保護猫カフェのちゅん
福岡太郎
第1話
その茶トラ毛並の猫は冬の貴重な日差しが当る店内の窓際のホカホカの毛布が敷かれたお気に入りの場所に寝ころび、チラつく雪を見ながら
前の主人と暮らした幸せな日々を思い出していた。
親猫と逸れ仔猫だった頃あるマンションの扉の前で寒さに震え佇んでいた自分を暖かい部屋の中に入れてくれたのが最も古い主人との記憶だった
扉の前で、ちゅんちゅん鳴いていた事からちゅんと呼ばれそれが名前に成った。優しかった主人健吾が、棒の先に、房が付いたおもちゃを目の前で振って猫パンチを繰り出す姿をみて笑い声を上げていた、ひもの先に鼠のおもちゃが付いていて、それを部屋の遠くの所に投げ、ひぱって鼠を動かし、それを追いかける姿を見て、優し気に笑い、前足で上手く抑え、口に咥え捕まえると、おやつをくれ、喉と、頭をなで、で誉めてくれた。小さな鏡を使い、床に光を反射させ、その光を前足で捕まえようと、一生懸命追いかける姿をみて、笑いながら一緒に遊んでくれた日々、ゴキブリを狩って持ってきたら驚きながらも頭を撫でてくれた優しい掌の感触 、ある日主人が、知らない人間のメスを部屋に入れ、そのメスに対し唸り声を上げる自分をケージに閉じ込め寂しい思いをした夜
あの人間のメスに対し見せる、主人の態度を見て、この泥棒猫!と思ったが、その人のメスから、餌やおやつをもらう様になって、その人間の事も科家族の一員として認める様に成ったが、そのメスが居ない時は必要以上に主人の体に自分の臭いを擦り付けた。
ある夜突然、主人が倒れ、ピクリとも動かなくなってしまったので、必死に鳴き、顔中をペロペロ舐めた。
息はしているが、片側の手脚が動かせない様で、主人健吾は起き上がろうとするも、もがいていた。
ちゅんは主人が発するストレス物質による体臭の変化で、大変な事が起ったと理解し、
冷たい床の上で倒れ小刻みに震えている主人に寄り添い身体を寄せ身体を温め、グルググると喉を鳴らし続けた。
猫であるちゅんには知る由も無かったが、突然倒れた主人である健吾は脳梗塞を発症していた。猫のゴロゴロ喉を鳴らす周波数は人間のストレスを緩和させ、血圧を安定させる効果があった。
ちゅんは健吾を起そうと喉を鳴らしつつ、にゃーにゃにゃ―と鳴き続けた。
駄目だ、起きない、このままではいけない何とかしないと、人を呼んで来ないとと思い、何とか外に出られないものかと玄関の扉の前に向かった。鋼鉄製の扉は固く締まっており、鍵も掛かっていた。
ちゅんは扉を開けようととドアノブにジャンプして飛び掛かったが猫の手ではどうしようも無かった。
ちゅんは悲しくなり、あぉーんあぁおぉーんと大きく口を開けて鳴き声を発した。その時外から扉がどんどん叩かれ、
「斎藤さん!さっきから猫の鳴き声うるさいですよ!」と苛立った男の声が聞えて来た。
ちゅんは人が来た。この人に知らせなきゃと思い、部屋の内側から鋼鉄製のドアに向かい何度も体当たりをして、ドーンドーンと音を発生させさらに、玄関の高い処に置いてある物を、猫パンチで次々に落とし、ガシャーン・ガシャーンと大きな音を立て更に、あぉーんああぉおおーんと甲高く何度も鳴いた!
