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ono

王宮の共犯者たち ~傷つかない婚約破棄のための甘く完璧な作戦~

※Gemini 3 Proによる執筆です。自作『冬薔薇の謀りごと』に沿っています。


***


第一章:白薔薇の庭で交わす誓い


王宮の奥深くに位置する白薔薇の庭園は、午後の日差しを受けて眠たげな静寂に包まれていた。初夏を告げる風が吹き抜けるたび、甘やかな花の香りが紅茶の湯気と混じり合う。

そのガゼボの下、この国の王太子ジュリアンと、その婚約者である辺境伯令嬢リリアーナは向かい合っていた。


「リリアーナ。……僕は、君に謝らなければならないことがある」


ジュリアンが意を決したようにカップを置く。陶器がソーサーに触れる音が、やけに大きく響いた。

リリアーナは揺れる金色の睫毛を伏せ、琥珀色の瞳で彼を見つめ返す。彼の整った眉根が苦悩に寄せられているのを見て、彼女は内心で小さく息を吐いた。

(ようやく、切り出してくださったわ)

リリアーナは、彼がここ数ヶ月、何かに悩み、夜も眠れぬ日々を過ごしているのを知っていた。そしてその理由も、おおよそ見当がついていた。


「謝罪など必要ありませんわ、ジュリアン様。わたくしたちの間柄でしょう? どのようなお話でも受け止めます」


リリアーナの声は、春の小川のように穏やかだった。ジュリアンはその優しさにさらに胸を痛めたようだったが、やがて震える唇を開いた。


「婚約を、解消したいんだ」


それは、国を揺るがす一言だった。だがリリアーナは微笑みを絶やさず、静かに首を傾げる。


「理由は、あのパン屋のお嬢さんですか?」

「……ッ!? な、なぜそれを」

「ジュリアン様、貴方様のことは幼い頃から見ておりますもの。お忍びで城下に出かけられる度に、どこか生き生きとした表情で戻られる。そして最近の貴方様からは、焼きたてのパンのような温かい匂いがほのかにしておりましたから」


リリアーナがお茶菓子をつまむ仕草で指摘すると、ジュリアンは顔を真っ赤にして項垂れた。

彼は誠実すぎた。王太子としての責務と、リリアーナへの敬意、そして自身の心に芽生えた恋心の間で、身が引き裂かれるような思いをしていたのだろう。


「彼女は……ミアというんだ。天涯孤独だけれど、誰よりも強く、明るい。彼女といると、僕は自分が『王太子』であることを忘れられる。ただの一人の人間として息ができるんだ」

「素敵な方なのですね」

「ああ。でも、僕は君を裏切ることになる。父上も許さないだろう。だから、この想いは墓場まで持っていく、つもりだった。けれど……」


ジュリアンが拳を握りしめる。

リリアーナは席を立ち、彼の隣に歩み寄ると、その震える手に自身のそれを重ねた。


「貴方様が想いを殺して生きる未来など、わたくしも望みません。貴方様が幸せであってこそ、民もまた安寧を得られるのです」

「リリアーナ……」

「それに、わたくしも『王太子の婚約者』という肩書きは少々重荷でしたのよ。辺境の風の方が肌に合いますから」


それは半分本音で、半分は彼を安心させるための優しい嘘だった。リリアーナはジュリアンを愛していたが、それは男女の情愛ではなく、同志としての敬愛に近い。彼が本当に心安らぐ場所を見つけたのなら、それを守るのが友としての自分の役目だ。


「ジュリアン様。わたくしたちは共犯者になりましょう」

「共犯者?」

「ええ。誰一人傷つかず、誰もが納得する『完璧な婚約破棄』を成し遂げるのです。わたくしが協力いたします」


リリアーナが悪戯っぽくウインクをすると、ジュリアンは呆気にとられた顔をして、やがて涙ぐんだ瞳で破顔した。

それは久しぶりに見る、彼の曇りのない笑顔だった。


「ありがとう、リリアーナ。君は僕にとって、世界一の親友だ」

「ふふ、光栄ですわ。さあ、まずは作戦会議を始めましょうか」


白薔薇の庭で、二人の「円満な別れ」に向けた闘争が幕を開けた。


第二章:氷の公爵と鉄の王


「ならぬ」


国王の執務室に、重厚な声が響き渡った。

ジュリアンとリリアーナが並んで頭を下げた先で、国王は書類から視線を上げずに言い放つ。


「婚約の解消など認めん。我が国は今、北方の小国群との国境紛争に悩まされている。強力な私兵団を持つ辺境伯家との結びつきは必須だ。それにジュリアン、お前には王としての覇気が足りん。リリアーナの聡明さと果断さがあって初めて、お前は王になれるのだ」


