ハルコとハルト 女子高生にTSしたら人生イージーモードなはずが――
あーく
前編 ハルコになりました
「やっべ! 遅刻だ!」
息を切らして校門を抜け、教室へと向かう。
勢いよく扉を開けると――
キーンコーンカーンコーン…
間に合ったようだ。肩で呼吸しながら自分の席に座る。
急いでいて気付かなかったが、クラス全員がこちらを見ている。よっぽどギリギリだったようだ。
カバンから教科書とノートを取り出し、机にしまう。
みんなはまだザワついている。
いや、いくらなんでもこっち見過ぎだろ。ギリギリ間に合うのがそんなに悪いことなのかよ。
確かに五分前行動は美徳かもしれないが、しょうがないだろ。目覚ましの設定ミスったんだから。
それともあれか? モテ期ってやつか?
次の瞬間、担任の口から衝撃の一言が言い渡される。
「……キミ、クラス間違えてない?」
…………は?
お前は担任だろ? 生徒の顔を忘れてどうすんだ。
「出席とるぞー。
「いやいや! 来てる来てる! それ俺だから!」
周りの反応がどう考えてもおかしい。ドッキリでも仕掛けてんのかってほどだ。
「おいおい、お前が有原? いつの間に性転換したんだぁ?」
性転換っておい、ドッキリならもうちょっとマシなウソを――
と思ったら、自分の身体の違和感に気付いた。
そういやさっき叫んだ時も、喉がスーッと通る感覚があった。
身体のあちこちを撫で回す。
喉仏がない。髪が肩まで伸びている。股間にあるはずの男の印がない。胸は――ちょっとある。
マジで性転換してるー!!
色々混乱しているが、とりあえず今は俺がハルト本人だということを証明しないと――
財布から学生証を取り出し、先生に突きつける。
「ほら! これ! 俺の学生証!」
先生は唖然としていた。
「……顔が全然違うじゃないか」
当たり前だろ! いや、当たり前なのがおかしいんだけど! 言いたいのはそこじゃなくて!
「なんで俺が有原ハルトの学生証持ってんだって話だよ!」
ここまでしたら疑う者はもういなかった。
「わかったわかった。有原ハルト、出席で」
ムスッとした表情で席に座る。
「有原ハルコの方がよかったか?」
「そういうのいいから、先生」
「有原、本当に性別変わったんだ」
「あぁ、ナオキか。そうだよ。なんなら昨日のチャットの履歴見るか?」
俺とナオキはゲーマー同士だ。
昨日も一緒にモンスターを討伐していた。
ナオキは眼鏡を上げる仕草をする。
「というか、家出る前に気付かなかったん? 鏡とかトイレとか、親御さんは?」
「そんな時間なかったんだよ。両親は出張中だし。やべ、トイレ行かなきゃ。女子トイレでいいのかな?」
「学ランだと男に見えなくもないから、男子トイレの方がいいんじゃない?」
そんなこんなで慌ただしい一日が終了した。この日は、ひたすら慣れない身体の感覚を合わせるのに必死だった。
明日からは服装を身体の性別に合わせた方がいいかな。今日ほど姉がいてよかったと思った日はなかった。
姉は卒業し、上京している。スマホで顔写真を送り、セーラー服を貸してくれるよう頼んでみる。
【姉】へぇ~! かわいいじゃん!
【俺】嫌味はいいから
制服貸してくんない?
