番外編「β王配の受難と幸福」

 数年後。

 ドラグノフ王国には、新たな歴史が刻まれていた。

 史上初、βの王配(おうはい)が誕生したのである。

「ルッツ様、こちらの書類にサインを!」

「ルッツ様、隣国の使節団が面会を求めています!」

「ルッツ様、本日のおやつはラムネでよろしいですか!?」

 王城の廊下を、ルッツは早足で歩いていた。

「ああもう、忙しいな! ラムネは三倍用意しておいて!」

 騎士団を引退し、イグニスのパートナーとして公務に就いたルッツは、その実務能力の高さ(と元来の度胸)で、瞬く間に王宮の実権を握りつつあった。

「お疲れのようだな、愛しい王配殿」

 背後から抱きすくめられる。イグニスだ。現在は国王として即位している。

「誰のせいですか、誰の。イグニスが面倒な会議を全部俺に投げるからでしょう」

「お前の方が優秀だからな。βの事務処理能力は宝だ」

 イグニスはルッツの首筋に顔を埋め、深呼吸する。

「……ふむ。やはり匂わないな」

「まだ言ってるんですか」

「だが、安心する。俺だけの無臭のオアシスだ」

 イグニスは公務中だというのに、ルッツの耳を甘噛みする。

「ちょ、ここでやめてください! 侍女が見てます!」

「構わん。見せつけてやれ」

 相変わらずの独占欲と奔放さだ。

 夜になれば、βの頑丈さをいいことに、加減知らずの愛を注がれる。

「まったく……手のかかる旦那様だこと」

 ルッツは文句を言いながらも、その表情は幸せそうに緩んでいた。

「ルッツ、愛しているぞ」

「はいはい、俺もですよ」

 最強のα王と、最強のβ王配。

 二人の治世は、王国史上最も騒がしく、そして最も平和な時代として語り継がれることになるのだった。

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