第2話 幸せになりたい
1回目、私は10年前に戻ったようだった。抱きしめただけなのに殺してしまった。
2回目、3回目、4回目も何がいけなかったのかすぐに殺してしまった。
5回目は最初の時から6年前に戻っていた。せっかく距離を置いていたのに、どうしようもない嫉妬でアルト様を殺してしまっていた。
6回目は私が副団長になったころだった。淡々と仕事をこなして5年くらいたっていただろうか。自分の胸を貫いたはずなのに、アルト様の胸を貫いていた。またダメだった。
7回目、最初の頃から4年前に帰ってきていた。私はもう笑えなくなっていた。アルト様を毎日起こし、魔物を倒す毎日。またダメだった。
8回目、最初の時から3年前に戻って来ていた。あと2回しかない。
これまでを通して分かっていることは、嫉妬しすぎていけない、愛を伝えてもいけない。そして、私から触れるのは問題ない。
ただ、アルト様が私の肌に触れなければ問題ない。
なら、離れてしまえばいいのではないか。
アルト様の髪を結いながら考える。鏡に映るアルト様は不思議そうに私に声をかけてくる。
私はアルト様の綺麗な黒髪から手を離せばさらり、とすり抜けていった。
「アルト様、私、騎士団を辞めようと思います」
アルト様からは、考えさせてくれ、と言われた。そのまま月日は流れ1年が経とうとしていた。
アルト様の実兄。バルト・シューベルト様が婚約者とご結婚をした。
ステンドグラスが輝く美しいチャペルでバルト様と花嫁が愛を誓いあっていた。
何度も見てきた光景に羨ましいという気持ちはなかった。私にはない未来だから。
結婚式が終わり、アルト様に呼び出された。
「今までありがとう。ただ、1つ聞きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか」
「…どうして毎晩、オレを抱くんだ?」
頭が鈍器に殴られたような衝撃が襲う。言葉が出なかった。
誰がアルト様を抱いている?
全く記憶がなかった。しかし、それは団員の声で呼び戻された。
「失礼します!アルト様、キラーラビットです!」
私達は門の近くまで来てしまっていたキラーラビットを倒していく。
ーーどうして毎晩、オレを抱くんだ?
まるで、恋をしているような顔だった。誰に。私なのに、私ではない誰か。
おかしくなりそうだった。
「アルト様!あぶない!」
振り返ると全てがゆっくりに見えた。キラーラビットの角がアルト様の胸を貫いた。黒く長い髪と共に血が舞った。
早く助けに行きたいのにいけなかった。全てを倒した頃にはアルト様は絶命していた。
私も至る所を貫かれた。もう長くないだろう。
冷たくなったアルト様の指に触れる。
貴方はあの時、何を思っていましたか?
好意というのを抱いてくれていましたか?
「あと、1回か」
私は首元に剣を這わせた。
9回目に戻った。最初の頃から2年前に戻ってきた。なんとか2年は持ちこたえた。キラーラビットを倒し、三日三晩やってきたゴブリンも倒した。
私は前回を思い出して、騎士団から抜け出せなくなっていた。
私は騎士団と屋敷を繋ぐ廊下をアルト様と歩いていた。長い黒髪は私が送ったすみれ色の髪紐で結われていた。
急に前を歩いているアルト様が足を止める。聞きたいことがある、と言われた。
「お前は記憶がないみたいだからさ、ずっと聞けなかったんだけどさ」
聞いてはいけない気がした。
「…どうしてオレを抱くんだ?」
ああ、嫉妬の炎で焼けてしまいそうだ。私ではない誰かが抱いている。
私の意思で抱きたい。
友はどうしてこんな酷い呪いをかけたんだ。こんなにも長く苦しい呪いを。
「長くしているのは私か」
ポツリ、と呟く。
「お慕いしております。アルト様」
また目の前が赤くなるかもしれない、と恐怖で心臓の音がうるさかった。
アルト様は困ったように笑った。呪いが発動しなかった。
しかし、現実はおとぎ話のように物語は甘くない。
アルト様が私の頬に触れてしまった。目の前が真っ赤になった。
ああ、終わった。
視界が戻るとアルト様は血溜まりの中に倒れていた。
「あ、あああっ……そんなっ、またっ」
アルト様はまだ呼吸があった。私と目が合う。私は泣いた。
ごめんなさい、アルト様。
どうしても願ってしまうんだ。アルト様のことが好きで好きでたまらない。
私は魔法石を握り締めながら首元に剣を這わす。
せめて、アルト様を私が抱いたという印でもいい。
幸せが欲しい。
私は最後の願いを魔法石に願った。
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