扉の外に居た男は、それで、何かおかしいと想い、電話を取り出し、管理者と警察に連絡し状況を伝えた。
暫くして管理者と警察官がやってきた。
管理者がカギを開け、警察が部屋の中に入ると、
倒れているこの部屋の家主健吾と、寄り添う猫の姿を発見した。
警察官は無線を取り出し、救急車の手配を行うと、倒れている健吾に部屋に有った毛布を掛けてやった。
ちゅんは毛布の中に入り込み、喉をグルグル鳴らしながら人が来た良かったと思いながら健吾に沿い続けた。
暫くして白衣を着た男たちが担架を持ってやってきた。
男達は、健吾の身体を色々調べて終わると、担架の上に健吾を移し、部屋の外に運び出そうとした。
ちゅんは、主人を追いかけようと健吾が乗せられた担架の後を追いかけ、白と赤色の車に乗せられたのを見て、自分も飛び乗ろうと、ジャンプしようとしたところ、警察官に抱えられてしまった。
その間に救急車は病院に向け出発してしまった。
ちゅんはそれを見て、抱き抱えている警察官の目に爪を引っ込めたまま猫パンチを喰らわせ、警察官が怯んだ隙に身を捩り、地面に降りると、救急車を追いかけ、闇の中を走り追いかけだした。暫く歩くと冷たい風と共にパラパラと雨が降ってきた。
走り疲れたので、屋根があるところで、休む事にした。置いてあったダンボールの上で、身体を丸め、寒さに震えながらも救急車で運ばれた主人、健吾の事を案じていた。
猫の保護団体で保護されるまで野良猫として放浪していた。思い出すと辛くて、心がうす寒くなる野良猫だった時の記憶。
もう大丈夫なはず。今の自分には温かい場所とお腹いっぱい食べられる場所がある。
野良猫として暮らしていた時烏に襲われたり、野犬に追われたりと怖い思いをしたので、保護された当初は来る人来る人、シャーシャー威嚇もしたりした。
チクリと痛い注射も打たれたが、温かい寝床とお腹いっぱいになるご飯を食べさせてくれた。日を追うごとに警戒は解け、優しかった主人と暮らしていた頃のほんわかとした気持ちに戻れた。
それにもうすぐあの人が私を迎えに来て連れて行ってくれるはず。
だって、あの話をしているのを聞いたから」
ちゅんがいうあの話とは、この保護猫カフェの運営者がお客としてくる人間と何かしら話をして、その数日後、その人間がキャリアケースを持って来てその中にお気に入りの猫を入れそのまま店を出て行ってしまう事だ、最初ちゅんにはその事が何なのか分からなかったが、この店に古くから此処に居るという古参の茶虎毛並猫のハルマキが、あの猫はあの人にお迎えされて、あの人の家で幸せに暮らすんだよと教えてくれた。
ちゅんには偶に尋ねて来た時におやつをくれて、優しく撫でてくれる馴染の人が居た。
その人がここの運営者と話をしているのをちゅんは見て耳を澄ませ聞いていたのだ。
今までの会話のパターンから此処の猫の誰かがお迎えされる話だと察した。
「とうとう私もお迎えされるのか....」
その人の事は嫌いでは無かったのでちゅんは嬉しかったが、前の飼い主の記憶もまだうっすら残っているので複雑な気分だったが此処に居ても場所の取り合いで、心が落ち着く日が無いので、飼い猫に戻れる生活には憧れを抱いていた。
そんなある日、ちゅんの休息日の翌日、一頭の黒猫が居なくなっている事に気が付いた
古参猫のハルマキがちゅんの隣に来て、
「お前が休みだった日に偶(たま)にお前を指名しているあの人間が来て、持ってきた籠に黒猫を入れて連れ帰ってしまったよと教えてくれた。
「えっ!どうして!私じゃ無かったの!」とちゅんは酷く困惑した。
沢山撫でてくれたし、私も沢山手を舐めてあげたのに、
ちゅんはその事を思い出すだけで、いたたまれなくなり、ついつい、その場で粗相をしてしまった。
「いや、お前は連れて行かれなくて良かったと思っているよ。あの人間は何かやばい感じと臭いがしたから」
「えっ!いい匂いだったよ......」
「それはお前が騙されている。あの人間はマタタビか何かを服に仕込み、俺達猫を欺こうとしていた」
「それじゃ誤魔化せられない位嫌な臭いがしていた」
