ミチコ、手を褒められる

一陽吉

それはこのお酒を飲むと現れる

「母上様の手はいつ見てもきれいですね!」


「え? そう?」


 口からグラスを離しているときに言われ、ちょっと驚いた。


 タイミングもそうだが、二十歳になるいままで手を褒められたことは一度もなかった。


 私の手は母に似て、指が短く肌が少し良いくらいで、それ以外に特別なことはないし、目立ったものではない。


「でもそれならタチコだって、そうじゃない?」


「いえ、私は母上様をベースにして生まれたので、ある意味、当然のものです! でも、母上様の手は意図して得られたものではありません! まさに神が与えたもうた手です!」


 ふむ。


 まあ、娘となるタチコは魔法の卵によって私の生体波動をもとに生まれているからそれはそうかもしれない。


 大人モードになっているタチコの手をちらっと見ただけでも、私のと同じなのが分かる。


「あ、母上様、おつまみのお新香がなくなってきましたね! 取ってきます!」


「あ、いいよ。私がやる」


 立ち上がろうとするタチコに声をかけると、私はお新香が入っている冷蔵庫を見た。


 すると、冷蔵庫のドアが開いて中からスーパーで買った白菜のお新香が取り出され、私たちが向かい合うテーブルの上に置かれた。


「うわ~、母上様! 魔法の手も操作がお上手です!」


「ありがと」


 喜ぶタチコに笑顔でこたえる私。


 これは私が魔法使いになったからではない。


 いま飲んでいる特殊吟醸・百合魔王酔華山ゆりまおうすいかざんの効果である。


 つまり、私は魔力をもとにした透明な手を操作できるのだ。


 タチコが生まれる前はできなかったから、間違いなくタチコの存在によって刺激され、目覚めた能力だ。


「それじゃあ母上様! あらためて飲みましょう!」


「ああ、そうだね」


 ──金曜日の夜。


 自宅マンションで娘と一緒に飲むのに時間はたっぷりある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミチコ、手を褒められる 一陽吉 @ninomae_youkich

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画