作戦会議

「それでは、志喜屋家の現状をお伝えします」


 花蓮が強引に話題を変える。

 先ほどまでの空気が、すっと引き締まった。

 これが本題だからいいけど、俺としてはもう少しいじりたかった。


「候補者——つまり、私の兄弟は四人です。そのうち、次期当主に決定していた長男は死亡。残り三人が私の敵となります。長女、次男、三男がいて、それぞれが陣営を持っています。詳しくは資料に書いてあるので、確認してください」


 花蓮が俺に紙の束を渡す。

 そこには、候補者たちの年齢、性格、関係性、陣営の主なメンバーなどが書かれていた。


「それぞれの簡単な説明をしていきますね。まずは長女の百合姉さん。姉さんは会社の怪異関係の部署の一つを任せられていて、本人もかなり強いという噂です。保有する戦力で言えば、最も高いです」


 俺は渡された資料のページをめくる。

 年齢は二十九歳。

 顔は花蓮にあまり似ていない。

 どこか影のある顔立ちだ。


「次に、次男の次郎兄さん。次郎兄さんは亡くなった一兄さんの補佐をしていました。現在は一兄さんの仕事の代行をしています。しかし、次郎兄さんは悪い噂が絶えません。会社のお金を横領している、部下にパワハラをしているなど。中には怪異を利用しているという、とても信じがたい噂もあります。噂がどこまで真実なのかわかりませんが、私は……あの人を信用できません」


 次男のページを見る。

 年齢は二十八歳。

 花蓮の言う通り、資料にも良い情報が載っていなかった。

 厄介な敵になりそうだ。


「最後に三男の三郎兄さん。三郎兄さんの仕事は大封印の管理です。定期的に中へ入って怪異の間引きを行っています。そのため、単独での戦闘力としては一番脅威となる存在です」


 三男の年齢は二十歳。

 他の候補者と比べてかなり若い。

 花蓮がダントツで若いのだが。


「ここまでで何か質問はありますか?」


 花蓮は一度言葉を切り、俺の反応をうかがった。

 資料から花蓮の目に視線を移す。


「陣営というのは、それぞれが受け持っている仕事のメンバーということですか?」


「大体はそうですね。私の場合は雑用しか任されていないので、私の陣営にいるのは蓮さんのみとなります」


 花蓮は寂しそうに笑う。

 他の兄弟は仕事を任せられているのに、花蓮だけ雑用をしている。

 年齢のせいだとしても、この扱いは不平等すぎる。


 後継者争いは負けたら死ぬと花蓮は言っていた。

 これでは、花蓮の死が決まりきった運命のようではないか。

 ほんの僅かだが、花蓮を襲う理不尽さに怒りを感じる自分がいた。


 だからこそ、仕組みを知っておきたかった。


「そもそもの話なんですけど、次期当主って何で決まるんですか?」


「そうですね、最終的な判断は現当主の父がしますけど、その判断材料になるのは主に功績です。強力な怪異を倒した、会社の利益に貢献したなど、当主として相応しい力を示す必要があります。その功績を達成するには、陣営の力が不可欠ですけどね」


 花蓮は落ち込む様子を見せる。

 だが、功績で決まるならやりようはある。

 花蓮もそう思っているのか、前向きな姿勢を見せる。


「私たちにできるのは地道に成果を上げるのみ。次期当主候補を倒したという実績の力を、期待していますよ」


 そう言って差し出された手は、とても小さかった。

 その小さな手を握った瞬間、なぜか嫌な予感が胸をよぎった。


 #


 ——その日の晩。


「今回の標的は誰ですかい?」


 薄暗い寝室に男は現れる。

 話しかける相手は名門志喜屋家の次男。


 彼は飾ってある家族写真を示した。

 青年は写真立ての一枚に指を滑らせ、しばらく眺めてから言った。


「志喜屋花蓮、俺の可哀想な妹だ」


 その言葉に、男はニヤリと口の端を吊り上げる。


「旦那も悪ですなぁ。封印師である人間が、怪異である私に家族の暗殺を頼むなんて」


 ケケケと男は笑う。

 旦那と呼ばれた青年もそれに釣られて笑う。


「元は次期当主である兄を殺すつもりだったんだが、勝手に死んでくれたからな。これで、残りの候補者を全員殺せば俺が当主だ。ざまあねえな」


 青年は愉悦に浸るような表情を浮かべる。

 男は背筋に冷たいものを感じた。


「それなら旦那、なぜ最初に妹君を狙うのですかい? 確か妹君が当主になる確率はゼロに等しいと言ってましたよね。警戒される前に力のある候補者を殺す方がいいのでは?」


 怪異の言葉に、青年は鼻で笑う。


「そんな簡単に終わっては楽しくないだろ? せっかくなら壊れる音が聞きたい。俺はあの忌々しい兄弟たちが怯える姿を見たいのだ。花蓮には特に恨みはないからな、早く死なせてあげるのが優しい兄ってものだ。そうだろ?」


 怪異は頷いた。


「さすが旦那だ。やはり旦那こそ、当主に相応しい」


「ふふん、そうだろそうだろ。俺が当主になった暁には、約束通りお前にも褒美をやる。楽しみにしておけ」


 青年は機嫌良さそうに言う。

 それに対して、怪異はありがたやありがたやと言葉を続けた。


 ——その場面を、一人の一般人は見ていた。

 物陰に立ち、ただ黙って見ていた。

 そして、その一般人は静かに考えていた。


 この状況を、どうやって利用するかを。

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