記憶喪失になったことにしよう

浅野製作所

第1話


次元間戦争。

異世界への侵略、それを実行するにはルールがあった。

ステージを決め、1対1、10対10、あるいは100対100で戦うという、さながらスポーツのような取り決めがあった。

俺、東成は地球ランキング3位を誇るプレイヤーだ。

生まれは中国の農村部。

「異能」を見込まれ、幼少から次元間戦争で戦い続けているが、正直飽きていた。

「はい、これでおしまいっと」

敵の脳天にヨーヨーを叩きつける。

それで3体目の敵は消滅した。

今回も楽勝だった。

敵は頻繁に戦争を仕掛けてくるが、勝率は低い。どこかの学者が「次元間戦争は勝つことより行うことに意味がある、という価値観を異世界人は持っている」なんて論文を出したくらいだ。

ふと見ると、俺の隣に豪奢な赤毛の女が立っていた。

敵対するアメリカ代表「爆炎のフレア」だ。

「中国人。少しは活躍してるの?私はもう2体倒したわよ!」

「俺、3体」

「……ふん、少しはやるじゃない!」

フレアはプイとそっぽを向いた。

「あれ、ねえ様。ヤンキーがまた負けてますよ?」

「そうね妹や。また負けてるわね」

北欧の双子、エルとアルがクスクスと笑う。

……面倒臭い。

こいつら、同じ地球陣営ではあるがライバルであっても仲間ではないのだ。

そのとき、ミサイルが飛んできた。

敵はミサイルなんて使わない。どっかの馬鹿の誤射だ。

それをフレアは爆炎で迎撃した。

爆発するミサイル。飛んでくる破片。

俺はフレアと双子を背中で庇った。

激痛。

もう嫌だ、こんな生活。俺は、この地獄から抜け出すためにある計画を実行することにした。

それが別の地獄を呼び起こすとも知らずに。



目覚めるとベッドの上だった。

柔らかい枕、清潔なシーツ。目の前には白衣のおっさん。その背後には偉そうなスーツたち。

「目が覚めたかね?」

おそらく医者だろう。白衣のおっさんが声をかけてくる。

俺は両手で頭を抱えて言った。

「うう~、頭が痛い!割れるようだ!」

「……いや、別に頭は損傷してな「痛い痛い!」」

大声を上げて医者を黙らせる。

ヒソヒソ話をするスーツども。

医者は、俺を落ち着かせるように言った。

「東成くん。落ち着きなさい」

「東成?それが、俺の名前ですか?」

スーツのヒソヒソがザワザワに変わる。

「おい、どういうことかね?」

「いや、これはPTSDによる一時的な記憶喪失かと」

スーツどもの話し声が聞こえる。

「おい、彼は貴重の戦力だぞ」

「このタイミングで戦えないのは困る」

俺は密かにほくそ笑んだ。

俺の作戦「記憶喪失になっちゃったからもう戦えません」が始動したのだ!

しばらく医者と記憶喪失のふりをして押し問答していると、ドアが開いた。

意思の強さを示すようにツカツカと強い足取りで、フレアが俺の枕元に来る。

「あんた、私を庇ったからって借りを作ったとか思ってるんじゃ……どうしたの?」

ここが正念場だ。俺はキョトンとした顔をしてフレアを見た。

「あなたは?だあれ?」

フレアは医者を見る。

「記憶喪失です」

瞬間、フレアの目が妖しく光った、気がした。

フレアは、俺を抱き締めてきた。締めるの強め。

「な!?なにしやがる!離せ!」

俺はフレアを突き放そうとする、が、できない。締め上げる力はますます強くなっていく。

「落ち着いて。私はあなたの妻よ!」

「はあ!?そんなわけないだろうが!」

フレアは自分の額を俺の額にぶつけてきた。

ゴツと音がした。

睫毛の数えられる距離。

フレアは言った。

「全部忘れちゃってるのね。でも大丈夫。あなたは私が守るわ。ダーリン♪」




……なんか大事になった。

それも、国を巻き込むレベルの。


元々俺とフレアは中国とアメリカの敵対陣営。それが密かに付き合っていた(嘘)というラブロマンスをゴシップ大好き欧米メディアが挙って取り上げたのだ。

「今までは立場上お互いの思いを隠して愛し合っていました。でも!これからは私が夫を守ります!」とか言ってフレアは悲劇のヒロインになってるし。

それを、我らが親分中国も黙認した。なんかミサイル飛ばしたのが味方陣営のやつだったらしくて、非難の矛先逸らすのにちょうどよかったみたい。

「どうしてこうなった?」

連日賑わうワイドショー。

それに待ったをかけたのは北欧の双子、エルとアルだった。

「「あのふたりが愛し合っていた事実などありません!」」

いいぞもっとやれ。

「「なぜなら兄様と愛し合っていたのは私たちですから!」」

うを~い!ちょっと待て!



「勝手なこと言ってるんじゃないわよ!」

そう言ったのは双子の記者会見に乗り込んだフレアだった。なぜか首輪を付けた俺を連れて。

「勝手なこととはなんですかな?」

「勝手なことを言ってるのはあなたではないですかな?」

双子も負けてない。

「ほら、ダーリンもはっきり言って。あの双子を愛していないって」

おまえのことも愛してないけどな。

だが、俺の言葉はあの一言で封殺される。

「全部忘れてしまっているのですね」

「大丈夫。兄様は私たちが守ります」

……これ言われるとなにも言い返せねえ。

くそう、記憶喪失設定め。



「……これって、3股してたってこと?」

「うわ最悪」

俺の株急降下。

そのとき、空が陰った。

同時に2体の巨人が降ってくる。

その場にいた半数のメディアは逃げ、気骨のある半数のメディアは3メートルの巨神を撮っていた。


最悪だ。

異世界ランキング1位と2位の怪物、ゲーブルハウザーとザイベルトだ。

俺は地球ランキングなら3位だが、異世界ランキングなら50位以下だ。まともに戦っても、勝ち目はない。

記憶喪失なんて言ってる場合ではなくなった。俺は、武器のヨーヨーを握り締めた。

そのとき、怪物は口を開いた。

「東成。私がパパだ」

「私がママよ」

「んなわけあるかい!」

俺は怒鳴っていた。

「全部忘れてるのだな」

「大丈夫。私たちが守るわ」

「いや、さすがに無理があるだろうが!そもそもなんで俺の記憶喪失を知っている!」

「「テレビで」」

「異世界人が地球のワイドショー見るなや!」



……その後、これが切欠で地球と異世界との初の同盟につながるのだが、それは別のお話。

俺は、というと素直にごめんなさいした。記憶喪失は嘘ですと白状した。

しかし、フレアと双子と愛し合っていたという捏造された過去は消えなかった。

解せぬ……。




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