第13話「運命の定義」

 騒乱が収まり、王都は復旧作業に追われていた。

 ルッツは救護テントで手当てを受けていた。幸い、軽傷で済んでいる。

「……ルッツ」

 テントの入り口をくぐって、イグニスが入ってきた。

 周囲の騎士たちが慌てて席を外す。

 二人きりになったテント内。

 ルッツは包帯を巻かれた腕をさすりながら、気まずそうに視線を泳がせた。

「あの、殿下。退団届のことなんですけど……」

「破り捨てた」

 イグニスが即答した。

「ゼクスから取り上げて、燃やした」

「えっ」

 イグニスはルッツの前の椅子に座り、膝を突き合わせた。

「ルッツ。俺の話を聞いてくれ」

 その表情は、いつになく真摯だった。

「俺は、お前がβだと聞いて、確かに動揺した。だが、それは失望ではない」

 イグニスはルッツの手を取った。

「俺は今まで、自分が最強のαであるがゆえに、相手には最強のΩを求めていた。それが『運命』だと思っていたからだ」

「……はい」

「だが、違った。俺が求めていたのは、俺と対等に渡り合い、俺の背中を預けられる、魂の伴侶だ」

 イグニスの指が、ルッツの荒れた指先を優しく撫でる。

「お前はβだ。魔力もない。フェロモンもない。だが、誰よりも強く、美しい。……あのドラゴンの前で、俺を守ろうとしたお前の姿を見て、確信した」

 イグニスはルッツの手の甲にキスをした。

「性別など、ただの記号だ。俺はお前という個体に惚れたんだ、ルッツ」

 ルッツの目頭が熱くなった。

 ずっと、これが聞きたかったのかもしれない。

「……でも、俺はβですよ? 子供も産めないし、フェロモンで癒やすこともできません」

「子供なら養子を取ればいい。癒やしなら……お前がそばにいて、ラムネを食べている姿を見るだけで十分だ」

「なんですかそれ」

 ルッツは涙混じりに笑ってしまった。

「それに、俺のフェロモンが効かないというのは好都合だ」

 イグニスがニヤリと笑う。

「ベッドの上で、俺がどれだけ理性を失っても、お前なら受け止めきれるだろう?」

「……ッ!?」

 ルッツの顔が真っ赤になった。

「な、何を言ってるんですか!」

「事実だ。覚悟しておけ」

 イグニスは立ち上がり、ルッツを抱き寄せた。

 今度は逃げなかった。ルッツも、イグニスの背中に手を回した。

「……俺、生意気ですよ?」

「望むところだ」

「すぐ喧嘩しますよ?」

「それも愛興だ」

「……好きです、イグニス」

「ああ、知っている。俺も愛している」

 二人の唇が重なった。

 甘く、そしてラムネのように少し酸っぱい、始まりの味がした。

 テントの外では、復興を祝う鐘の音が鳴り響いていた。

 勘違いから始まった恋は、種族の壁を超えて、本物の「運命」となったのだ。

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