【姉】は? 何その態度
【俺】制服を貸してくださいませ
姉上様
【姉】よろしい
あと
制服を着た写真もちゃんと
送ること
【俺】ぐぬぬ
後で脅迫に使うだろ絶対。
しかし、背に腹は代えられない。姉の要求を受け入れるしかなかった。
学ランはしばらくクローゼットでお休みだ。
目を覚まし、自分の胸に触れる。
夢であってほしかった。
この際、全てを受け入れてしまった方が楽なのかもしれない。
制服と下着は姉から借りた。自撮り写真を送るのも忘れていない。
学校へ行く途中、ナオキに出会った。
「よう、ナオキ」
昨日は学ランで分かりづらかったが、セーラー服となった今ではナオキとの体格差が目立つ。
少し恥ずかしかったが、いずれ慣れなければならないことだ。
ナオキも俺の制服姿に戸惑っているようだった。
「よう、有原。結局、戻らなかったんだな」
「あぁ。まるでこの世界がゲームで、プレイしている神かなんかが途中で俺の性別を変えたとしか思えないよ」
「はは。大変そうだな、有原も」
俺は人指し指をナオキにつきつける。
「今日から俺のことはハルコと呼べ」
こうして、女としての生活が始まった。
――その矢先、一限目の体育の授業で問題が起こった。
「ちょっと! こいつ男だったんでしょ!? 私達と一緒に着替えるってこと!? アリエナイんですけど!」
女子更衣室で騒いでいるのは
「じゃあ、俺はトイレで着替えるよ」
「当たり前でしょ!?」
まるで「それが当然」というような言い方だ。
よくもあんな横暴な態度がとれるもんだ。悪態をつくのはネット上だけにしてくれ。本当はよくないんだけど。
女子トイレの入口を開けると、個室から体操服の女子が着替えを持って出てくるのが見えた。
「あ」
「あ」
俺を見るなり、サッサと出て行った。
小麦色の髪がフワッと視界を横切る。シャンプーの残り香が鼻を抜ける。
やはり女子はいい匂いがする。女子更衣室に入りたかったな。
授業のバレーボールは馴れ合いだった。スポーツ系の女子が数人活躍していた程度で、他は全力を出していないように見えた。
変化は休憩時間にも現れた。
「あの……」
クラスでおとなしめの女子グループが尋ねてきた。
「一緒にお弁当……どう?」
俺は一度、ナオキと顔を合わせる。
「陰キャの俺は何を話せばいいの?」
「知らんよ。行って来いよ」
せっかくだから、女子の輪に入ってみることにした。
グループの女子が尋ねる。
「それ、購買で買ったパン?」
「うん、そうだけど」
ほとんどの女子は弁当を持ってくるのか。料理の練習はした方がいいのかな。
「この前のメイクの動画なんだけどさ~」
「メイク……全然わかんないんすけど……」
「…………」
申し訳なく思いつつ、ナオキの元へ戻ることにした。
「恥ずかしながら帰ってまいりました」
「おかえり」
「やっぱり俺らにはゲーム談義しか……」
そんな時だった。
「ねぇ」
天上 ユカがつかつかと近づいて来る。
俺のスマホ画面をちらりと見た。
「――持ち武器は?」
「……双剣でチクチク削ってます」
「脳死で斧をぶんぶん振ってます」
天上さんと固い握手を交わした。
「え? え? やってんの? ドラハン!」
「マジで!? 天上さんもやってんの!?」
ドラゴンハンター――簡単に言うと、プレイヤー同士で協力してモンスターを倒すゲームだ。
今までゲームの話題ができる女子は見たことなかったが、すぐ近くにいるとは意外だった。
「今度の土曜日、古代竜レイドあるからやろーよ!」
「いいねぇ! ナオキもそれでいいだろ?」
ナオキは戸惑いながらも頷く。そういえばナオキは女子に慣れていないんだったな。
「あ、アカウント――」
早速、手元のスマホでグループチャットに案内する。
画面に三人の名前が並ぶ、三人だけの秘密の部屋だ。
土曜日の夜はドラハンで盛り上がった。協力して古代竜を倒すイベントに参加していた。
モニターを前に、ヘッドセットを通して会話をする。
「ユカ、回復頼むわ」
「了解、ハル子」
「ハルコ、一人でいける?」
「大丈夫だ、問題ない……悪い、やっぱ辛えわ。ナオキ援護くれ」
「ちゃんと言えたじゃねえか」
こうして古代竜を討伐し、レアアイテムを三人で分け合った。
グループを解散した直後、天上さんから通知。
【Uka】今日はありがとう
【俺】いえいえ、こちらこそ
【Uka】実は私、ぼっちで
一緒に遊ぶ友達
いなかったんだよね
【俺】俺もぼっちだよ
【Uka】棚田君がいるじゃん
【俺】ナオキぐらいしか
友達いないって意味で
【Uka】前からゲームの話に
入りたかったんだけど
男子とは話しづらくて
【俺】男子に慣れてないの?
【Uka】そうじゃないんだけど
周りから見たらさ
男女が話してると
変な風に見られるのかなって
【俺】そんな気にすることでも
ないと思うんだけど
【Uka】ごめんね、暗くしちゃって
またね
【俺】バイバイ 天上さん
【Uka】え、さっきユカって呼んで
くれてたのにぃ……
【俺】てんじょうって長いから
アカウント名もUkaだし
最後に「それな」と言うネコのスタンプをもらって会話は終了した。
これからはユカって呼んだ方がいいのだろうか。その方が――女子っぽい?
顔が少し火照り出した。
次の更新予定
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