最強魔王は木の棒しか使えません~勇者だったはずの俺。ハズレスキル『木の棒』で魔王やってます~
流石谷 ユウ
第1話 チートスキル『木の棒』/魔王の城
「ようこソ。日本で命を落とした転生者ヨ」
「は?」
見知らぬ場所、不思議な空間にて。俺は、仮面の人物から謎の歓迎を受けていた。何でこうなったんだっけ?
自分に起こったことを確認すべく、記憶を手繰り寄せてみる。確か、俺はトラックにはねられた。で、そのまま意識が遠くなって
「これより、異世界転生の手続きを開始すル」
「あー、そういうやつか」
なんとなく理解できた。この人物の言葉。それは、死した人間が異世界へ旅立つことを表している。
つまりだ。これから俺は異世界で新たな人生を歩むのだ。この展開は生前に知識を得ていた。特に疑問はない。
なんて冷静にまとめてみたが、まさかそれが実在するとは。表面上は冷静だが、内心は驚きまくっている。
「確認ダ。お前の名はぎん、ぎんじ」
「銀次郎(ぎんじろう)な」
「ギンジロウ。間違いないナ?」
仮面の人物は片手を俺に向ける。
「あってる。そういうあんたは神様か?」
死後の世界で語りかけてくる存在といえば神様。異世界転生の常識みたいなものだ。
けど、目の前のこいつはイメージとは違うな。神ってのはもっとこう、神々しいオーラを放っている物だと想像していた。
「俺はアガレス。勇者の長にして、転生者を管理するもノ。神ではなイ」
「よくわからんが、すごいやつってことか。で? 俺をここに呼んだ理由は?」
「今から話そウ」
真っ直ぐと俺を指差すアガレス。
「ギンジロウ。お前を勇者に任命すル。これより異世界へと旅立ち、闇を討伐せヨ」
「勇者? 討伐?」
頭が混乱してきた。異世界における目的みたいなものか。ここに関しては、持ちうる知識からは予想がつかない。放置すると厄介だ。不明な疑問点は解消するとしよう。
「その勇者ってのは、正義の味方か?」
「その通リ。絶対善、必要善、秩序、規律、法、裁き、支配。勇者とは、これら全てを体現した光ダ」
長いし面倒。そういうお堅いのは、俺にあってない。どっちかといえば、俺はチョイ悪くらいの存在だ。
「お前はこれらを背負い、世界に光をもたらすのダ」
「へーい」
なぜ俺なんかが。本当はやりたくない。しかし、相手は転生を管理する存在。断った時のデメリットが怖い。嫌々でも引き受けるしかないな。
「で? そんなお利口さんの俺が、倒すべき闇というのは?」
「魔王ダ」
「魔王ね。名前からして、なんとなく悪役のイメージがあるな」
「その通リ。魔王とは勇者と対をなす闇。存在が悪。放置すれば、異世界は滅びるだろウ」
「そんな危険な相手なら、あんたが行けばいいだろ」
「それは出来なイ」
「何で」
「答える義務はなイ。お前は俺の指示に従えばいイ」
神様的な存在は人間に干渉しない、ってやつか。ずいぶんと都合の良いことで。
「話は以上。これよりお前を異世界へと転移すル。と、その前ニ」
「?」
「お前には何でも一つスキルを与えよウ」
「スキル?」
「異世界の力ダ。使いたい力を言ってみるが良イ」
「なるほど。ちなみに選択リストは」
「お前は異世界転生の知識に富んでいル。ならば、力については想像できるだろウ?」
「まあそれなりには」
「自分で使いたい力を言エ」
こいつはチートスキルを与えると言ってるんだよな。異世界初心者の俺としてはありがたい話。
けど、いきなり言われてもな。しかも、選択肢がないときた。自由なのはありがたい。が、一から考えるとなると迷う。
無双したいなら最強のスキル。一から力をつけたいなら、平凡なスキル。未知数の道を開拓したいなら、あえてハズレスキル。
制限がない以上、選択肢は無限大。考える時間が欲しい。
「早くしロ」
