『クラスで“実質”一番可愛いと思う子と、誰にも言えない関係になってしまったんですが』

神崎りん

第1話「春の訪れ、そして」

僕は四月のこの春の時期が一年間の中で最も嫌いだ。決して、気候のことを言っているのではない。

家の内外関係なく聞こえてくる鳥たちの囀り。熱を持ちすぎないちょうどいい日差しと、肌に触れるだけのそよ風。冷たさを忘れかけた空気と、窓から降り注ぐ暖かな光。空気が軽く、呼吸がしやすいこの気候。

ーーそんな春の気候が僕は大好きだった。僕は人よりも寒がりで、秋や冬のシーズンはいつも家のベットで布団にくるまって暖をとっていたり、一日何もなければ家から一歩も出ないこともあるぐらいなので、そういう意味で言えばこの春の訪れは僕にとって神様に等しいのかもしれない。

だが、それでもこれらを凌駕するほど春が嫌いな理由は何かというと。


「うわっ、やべっ。お母さんなんで起こしてくれ

 なかったんだよ。6時半に起こしてくれって言っ

 たじゃん」

「ちゃんと起こしたわよ。それに『起きてるよ』っ

 て言ったのは誰かしら」

「せめて、目覚ましをきちんとかけて朝自分で起き

 るという誠意を見たいものだわ」

「ぐぬぬぬぬ」

「でも、『起きてるよ』って言ってるのは大体

 起きてない時に言うもんだよ。多分どっかの

 辞書に書いてるよ。多分」

「で、ご飯どうする?」

「パン一枚と野菜ジュースだけちょうだい」

「はいはい、わかりました」


僕は入学式の日に寝坊をして、慌ただしく学校へ向かう準場をする。でも、こういうこともあろうかと

普段よりかなり時間にゆとりを持って起きようとしていたため、決して時間に間に合わないということはない。多少なりとも落ち着いて行動はできているはずだ。


「朔、どう?高校の制服は?サイズとか、そこらへ

 ん大丈夫?」

「どう?って言われても、まぁサイズはちょうど

 いいよ。着心地もまぁまぁいいし」

「またまたぁ」

「だって制服なんて、どの学校も同じようなもん

 じゃん。学生服タイプとブレザータイプのどっち

 かっていうのはあるけど.....」

「はぁ、本当に欲がない子ね」


僕は前日の日に、あらかじめ今日の支度を終えていたためスムーズにことが進んだ。

制服はブレザータイプで中には青いシャツ、その上に黒色のセーターと黒色のブレザー。中学の時は

学生服だったためネクタイがあるのが、少し気になって首の部分が落ち着かない。


「うん、まぁ、いい感じだと思う、うんそう思う」

お母さんが洗濯物を畳みながら、こちらをチラチラと見てくる。

「別に本当のこと言ってもいいんだよ。似合ってな

 いのはどうしようもないし」

「いや、別にただ制服のサイズが大きくて、ちょっ

 とぶかぶかだからさ」

「まぁ、今後身長もきっと伸びるわけだし。大丈夫

 でしょ!」

「あのぉ、中三の身体測定の時に測った身長より

 も、高校の制服採寸の時に測った身長の方が

 身長が低かったんだが.....」

「まぁまぁ、それはしょうがない。そういう時も

 あるわよ」

流石にこれ以上身長が伸びないとさすがに厳しいから制服の裾上げとかも視野に入れないといけないかもしれない。お母さんは一人で、僕を育ててるため

家計面ではちょっと心配だ、

「大丈夫わよ。私の息子なんだもん。きっと、

 一年後には180㎝を超える身長に」

「そこまでくるともう怖いわ」

冗談混じりに、くすくす笑いながら話す。


「さてと、そろそろ時間だし学校向かうわ」

「うん、わかった」

「お母さんはこのあと、何やるの?」

「まぁ、お洗濯でしょ。洗い物でしょ。

それから.....」

「めっちゃ大変だな」

そう会話しながら、見送りのために一緒に玄関の方へ向かう。


「朔、ちゃんとお友達作ってくるんだよ?

 お母さん、息子の友達が家に来るのが夢なんだか

 ら」

「はい、はい。まぁ、尽力はします」

「うん、まぁ頼んだ。わたしの夢託した」

「なんか朝から重いな。話が」

「まぁ、そういうことで」

「行ってきまーす」

「言ってらっしゃーい!」


僕の通う高校は『春峯高校』、自宅から徒歩と電車で約30分ぐらいの距離にある私立高校だ。中三の時の受験でかなり頑張ったのもあって、特待生の学費免除で入学することができた。


「はぁ、お友達ねぇ。中学の時もほぼ友達と呼べる

 ような人誰一人いなかったし。できたらなぁ」

季節は春。

新学期ーー新たな環境と新たな出会いが始まる月。

友達のいない俺からしたらただの自殺行為でしかない高校の入学式。

ーーそんな春のこの時期が僕は嫌いだった。



















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