香りが広がった。

 柿と栗と葡萄ぶどうがはじけ、缶の底には蒼い夜と白い満月が残った。ふたを閉め、あき缶をゴミ箱に捨てた。

 これでもうすぐ夏が終わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌小説集『海月とギア』 夏の月 すいか @8929549

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る