国王の言葉は正論であり、反論の余地を与えない壁のような重圧を持っていた。

ジュリアンが何か言い募ろうとするのをリリアーナは制し、一度引き下がることを選んだ。


廊下に出た二人は、大きなため息をつく。

「やっぱり、父上は手強いな……」

「正面突破は難しそうですわね。ならば、搦め手を使うしかありません」

「搦め手?」

「ええ。強力な助っ人を巻き込みましょう」


リリアーナが向かったのは、王宮の別棟にある軍務局だった。

書類の山に埋もれるようにして執務をこなしていた男が、二人の来訪に顔を上げる。

黒曜石のような瞳と、感情を削ぎ落としたような冷徹な美貌。王太子の幼馴染であり、筆頭公爵のフェリクスである。


「……何用だ。私は忙しい」

「フェリクス、頼みがあるんだ! 僕たちの婚約破棄を手伝ってくれ!」

「帰れ」


フェリクスは即座に視線を書類に戻した。ジュリアンの必死の訴えも、氷の公爵の前では春の雪のように無力だった。

しかし、リリアーナは怯まない。彼のデスクに歩み寄り、両手をついて彼を見下ろした。


「フェリクス様。これは国の未来に関わることなのです」

「国益を考えるなら、今の婚約維持が最善だ。リリアーナ、君ほどの切れ者が分からないわけではないだろう」

「ええ、分かっています。ですが、ジュリアン様の心が壊れてしまっては元も子もありません。それに……」


リリアーナは声を潜め、彼だけに聞こえるように囁いた。


「このままでは、ジュリアン様は一生『頼りない王』のままです。彼が自分の意思で人生を選び取る、これはそのための試練でもあるのです」


フェリクスのペンが止まる。彼は顔を上げ、リリアーナの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。そこには王太子への甘やかしではなく、厳しくも温かい信頼が宿っている。

そして何より、フェリクス自身、幼い頃からリリアーナに密かな想いを寄せていた。彼女が王太子の隣で微笑むたび、胸の奥に氷柱が刺さるような痛みを覚えていたのだ。

だが、彼は王太子への忠誠と友情ゆえに、その感情を鉄の理性で封じ込めていた。


「……ジュリアンの想い人は、どのような女だ」

「パン屋の娘だそうです。名はミア」

「平民か。前途多難だな」


フェリクスは深いため息をつき、眉間を揉んだ。


「分かった。協力しよう。ただし、私の描く絵図に従ってもらう」

「本当か、フェリクス!」

「勘違いするな。私は君が王として覚悟を決めるなら、その手助けをするだけだ。……それに、リリアーナ嬢の頼みを無下にはできん」


最後の言葉は、誰にも聞こえないほどの小声だった。

こうして、優しすぎる王太子、策士の令嬢、そして生真面目な公爵という奇妙な共闘関係が成立したのである。


第三章:パン屋の娘の王宮修行


フェリクスの提案は合理的かつ大胆だった。

「まずは相手の娘を見定める。王妃としての資質がなくとも、少なくとも貴族社会で生き抜く術がなければ、ジュリアンの隣には立てない」


その名目のもと、パン屋の娘ミアが、リリアーナの「臨時側仕え」として王宮に招かれた。表向きは、辺境伯領の特産品を使った新しいパンの開発協力者ということになっている。