「それに、同じ人間には自分の本性を隠し内面の薄ら暗い負のオーラを隠し、外見ばかり取り繕っていた。
「まあ、俺位猫生を積んでないと分からない臭いと内面と外面の差異だけど、あの人間は本当に、やばかった.」
「普通の猫や人間は騙されても仕方がない..」
それから数か月して、あの人に連れて行かれた黒猫が怪我をした状態で戻ってきた。包帯はされていなかったが、顔の所々にある傷の跡は痛々しかった。
ちゅんはその猫の毛並を舐めながら何が有ったか聞いてみた。
最初は優しかったんだけど、何か癇に障る事が有ると物を投げて来たり、蹴ってきたりしたんだよ。
「僕が何か悪い事でもしたのではと思い、
御腹を見せて何度も御免なさいってあやまったんだけど」
「僕のその姿を見ておなかを足で蹴って来たんだ」
「そして、猫踏んじゃったと口ずさみながら僕の事を脚で踏みながら動画を撮り始めたんだよ」
「それで命の危険を感じて、思いっきりその人間を爪を伸ばし引っ搔いたんだ」
「そしたらご飯を全く食べさせて貰えなくなったから」
「その人間が外に出かける時に隙をみて、ドアの隙間から外に出て逃げ出したんだ」
「暫く野良猫として、地域猫の餌とか貰って食べていたけど、人が怖くて近寄れなかった」
「ある日、御腹がとても痛くなって、道の上で動けなくなったんだ」
「気が付いたら傷は治療されていて、仕切られたケージの中で過ごしていいてまた此処に戻されたんだよ」
「戻って来たら、此処の人に何度も御免ねってあやまってきたよ」
「でも、僕の人間が怖いと思う気持ちはどうしようも出来ないよ.............」
「ちゅんは、黒猫からその話を聞いて憤りをか感じ、人間が怖くなり、お客さんに対し必要以上の営業はしなくなくなった
ある日初老の男性がふらっとカフェを訪ねて来た。
男はちゅんに対しオヤツを与えようともしなかったが、その初老の男性から、どこかで嗅いだような懐かしいにおいが漂ってきたので
、ちゅんは
その男の傍に行き、鼻面を男の服に当て臭いを嗅いでいた。やはり、どこかで嗅いだ懐かしいにおいがするという感覚と共に、何か思い出しそうな感覚が湧き上がってきたが、それが何だか思い出せない。
男はちゅんの頭に手をやり、大きな手で優しく撫で始めた。
男に撫でられたちゅんは何とも言えない懐かしい気持ちにおそわれた。
この手の感じあの人に似ている。
主人健吾に頭を撫でられた記憶を鮮明に思い出し、
「にゃーん!ミャー」と甲高く鳴いた
暫くすると、男は立ち上がり、店の外に出て行ってしまった。
男はカフェの裏手にある大きな病院の中に入り9階にある。とある個室の病室にノックをしながら入った。
部屋の中にはベットに横たわっている一人の男とその横に座っている。御腹が大きな妙齢の女性が座っていた。
女は握っていたベッドに横たわっている男の手を離すと扉から入ってきた男性に向かい
「義父さんお帰りなさい」
「二人だけにして貰い有り難うございました」
と言った。
「伸華さん、やはり、健吾は目を覚まさないかね!?」
「はい、しかし手を握っていると時々、瞼がぴくぴく動くんですよ」
「もう意識を失ってからもう三か月も目を覚まさない」
「この御腹の子は大きくなる一方なのに」
「伸華さんには本当に感謝していますよ」
「交際しているとは言え、籍も入れていないのに、健吾がこの状態になっても、見捨てず一緒になってくれて」
「御義父さん私は健吾さんが倒れた後、この子を授かっったと分かったその時から、覚悟を決めていたのですよ」と言って日々大きくなる自分の御腹を愛おしそうに撫でた。
「伸華さん、さっき見せてくれた、健吾が飼っていた猫の写真をもう一度見せてくれんかね」
「どうぞ義父さん」
「似ているそっくりだ」
「さっき外に出た時この病院の裏手にある猫が沢山いる喫茶店に行ってきたのだけど、その画像の猫に似ている猫が寄って来て、やたら、においを嗅いできたんだよ」
「もしかしたら行方不明になった飼い猫かもしれない」
