身体能力試験
擬似怪異がキラキラと粒状になって消えていく。
その様子は美しかった。
本物の怪異にはない光景だ。
「時間切れです。それでは、次に身体能力用の擬似怪異を出します」
仕切りよりも上の方からキラキラと粒が降り、怪異の姿を形作った。
さっきよりも小さいように見える。
なぜだろうか。
屋敷での封印師を思い出す。
自ら武器を持って戦う人は少なかった。
もしかしなくても、封印師は近接戦闘をしないのでは?
だから、身体能力用の擬似怪異は弱く設定されている。そんな感じだろうか。
「先ほど同様、三秒後に開始します。3、2、1——ゼロ」
擬似怪異は高く飛び上がる。
そして、そのまま片足を前に出してキックで俺を襲う。
とりあえず落下地点から離れて攻撃を避ける。
その後、少し硬直している擬似怪異を助走を付けて殴る。
——だが、それは当たらなかった。
正確には狙った場所に拳は通った。
それなのに、攻撃と判定されなかったのだ。
拳を見る。
特に異常はない。
なぜだ。
どうして攻撃判定にならない。
擬似怪異の一方的な攻撃を受ける。
このような一方的な戦いは初めてかもしれない。
これまでで一番の強敵だ。
俺の攻撃が通らない原因を考える。
前提として擬似怪異は壊れていないと考えよう。
もし壊れているなら、後で確認してもらったらいい。
それならなぜ、霊能力用の擬似怪異は倒せて身体能力用の擬似怪異は倒せないんだ。
二つの相違点を思い出す。
そもそもの擬似怪異の違いは攻撃判定だ。
霊能力用は霊力が必要だと言っていた。
逆に身体能力用は、その攻撃に霊力が含まれたら攻撃判定にならないと言っていた。
そこから導き出されること。
それは——俺の拳に霊力が籠っているという結論。
そうとしか考えられない。
俺は怪異の世界で約一年間過ごした。
体に異変が起きてもおかしくない。
実際、食生活について変化はあった。
俺が気づいてない異変が他にもあって然るべきだ。
そうと決まれば、やることは一つ。
霊力とやらを纏わないこと。
純粋なパンチを作る。
今は霊力を操作できない状態だ。
それをまずは霊力の存在を意識するところから始める。
擬似怪異の攻撃を避けながら意識を拳に集中する。
拳の外側にある存在……あった。
液体のようなものが拳を覆っていた。
それを移動させようとする。
だが、中々びくりともしない。
神経が繋がってないようなものだ。
感覚すら掴めない。
しかし、これまで無意識に使っていたのだ。
絶対方法はある。
考えろ。
——少しだけ、脳筋な考えが浮かぶ。
これで動いたら嫌だという気持ちとワンチャンあるだろという期待が入り混じり、とりあえずやってみることにした。
拳を覆っている液体を、液体に覆われているもう片方の手で動かす。
僅かに動く感覚があった。
それと同時に神経が繋がる。
きっかけさえあれば、後は簡単だ。
霊力を手から足下に移動して、地面を蹴るパワーに変える。
見事にこれまで感じたことのない力強い蹴りで体がスピードに乗る。
その勢いを使って、霊力を持たない右手で擬似怪異を殴る。
すると、霊能力の時と同じようにコングラッチュレーションと表示されて粒が消えていく。
今、気づいた。
この粒も霊力の一種だ。
手の霊力もそうだけど、意識すれば見えるものだな。
「試験お疲れ様でした。次は生存能力試験をします。休憩も兼ねて移動するので、その結界に乗ってください」
また円状の結界が足下に現れて乗るよう促す。
まだ若干怖いが、恐怖心を乗り越えて乗ることにした。
最初から尻をつけた状態だけど。
「生存能力試験については移動しながら説明します。生存能力とは、怪異が潜む場所で生き残る能力です。これを擬似怪異で再現するのは難しいため、実際に怪異の棲家で行います」
監視カメラや電子ロックなど段々警備が物騒になっていく道のりを進む。
「この先に怪異の棲家——大封印があります」
この世界の異物があった。
渦巻く姿はゲートのように見える。
禍々しい黒色に染まっている。
「入社試験で大封印に入るのか! 花蓮おばさん!」
「おばさ……はい、あなたの言う通り大封印に今から入っていただきます。中はとても危険ですので、無理強いはしません。どうしますか?」
邪神竜におばさんと言われた志喜屋は一瞬ショックを受けたけど、すぐ持ち直して仕事モードに入った。
確かに姪っ子と叔母の関係だから邪神竜は間違っていない。
中学生の子に言うことじゃないけど。
「この邪神竜は入るぞ! 先祖が封印した怪異の数々、倒して見せよう!」
邪神竜はそう意気込む。
何のことかさっぱりだが。
「二人は大封印のことを知りませんよね? 大封印とは強力な封印師が大量の怪異を封印するために作ったものです。私たちが封印師と呼ばれる所以でもありますね。他にも大封印はありますが、シキヤ本社の地下にあるものは、志喜屋家が代々守り抜いている大封印です」
言い方的にもう何個か大封印がありそうだ。
志喜屋家と同じような封印師の名門なら大封印があるとか、そんな感じだろうか。
「確か怪異の棲家って危険度がありましたよね。大封印はどのくらいですか?」
「危険度はAです。大封印はかなり危険度が高い傾向があるのですが、中でも志喜屋家の大封印は別格ですね」
志喜屋が丁寧に説明する後ろで、なぜか邪神竜が誇らしげに胸を張っていた。
志喜屋の姪だと言っていたから邪神竜も志喜屋家の一人なのだろう。
その誇りもあるのだろうか。
「私たち、そんな危険な場所に入るんですか? これまでも死にそうだったのに、その何段階も上だなんて……」
白井は一人俯いていた。
怖いのだろう。
白井は俺と違って何も力がない。
それなのにバイトを続けていた理由。
それが少し気になる。
「白井奈緒さん、あなたの心配はもっともです。ですが、安心してください。今回の試練ではシキヤのサポートがある状態で受けてもらいます」
「サポート、ですか……?」
「はい、シキヤが提供するサポート。それは——特殊武器です」
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