明日の自分へ
海月ともね
第1話 ボク
できないんじゃなくてやってないだけだよ。
そんな言葉が大っ嫌いだった。いくら頑張っているつもりでも所詮他人からは結果を見てから言葉をかけられる。努力しているかしていないかなんてどうでもいいんだ。結果が出せなければ弾かれる世の中。差別とかよくない!よく聞く。けどいつのまにかカーストは付いていてそれによって差別が起きる。普通という線からはみ出た瞬間にどん底に落とされてしまう。言ってみればロープの橋のようだ。あの上に人が乗っていて、普通の人は落ちなくても、例えば、バランスを取るのが苦手だったら落ちてしまう。必死に食らいついていても、それを見た人は自分よりダメなやつだと認識した瞬間にそのギリギリ握っているロープから手を離させるようにして蹴り落としていく。それが今の世の中だ。僕はまさに落とされる方の人間だ。何か特別なものを持っているわけではないのだ。かと言って人並みに何かをなせるわけでもない。成績や資格を受けても赤点ばっかりで上手くいかない。あの言葉を、よく言われた。「頑張りが足りてないんだよ」と。今までの人生で何回言われたことか。数えきれない。そんな僕が、成功して幸せになる物語だ。とでも言いたいけれど、漫画の主人公でもなければ、隠れ天才でもない。コミュ力が高いわけでもないから、友達も少ない。唯一の息抜きできるのは、会って話すことができない推しだ。頭も悪い、運動が特別できるわけでもない、勉強できない、努力できない、才能ない、飽き性、それに加えてオタクなのだから、この先の未来はお先真っ暗なのもご最もだ。大人になりたくないな。ただ楽しくもない生活の中、経済状況が悪くなって推し活もできないまま、やりたいこともできずに死んでいく僕の未来。いじめられているわけでもないし、とてつもなく貧乏とかでもない。だが、才能のある人間、すべてがうまくいっている、欲を言うなら有名な世界線を一回でも経験したいな。
「お、おはようございます。」
こんなことを考えていたら、いつの間にか学校の前まで来ていた。僕はパーカーのフードを外しながら学校の校門をくぐった。
「ああ、おはよう。おい、翔駒(しょうま)、流石にその前髪どうにかしろ。いくらなんでもそれでは授業に支障がでるだろ?ちゃん と見えてるのか?」
この人は僕の兄の顧問の先生だ。近所に住んでるのもあり、ほぼほぼ親戚みたいな存在である。僕が保育園生の時から、親が忙しかったっていうのと、先生の奥さんが保育園の園長さんであったのもあって、よく親が迎えに来れないときは、先生の奥さんと一緒に、先生の家に預けられていた。だからこんなになれなれしく話してくるのである。
学校には色んな人がいる。なにかわざとやらかして注目を集めるやつ。女子と仲がいいやつ。部活を頑張るやつ。勉強ができるやつ。大半の人とはもちろん話さない。いや、話せない。苦手な人達ばっかりだ。この先生も含めてそうだ。小さい時から知っているからなのか、注意しか言わない。そんなこと言っている先生だって、その服装どうなんですか?と聞きたくなるようなパツパツのスーツを着ている。何に対して良いと定めているのかがさっぱりわからない。この先生だけではないけど、何も言い返さないでいると、人は指図をしてくるようになる。「話さないやつイコール何も考えてないやつ」と思われているのだろうか。こちとら何も考えずに何も言ってないわけではないというのに。何でもかんでも口に出せばいいっていうものでもないしな。
「ねえ、僕。ねぇってば。」
誰かが僕のことを呼んでいる気がする。まあ、気のせいだろう。こんな僕に話しかけてくるやつなどいないはずだ。そう判断し、いつものようにスルーしようとしていた。けど、しつこく、
「僕、ねぇ、僕。聞いてよ。」
こんな僕に用があるやつなんているわけがな…え?振り返ると、そこには、黒い姿の僕がいた。厳密には、僕のそっくりさんだと思う。
「君は…誰?」
センターわけにセットされた髪、灰色の布でできている上品のベストの上にブレザーのようなものを羽織っている「僕」と同じ顔の人が立っていた。
「え?僕?君の片割れさ。いつでも相談に乗るぞ?」
と笑顔で手を広げながら話してきた。僕は混乱と動揺を隠すことができず、冷静に処理することができず、キレ気味に、笑いながら煽り返してしまった。
「は?片割れだなんて、どうせ僕を馬鹿にしてるんでしょ?」
相手は僕の煽りに負けてしまったのか、ついには本音をこぼしてしまっていた。人とは、限界の時に本性が出てしまう。