「うわぁ……天井が高い! 床がピカピカ! これ、踏んでもいい床ですか!?」


ミアは王宮の回廊に足を踏み入れた瞬間、目を丸くして感嘆の声を上げた。栗色の髪を短く切りそろえ、そばかすの散る健康的な頬をした彼女は、太陽そのものだった。

リリアーナは思わず頬を緩める。


「ええ、大丈夫ですよミアさん。ようこそおいでくださいました」

「あ、あなたがリリアーナ様! うわあ、本物のお姫様みたい……あ、いや、失礼しました! パン屋のミアです!」


慌てて不格好なカーテシーをするミアに、リリアーナは好感を抱いた。裏表がなく、生命力に溢れている。ジュリアンが惹かれた理由がよく分かった。


それからの日々は、奇妙で賑やかなものとなった。

リリアーナはミアに礼儀作法や教養を教え込んだ。ミアは持ち前の根性でそれに食らいつく。

午後のお茶の時間には、ジュリアンも合流し、四人でテーブルを囲むことが増えた。


「ミア、今日のスコーンも絶品だね」

「へへ、ジュリアン様のために蜂蜜を多めにしたんです! ……あ、いけない。『殿下』でした」

「いいよ、二人きりの時……いや、このメンバーの時は、昔通りで」


ジュリアンとミアが笑い合う様子を、リリアーナは紅茶を飲みながら見守る。

そして、その少し離れた場所で、フェリクスもまた書類仕事の手を休めて彼らを眺めていた。


「……意外と、馴染むものだな」

「でしょう? 彼女には、人の警戒心を解く魔法があるようですわ」


リリアーナがフェリクスの隣に立つと、彼は僅かに身を固くした。


「リリアーナ。君は……本当にこれでいいのか」

「何がですの?」

「君は、誰よりも王妃に相応しい。それを手放して、辺境に戻るつもりか」


フェリクスの声には、抑えきれない焦燥が混じっていた。

リリアーナは窓の外、広がる青空を見上げる。


「私は、王妃になりたかったわけではありません。ただ、ジュリアン様の支えになりたかっただけ。彼が別の支えを見つけたのなら、私は私の人生を歩むだけです」

「……君の人生、か」

「ええ。たとえば、もっと愛のない政略結婚ではなく、心から信頼できる方と静かに暮らすのも悪くありませんわね」


リリアーナが何気なく言うと、フェリクスは目を見開き、そして気まずそうに顔を背けた。その耳が微かに赤いことに、リリアーナは気づかないふりをした。


ミアの存在は、停滞していた空気を確実にかき混ぜていた。

彼女はリリアーナを姉のように慕い、フェリクスの不愛想な態度にも「顔が怖い時はお腹が空いてる時だって、ばあちゃんが言ってました!」と焼きたてパンを押し付け、強引に餌付けしてしまった。

四人の間には、身分を超えた奇妙な友情が芽生え始めていた。


第四章:戦火と決断


平穏な日々は、唐突に終わりを告げた。

北方の国境地帯での紛争が激化し、敵軍が砦の一つを陥落させたとの報が入ったのだ。

国王は焦り、即断した。


「王太子ジュリアン、及びリリアーナ。直ちに辺境へ向かい、兵を鼓舞せよ。辺境伯家の威光と次期国王の親征があれば、士気は戻るはずだ」


それは無茶な命令だった。ジュリアンもリリアーナも、内政や外交には長けているが、戦場の指揮経験はない。

しかし、王命は絶対だ。

出発の前夜、王宮の空気は重苦しかった。


王宮に残るよう命じられたフェリクスは、執務室で苛立ちを隠せずに歩き回っていた。彼こそが行くべきだったが、国王は「王都の守りを空にはできん」と彼を留め置いたのだ。


「……落ち着かないんですね、公爵様」


夜食のバスケットを持ったミアが、部屋に入ってきた。

フェリクスは足を止める。


「ミアか。……すまない、取り乱した」

「リリアーナ様のこと、心配なんですね」


ミアの直球な言葉に、フェリクスは眉を寄せる。


「王太子の心配もしている」

「でも、一番はリリアーナ様でしょう? 目で追ってますもん、いつも」

「……平民らしい無神経な観察眼だ」


フェリクスは苦々しく言い捨てたが、すぐに「すまない、今のは失言だった」と詫びた。

ミアは首を振って笑う。


「いいえ。でも、バレバレですよ。……私、リリアーナ様が大好きです。ジュリアン様のことも大好き。公爵様も、顔は怖いですけど大好きです。だから、みんなに幸せになってほしいんです」


