第18話「研究活動⑥」


俺は、非論理的な快感に身を委ね、オムライスを完食した。皿の上には、「エネルギー補給」という論理が完全に崩壊した残骸だけが残った。


俺は、速やかに論理的な清算に移る。


「会計だ。この非効率な活動によって発生した金銭的コストを計算し、最終的な費用対効果を算出する必要がある」


「待って待って、研究者さん。まだ食後のデータ分析が終わってないよ」

蒼奈は、テーブルに頬杖をつき、満足感に満たされた俺の顔(論理的には平静な顔)を、面白そうにじっと見ていた。


「ねえ、春馬くん」


「なんだ。論理的な指摘があるなら、速やかに提示しろ」


「春馬くんはさ、『論理的に〜』とか、『破綻だ〜』とか、『感情は非効率だ』とか、よく言ってるよね」


「それが俺の『孤独の最適解』だ」


「でもさ、今日の『研究』を通して、私、新しい仮説を立てたよ」


蒼奈は、まるで重大な学説を発表するかのように、楽しそうに笑った。


「春馬くんはね、実際は感情が先に出て、あとから論理がついてくるみたいな感じだよね!」


俺は、その正確すぎる指摘に、一瞬息を止めた。


「何を言っている!俺の行動はすべて厳密な論理に基づいている!感情はノイズであり、排除対象だ!」


「ふふっ。例えばね」


蒼奈は、人差し指を立てて、確信に満ちた笑顔を浮かべた。


「『映画を観ながら苦しいっていう感情が先に発生した』から、『イケメンが裏切られるのは論理的におかしい』っていう後付けの論理で、自分の苦しみを回避しようとした」


「『お腹が鳴って恥ずかしいっていう感情が先に発生した』から、『これは映画が長かったことによる内臓の疲弊だ』っていう後付けの論理で、空腹を隠そうとした」


「『オムライスがうまいっていう感情が先に発生した』から、『これは客観的な事実に対する論理的な評価だ』っていう後付けの論理で、非効率な楽しさを正当化しようとした」


蒼奈の論理的な追跡は、完璧だった。彼女は、俺の『論理』が、感情の波を防ぐための防御シールドではなく、感情の波を説明するための通訳に過ぎないことを、正確に見抜いたのだ。


「春馬くんの『論理』は、感情の支配から逃れるための言い訳として機能してるだけだよ。君の感情は、君の論理よりも常に先行しているんだよ、研究者さん」


俺は、心の核心を覗かれたような、強烈な屈辱を感じた。


「……黙れ」


それ以外に、俺にできる論理的な反論はなかった。この究極の指摘に対し、論理的な手続きは存在しなかった。俺の防御は、蒼奈の純粋な洞察によって、完全に粉砕された。


「ふふふ。データ捕獲完了。ごちそうさまでした。さ、もうすぐ電車なくなっちゃうから、駅まで行こうか」


蒼奈は、俺の論理的な敗北を気にも留めず、楽しそうに席を立った。

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