「んー、最初はあんまり強くてもな。序盤から目立つと動きずらいし」
「五、四、三、」
「急かすなよ」
カウントダウンが始まっちまった。このままだと、適当なスキルを与えられてしまいそうだ。何でもいいから、使いたい物を言わなければ。
「あー、最初は何の変哲もない木の棒とか? なんて」
王道ならこれ一択。力を理解していない序盤は、これで戦闘に慣れましょう。なんてバカか。チートスキルでそれを選ぶメリットはない。
「今のなし。やっぱり」
「よかろウ」
俺の手に硬い何かが入り込む。それは、ややスベスベしていた。なんだこれ? 違和感を確認すべく、そこに目線。正体は、
「木の棒?」
「スキル、『木の棒』を付与しタ。これでお前は未来永劫、その武器でしか戦えなイ」
「は? おいまさか、これが俺のチートスキルか?」
「その通リ。要望通りのスキルだ」
まさかのハズレスキルか。いや、これは逆に当たりかもしれない。見た目は普通の木。だが実は隠された力を内包。一度使えば、最後まで無双できちまうパターンとみた。
「勇者ギンジロウ。これより異世界へと転移すル」
アガレスの言葉と共に、俺の体が透けていく。どうやら、異世界へと旅立つ時が来たようだ。
「まずは始まりの町に送ル。その力を駆使し、魔王の討伐に望むがいイ」
「うーす」
ここから異世界ライフが始まるのか。勇者として魔王討伐に向けて。今さらながら、なかなかぶっ飛んだ展開だな。
前世では普通の人間だった俺。そんな奴が世界の命運をかけて戦うとは。
とはいえ、チートスキルをもらったんだ。何の不安も抱く必要はないだろう。これが何の変哲もないただの木。なんて馬鹿な展開がなければ。
「では見当を祈、ン? なんダ? 転移場所が大幅にズレ」
◇
「お、ここが異世界か」
俺はどこかの薄暗い城内にやってきた。アガレスの発言から、ここは最初の町なのだろう。にしては不気味。やや空気が重い。一言で表すならラスボスの居城。なんてな。そんなバカなことがあるわけない。
「なんとか召喚できましたね」
真横から声。そちらを向くと銀髪少女。
「ようこそ。異世界からの転生者さん」
「その発言。俺のことを知ってるのか?」
「ええ。書物の知識から、あなたが異世界人なのは理解しています」
少女はスカートの両裾をつまみお辞儀。
「なるほど。説明や誤魔化す手間が省けて助かる。で? お前は誰だ?」
察するに、勇者パーティーの賢者的なポジションとみた。チートスキルがあるとはいえ、俺一人では目的達成は困難。この少女は、そんな俺を導くナビゲーターだろう。
「勇者? ご冗談を」
少女は羽織っているマントを広げる。賢者の衣装にしては凝っているな。なんというか、どこかの王みたいな
「私は魔王。名をラストと申します」
「なるほど。勇者パーティーの魔王ね。あるあるの役職だな。っては? 魔王?」
確かアガレスが言っていた。俺の使命は、魔王を討伐することだと。それがこいつ? こんな可愛らしい少女が俺の敵?
まさか。勘違いだ。もしくは聞き間違え。確認すれば、それが誤解だとわかる。
「魔王ってあの闇がどうとかの? お前がそれ?」
「はい一応」
「魔王のコスプレ、自称だよな?」
「本物ですよ?」
「弱そうなのに?」
「失礼な! まあ……最弱なのは否定しませんけど」
「嘘、だろ」
夢なら覚めろ、と俺は眉間を抑える。いきなりラスボスかよ。なにこの絶望展開。一人で最終決戦に挑めと? 戦闘経験も糞もない状態で? 詰んでる。俺の異世界生活はこれで終わりだ。
「唐突で申し訳ありません。あなたには、私の代わりに魔王になって貰います」
「ゑ?」
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