ミアの言葉は、フェリクスの胸に深く刺さった。

そうだ。ここで手をこまねいていては、誰も幸せになれない。

戦場は、優しいだけのジュリアンやリリアーナには荷が重すぎる。最悪の場合、命を落とすか、敗戦の責任を負わされて心が折れてしまうだろう。


一方、前線のテントの中。

冷たい風が吹き込む陣営で、リリアーナとジュリアンは地図を囲んでいた。戦況は芳しくない。敵の動きは早く、こちらの兵は疲弊している。


「僕の判断ミスだ……あの時、撤退を指示していれば」

「自分を責めないで、ジュリアン様。敵の待ち伏せなど、誰にも予測できませんでした」


リリアーナは励ますが、ジュリアンの顔色は蒼白だ。このままでは、彼は王としての自信を完全に失ってしまう。

リリアーナは決意を固めた。


「ジュリアン様。フェリクス様に、指揮権を譲りましょう」

「え? でも、父上は……」

「この際、王命など二の次です。命あっての物種。それに、これを機に『婚約破棄』を決定的なものにするのです」


リリアーナは、自身の名誉を犠牲にする覚悟を決めていた。

彼女は静かに、しかし力強く提案する。


「わたくしが、この戦場の混乱に乗じて、フェリクス様に求婚します」

「は……はいっ!?」

「『王太子の婚約者でありながら、幼馴染の公爵と通じていた不貞の女』。これなら、陛下も婚約破棄を認めざるを得ません。ジュリアン様は被害者として、同情を集めることができます」