「馬鹿にしてる?あんたを?この俺様が?」
と言った後、男は意外にも冷静になり、再び話しかけてきた。
「あぁ、あんたは僕っていうのか。まぁ、すまん、ちょっと嘘をついた。厳密には、ほかの世界でのあんただよ。どう?好きか?俺はあんたと違ってすべてを持っている人間だ!」
と今度は誇らしげに僕に顔を近づけてきた。アニメや漫画だと鼻がピノキオ以上に伸びているだろう。
「ふん、そんなじょ、冗談に乗るやつがいるかよ。ほっといてよ。誰だかしらないけど、僕とかかわると、ろくなことにならないぞ。」
と僕はそいつを押しのけてその場を離れた。最悪だ。噛みたくないところで噛んでしまった。陰キャなのがバレてしまったのではないか。そんなことを考えながら、恐る恐る教室に入れば、いつも通りの教室だった。いつも通り女子グループは昨日のドラマの話をしていて、男子は走り回っている。もうすでに高校生だというのに、いつまでも小学生気分なのだろうか。そもそも走り回って何が楽しいのかも全くわからない。そんなことを考えながら、僕は席の横にカバンをかけて、カバンの中から教科書と小説のカバーに変えてある漫画を取り出した。あいつは何だったんだ、いったい。チャイムがなり、それと同時に教室のドアがガラッと勢いよく開いた。
え?うそでしょ?そこに立っていたのは、さっきの「僕」だった。厳密には「さっきの僕」ではなかった。服装と髪型が明らかに違ったのだ。クラスのいわゆる一軍が、
「中本先生おはようございます!」
と元気よく挨拶をした。え?何を言っているんだ。これは中本先生じゃない。誰も違和感を感じないのか?何も似てるところがないのに。中川先生は、身長が高くて、マッシュのイケメンで、世界一スーツが似合う男だぞ。それに比べてこいつは地味なパーカーに、ぼっさぼさの髪に、伸びきった前髪で目も見えない。
「では、これでHRを終わります。あとで、茲弥史、来てほしい。」
とジッと目を合わせてきた。その瞬間、僕の体に電気が走ったのが分かった。このゾクッという感覚に恐怖を覚えた。恐る恐るHR後に「先生」の所に行った。そうすると、僕は教室から連れ出された。その瞬間、思わず目をつむってしまうような眩しい光がボクタチの周りを包んでいっているのが分かった。意識が朦朧とするなか、声が聞こえてきた。
「…い。おーい。ココ、ココ!」
は?
「ここはね、ボクの世界だよ。厳密には、ボクの記憶の中だ。」
沈黙が続き、しばらくしてから指を顎に当て、うーんと考え込んだ様子で、
「まあ、まずはお前の見た目をどうにかしなきゃだな。まずは髪型からだな。」
とこの世界についての説明への質問を受け付けない、というように話を上手くそらし、話を進めていった。その瞬間、指をぱちんと鳴らそうとしたボクを見て、必死に呼びかけた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。もう一人は?」
と彼の手を掴みながら、少し揺らしながら聞いた。
「もう一人?ああ、前髪君ね。あれは、まあ、今言うとネタバレになるから、まあまあ、待ってて。そしたら、そのうちわかるからさ。」
と何かを隠すような表情で、目を横にそらしながら、僕をふりはらった。何も納得がいかない。そんな混乱をしている僕になんのお構いもなしに、パチンという指を鳴らす音が真っ白な何もない空間に響き渡った。僕は何がおこっているのかわからず、脳内の処理に時間がかかっていて、呆然としていると、彼の手元に鏡があった。それをこっちにむけるなり、
「どうだ?意外と似合うだろ?」
と言ってきた。え?マッシュ?意外と似合うんだなと髪を手でふわふわっと触っていると、横でニヤニヤしているボクがいた。
「何だよ」
「いや、面白くてさ」
と笑いをこらえていたのが分かった。
「じゃあ、質問です。この俺ははじめっからこんな感じだったと思いますか?」
と嫌味っぽく言ってきた。
「いや、急だな。まあでも、そりゃそうなんじゃない?すべて手にしているんでしょ?なんの苦労もないまま大人になったんじゃない?」
「あらまあ、失礼なこという子ですね。そんなわけないですよ。じゃあ、俺の人生を経験くださいな。まあ、先に、今の俺様の生活を楽しんでくださいな。」
明日の自分へ 海月ともね @Mizuki_Tomone
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