星は巡り、陽は昇る

白藍彗

第1話 太陽は昇り、星は流れる

今でも時々夢に見ることがある。


太陽が燦々と輝いていた夏。

燃え盛る炎と、その中にいるはずの家族。


―――なんで。


呆然とした表情で地面にへたり込む親友。

自分も何もできずにただ立ち尽くす事しかできなかった。

目の前に自分たちの家を、家族を殺した人間がいるのに。


―――理由を知りたいなら、ボクたちを【見つけて】みなよ。


炎を背に血濡れた不気味な仮面がケタケタと笑い、煙のように姿を消した。

残ったのは自分と親友と、家と家族、故郷を奪った炎だけ。

 

あの日から俺はずっと【仮面の男】を探し続けている。



「……嫌な夢を見たな」

目を覚まして、見上げれば古い木目の天井。

目の上に手を翳せば見えるのは包帯が巻かれた自分の腕。

宿屋のベッド。

なんで自分はそうなったのか。

クエストで、モンスターと戦ってそれで……。


「あー……やっちまったかな」


どうも記憶がないが、どこかでドジを踏んで大怪我をしたらしい。

今この場にいない仲間が戻ってきたら烈火のごとく怒り、説教の嵐を起こすだろう。

過去の経験上、容易に想像がつく。

そうなれば、とるべき行動は一つ。


「よし! 逃げるか」


 近くにあった服と荷物を手にとり、怪我人とは思えぬ動きで二階建ての窓から飛び降りた。

 彼にとって説教というのは、子供の頃から大嫌いなものの一つであった。



 交易都市ラデは、王都の近くにある。多くの店や宿が並び商人や旅人といった人とものがよく行き交う活気溢れる街だ。


その街中を一人の少女は走っていた。

 金色がかった茶髪のセミロングに深い青の瞳。儚げな印象を持つ可憐な少女。

ただし、その表情はまるで何かから逃げるような切迫したものであった。


「あ、悪い。ごめんな、大丈夫か?」

と、前を見ずに走っていたせいで、人とぶつかってしまった。

衝撃に耐えられずに尻餅をついた少女に、相手は謝罪の言葉とともに彼女に手を差しだす。

 茶色がかった金髪の青年。だが何故か顔半分も両腕も、ほぼ全身が包帯に覆われているミイラ男。その姿に少女は顔を引き攣らせた。

「だ、大丈夫です。すみません!」

青年の腕を取らずに立ち上がると、そのまま逃げるように去っていった。

その時、ある物を地面に落としてしまったことに気づかずに。


「怖がらせちまったか? やっぱこの格好、ミイラ男だよなぁ」

少女が去っていった方向を見ながら青年─ハイルは一人苦笑した。


 思えば外に出てからここに至るまで話しかけられなかったような、むしろ誰も近寄りもしなかったような。


「困ったなぁ……って、あれ?」

 ふと、地面に何か光るものを見つけて拾い上げる。翼を広げた鳥の形をしたペンダント。

「これ、さっきの子のか? それにしてもこの形どっかで見たような……」

はて、どこで見たっけと首を傾げたが思い出すことはできなかった。


◾︎◾︎◾︎


「本当にあなたは……これで何度目?! ハイル」

「………」

「何度目だろうなぁフラン……あとソーマ、黙らないで、めっちゃ怖い」

眉を吊り上げて赤いサイドテールの髪と同じくらい顔を真っ赤にして怒る少女、フラン。

整った顔に無表情を浮かべ、何も言葉を発さずにいるが、黒い瞳には怒りの炎を浮かべている青年、ソーマ。

そしてその二人を前にして冷や汗を流すミイラ男、ハイル。無論この後起こる説教の嵐に対してだ。

「……軽く20は超えている」

無茶して怪我をした後、ハイルが脱走した回数。

淡々とそう付け加えて告げたソーマの言葉に、彼はウッと言葉を詰まらせた。

 少女とぶつかったあと、街中を徘徊しているミイラ男がいるという話を聞きつけた2人によって連れ戻された。


「ほらもう、包帯取れてるじゃない!」

「いた、いだだだだ! フランさん、しめ、締めすぎ」

「動かない!!」

ハイルの緩んだ包帯をフランは巻き直していく。丁寧に、というよりかなり鬼気迫る表情で、かなり強めに巻いているが。

ハイルは助けを求めるように横にいるソーマに視線を向けるが、彼は首を横に振る。

「勝手に出ていくお前が悪い」


俺に味方はいないのか。少しショックを受けながらも、この空気を変えるべく、話題を逸らそうと彼は口を開いた。


「俺が寝てる時、2人ともどこいってたんだ?」

「街のギルド。この前のクエストの報告あったから」

フランの言葉にソーマは小さく頷く。

「あー、あれか。それで、何も問題無かっただろ?」

「クエスト自体は成功、報酬もちゃんと貰いました」

「....お前が大怪我したくらいだな」

「....悪かったって」

へらりと笑いながら謝罪するハイルにフランは内心ため息をつく。

なんてことない中級モンスターの討伐クエストだった。

それが、突然超大型モンスターが現れて事態は一変。なんとか倒すことは出来たが、ハイルは攻撃を受けて大怪我を負った。

今でこそ治癒薬で元気に振舞っているが、つい3日前まで状態は良くなかったのに。


窓の外の街の空気は平和そのものだ。

その外の世界は今、どういう現状なのか知らないだろう。


「ギルドで噂になってた。最近増えたって。生息地じゃない場所で出現した野生のモンスターが...それも」

「危険度トップクラスのな」

フランの言葉に続けてハイルが言ったその時だった。


いくつもの獣の咆哮が、外から聞こえたのは。

「......」

「......ちょうどこんなふう、だったよな」


ついで聞こえるのは、人の悲鳴と建物の破壊音。

「こんな、街の中まで....?」

「そんな....」

フランとソーマが窓の外から見れば、街のあちこちでモンスターの影と煙が立ち上っていた。

外も、宿屋の中も騒がしい。

有り得ないモンスターの出現、それを討伐するのも冒険者の仕事のひとつだ。


外に出る前に、脱走の前科持ちの怪我人に「動くな」と警告しようと2人は振り返った。


「ハイル.....?」

「あいつ....」


彼が先程までいたベッドはもぬけの殻。

僅かに開かれた扉が、騒ぎと振動で虚しく揺れている。


ほんの一瞬、2人が窓の外の騒ぎに気を取られていたほんの数秒で彼は怪我人にも関わらず、気取られずに姿を消した。


彼が持っていた愛用の剣も一緒に消えていた。

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2026年1月18日 14:00

星は巡り、陽は昇る 白藍彗 @tomlaw

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