それはあまりに悲しい自己犠牲だった。

その時、天幕の入り口が乱暴に開かれた。


「だめだ。私は断じて、君を悪役になどしない!」


砂埃に塗れたマントを翻し、そこにはフェリクスが立っていた。

背後には、彼が私兵を率いて強行軍で駆けつけた証拠に、精鋭たちが控えている。


「フェリクス!?」

「遅くなった。王都の守備は副官に丸投げてきた。……リリアーナ、君の献身は美しいが、私は認めん。君が泥を被る必要などない」


フェリクスはリリアーナの肩を掴み、その瞳を覗き込む。


「君を悪女として娶るつもりはない。私が娶るのは、辺境の危機を救った英雄である君だ」

「で、ですが、それでは婚約破棄の理由が……」

「力技でいく。……ジュリアン、覚悟はいいか?」


フェリクスは凶悪な笑みを浮かべ、親友を見た。

ジュリアンは一瞬呆気にとられたが、すぐにその意図を察し、ニヤリと笑い返した。


「ああ。僕の『負け』だね、フェリクス」


第五章:戦場でのプロポーズ


翌朝、戦場は一変した。

「氷の公爵」ことフェリクスが指揮権を掌握した辺境軍は、水を得た魚のように動き出した。

彼は敵の補給線を断ち、伏兵を用いて敵軍を渓谷に誘い込むと、一気に包囲殲滅したのだ。

鮮やかすぎる逆転劇に、兵士たちの歓声が荒野に響き渡る。


その熱狂が冷めやらぬ中、本陣の前で「事件」は起きた。


フェリクスが馬から降り、ジュリアンの前に進み出る。

周囲の将兵が固唾を飲んで見守る中、フェリクスは大音声で叫んだ。


「ジュリアン殿下! 貴公の優柔不断な采配により、あわや戦線は崩壊するところであった!」


それは事実であり、同時に演技でもあった。

フェリクスは剣を地面に突き刺し、リリアーナを振り返って手を差し伸べた。


「貴公には、この過酷な辺境を守る資格も、才色兼備のこの方を妻にする資格もない! リリアーナ嬢は、このフェリクスが貰い受ける!」


どよめきが走る。これは事実上の反逆、あるいは略奪だ。

だが、兵士たちは知っていた。王太子の指揮では死んでいたかもしれない自分たちを救ったのは、公爵であることを。

そして、王太子ジュリアンは、怒るどころか静かに微笑み、自身の剣を外して差し出した。


「……完敗だ、フェリクス。君の言う通り、僕にはこの戦場も、彼女の隣も重すぎたようだ」


ジュリアンは芝居がかった動作でリリアーナの手を取り、フェリクスの手へと渡す。


「リリアーナ。君の幸せは、僕には守りきれない。最強の騎士である彼にこそ、君は相応しい」

「ジュリアン様……」

「行ってくれ。これは、僕からの最後の命令だ」


リリアーナは涙を浮かべ──それは演技ではなく、彼らの友情への感動だった──フェリクスの手を取った。

フェリクスは彼女の手を強く握り締め、そのまま引き寄せて抱きしめる。


「必ず幸せにする。……公爵家の全財産と、これからの私の人生を賭けて」

「……賭け金が高すぎますわ、フェリクス様」

「安いくらいだ」


戦場に、勝利の歓声とは異なる、祝福の口笛と歓声が爆発した。

「公爵万歳!」「新カップル万歳!」

その熱気の中で、リリアーナはフェリクスの胸に顔を埋め、ジュリアンは肩の荷が下りたような軽やかな顔で空を見上げていた。


第六章:国を救う取引


凱旋した三人を待っていたのは、玉座の間での重苦しい謁見だった。

国王は真っ赤な顔で激怒している。


「戦場で指揮権を勝手に移譲し、あまつさえ婚約者を略奪するだと!? フェリクス、貴様、正気か!」

「至って正気です、陛下。現に、私が指揮を執らねば敗北していました」


フェリクスは悪びれもせず言い放つ。

隣では、ジュリアンが一歩前に出た。


「父上。私は自分の器を知りました。私は平和な時代の象徴にはなれても、乱世の王にはなれません。王位継承権を放棄し、臣下として国に尽くしたいのです」

「なっ……!?」

「代わりに、フェリクスを次期国王に推挙します。彼には実力があり、軍部の信望も厚い。そして何より、辺境伯家の令嬢リリアーナを妻とすることで、辺境との結びつきも盤石となります」


国王は言葉に詰まった。

論理的には完璧だ。国境は安定し、有能な王が立ち、辺境伯家との同盟も維持される。

失われるのは「王太子のメンツ」だけだが、本人がそれを捨てると言っているのだ。


「しかし……それではお前の処遇はどうなる。王族が平民の娘と……などと……」

「陛下」


そこで、リリアーナが口を開いた。彼女は優雅に礼をとる。


「辺境伯家としての願いでもあります。わたくしは、愛のない結婚で王妃になるよりも、愛し愛される夫と共に、この国を支えたいと存じます。そして、ジュリアン様の隣には、彼の心を癒やす太陽が必要です」


リリアーナは、控えていたミアを手招きした。

ミアはおっかなびっくり進み出ると、練習通りのカーテシーを披露する。まだぎこちないが、その瞳には強い光があった。


「へ、陛下。私はパンを焼くことくらいしかできませんが……ジュリアン様が辛い時、必ず美味しいパンを焼いて、笑顔にしてみせます! 彼を、絶対に一人にはさせません!」


あまりに素朴で、しかし力強い宣言。

国王は呆気にとられ、やがて長く、長くため息をついた。


「……国が破滅しないなら、もうそれでいい。好きにしろ」


その言葉は、敗北宣言であり、同時に若者たちへの不器用な祝福でもあった。


最終章:幸せのレシピ


それから半年後。

王宮の執務室には、香ばしいパンの香りが漂っていた。


「はい、今日の差し入れ! 新作のくるみパンだよ!」

「ありがとう、ミア。君のパンを食べると、午後も頑張れるよ」


元王太子であり、現在は内政補佐官として働くジュリアンが、妻となったミアからバスケットを受け取る。彼は王位を降りたことで憑き物が落ちたように穏やかになり、その細やかな気配りで官僚たちからの評判も上々だった。


そこへ、書類の山を抱えた新たな王太子、フェリクスが入ってくる。


「おいジュリアン、この法案の試算が甘いぞ。やり直しだ」

「ええー、厳しいなぁフェリクス殿下は」

「公務中は私語を慎め。……だが、そのパンは一つもらう」


フェリクスはパンを齧りながら、後ろからついてきたリリアーナに視線を向ける。彼の表情は、相変わらず仏頂面に見えるが、その瞳は驚くほど優しい。


「お疲れ様です、フェリクス様。少し休憩になさいませんか?」

「……リリアーナがそう言うなら、仕方ないな」


リリアーナはクスクスと笑い、夫のネクタイを直してやる。

「氷の公爵」と呼ばれた彼が、リリアーナの前でだけ見せる不器用なデレは、今や王宮の名物となっていた。


フェリクスという強力な指導者を得て、近隣諸国は牽制され、国境には平和が訪れている。

ジュリアンという慈愛深い補佐官が国内を癒やし、民の声を聞いている。

そして、彼らを支える二人の妻たち。


静と動、優しさと厳しさ。

かつて無理やり合わせようとしていたパズルのピースは、一度バラバラになり、あるべき場所に収まったことで、美しい絵を描き出していた。


「ねえリリアーナ様、今度の休日は四人でピクニックに行きましょうよ!」

「ええ、いいわねミア。サンドイッチを作りましょう」

「僕は場所取りをしておくよ」

「護衛の配置は私が決める」


四人は顔を見合わせ、笑い合う。

これは、誰も傷つかなかった婚約破棄の、その先にある物語。

焼きたてのパンの香りと、白薔薇の香りに包まれた、いつまでも続く幸福な国づくりの物語である。

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