「その写真を私の携帯に送ってくれんかね、もう一度行ってくる」と言い先ほど向かった店に向かった。
、店に入ると、店の管理者に画像を見せ、
「あの猫は病院で昏睡状態になって入院している息子が飼っていた行方不明になっている猫かも知れません、その猫を連れて帰りたいのですが、」
「元の飼い主の元に帰れるのなら猫の幸せに成るのでそうしたいのは山々ですが」
「最近、引き取られた猫への虐待行為があったので、猫の譲渡には慎重になっているのですよ」
「その猫を飼っていたという証拠が何かあれば良いのですが」
「ああ、それなら、猫と一緒に写っている背景が確認できれば証拠に成りませんか?」
「確かにそれなら、有力な証拠に成ると判断できます」
「しかし、ご入院されている状態で、猫の世話は出来ますか!?」
「はい、今息子は入院していますが、必ず意識を取り戻し、退院すると確信しています」
「それに、警察の話によると、その猫が騒いで、人を呼んでくれたから、救急車が呼ばれ息子は助かったと聞いています」
「その猫は私達家族にとって、息子の命を救ってくれた、恩猫なのです」
「だから、その猫は私達家族が責任を持って、世話をする責務があります」
「分かりました、関係者で協議し、写真が写っている部屋を確認させていただくかもしれません」
「後日連絡しますので、連絡先を教えて下さい」
電話番号を伝えると男はちゅんに、有り難う息子の命が救われたのはお前の御かげだと言って頭を撫でた」
この男がさっき来た時より、懐かしいにおいが濃密になっている事に気が付き、店の外に出ようとする男を追いかけ、店の出口に付いて行ったが、脱走防止用の二重扉と店員に阻まれ、阻止されてしまった。
そして「あぉおお~と誰かを呼ぶように鳴いた。
「ちゅんが居た部屋の検証を行いたい」と
後日保護猫カフェの関係者から連絡があった。
日程を取り決め、健吾の母である妻と住んでいた部屋に向かい、保護猫カフェ関係者を部屋の中に案内した。
関係者はちゅんが映っている画像とその背景に映っている物を見比べながら、検証を始め、
ちゅんを引き取った後の飼育方法について聞いてきた。
「実家に連れ帰り、私と妻が面倒を見ます、なにせ、我が家の恩猫ですから」
「ちゅんが過ごしやすいように専用の部屋と改築もする予定です」
「それでは、入院中の息子さんは状況から返還が困難なので」
「代わりに、あなたに譲渡を行うという事でも良いですか」
「はい、あの猫は既に、家族同様ですので
それで、結構です」
「では後印鑑等持っておいで下さい、手続きを進めたいと思います」
と言い、男たちは帰って行った。
後日正式にちゅんが引き渡される日が来た。
ちゅんは健吾の父親が持ってきた猫用キャリーケースに中々入らなかったので、男はカバンから、ビニール袋に包まれた布を取り出し、キャリーケースの中に入れると、ちゅんは、魔法に掛かったかの様にするするとキャリーケースの中に入った。その布はちゅんの飼い主である健吾の臭いがたっぷりと染みついた枕カバーであった。
ちゅんは、キャリーケースの中で、枕カバーに自分の体を擦り付けていた。
そして男はキャリーケースに入れたちゅんと共に店の裏にある病院へと向かった。
目に入る救急車、救急車を追いかけた結果、奇しくもちゅんは主人健吾が収容された病院の近くまで来ていたのであった。
男はちゅんが入ったキャリーケースと共に病院の9階の病室に向かった。
個室病室に入ると、キャリーケースの中のちゅんはそわそわしだし、ケースの中でグルグル回り出した。
キャリーバッグの扉を開けると
勢いよく飛び出し、寝ている男の上に飛び乗り、寝ている男の眉間の部分を喉をグルグル鳴らしながら執拗に舐め始め、
「アォーアォー,」
と低く必死に呼ぶ様な声。
保護猫カフェのちゅんは再び主人のもとへ帰ってきた。
保護猫カフェのちゅん 完
保護猫カフェのちゅん 福岡太郎 @JMSDF225noshiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます