『異世界かくよむでテンプレ批判したら出版貴族が現れた』

TERU

第0話 宣戦布告

※この世界では、物語は「呪文」である。


ここはギルドの酒場。今日もやたらと騒がしかった。


掲示板の前に、人だかり。

冒険者たちが、笑いながら同じ紙を読んでいる。


「ほらこれだよこれ!」

「また“追放→覚醒→無双”か!」

「やっぱこの味が一番なんだよなぁ!」


――同じ味。


同じ設定。

同じ勝ち方。

同じ女。

同じ気持ちよさ。


俺は、カウンターの端で黙って酒を置いた。


目の前の掲示板には、依頼書よりも目立つ紙が貼られている。

“物語”。


ここは、

物語を貼る場所であり、

流行(トレンド)を決める場所でもある。


つまり、この世界の中心だ。


この世界では、物語は娯楽じゃない。


物語は、力だ。


流行った物語は「世界」に影響する。

冒険者の心が動けば、★が動く。

★が動けば、金が動く。

金が動けば、権力が動く。


だからこの世界で人気の物語は――

ほぼ「呪文」みたいなものだった。


追放。

覚醒。

無双。

美女。

ざまあ。


冒険者が気持ちよくなる言葉だけで組まれた、最適化された魔法。


冒険者たちはそれを飲み込む。

胸を熱くして。

涙を流して。

自分が強くなったような気がして。


……で、明日も同じ味を求める。


「次はどんな追放だ?」

「女は何人だ?」

「ざまあはいつ来る?」


その空気が、喉にひっかかった。


「おいレイヴ!」


笑い声の中から、馴染みの冒険者が声をかけてきた。

鼻が曲がった大男、グリムだ。


「お前も見ろよ!今回のやつ最高だぞ!」


大男は紙を叩き、ゲラゲラ笑っている。

その紙のタイトルを見た。


――『追放された俺、実は王家の血筋だった件』。


……またかよ。


「ほら、もうここで主人公が追放されるだろ?」

「で、覚醒して!」

「昔の仲間が謝りに来る!」

「んで最後、女が増える!」


グリムは心底幸せそうだった。

悪いやつじゃない。

ただ、理解ができない。


俺はそこに混ざれなかった。


「……なあ」


「ん?」


「胸張って外で言えるか、それ」


グリムはきょとんとした。


「は?」


「その物語で本当にいいのか」


「何言ってんだお前。面白いんだからいいだろ?」


「面白い、ね」


俺は喉の奥で笑った。

笑いというより、吐き気だった。


酒場の空気が、熱くて重い。

みんな“同じ紙”を読んで、同じ顔をしている。


俺は席を立った。

酔ってもいないのに、頭が熱かった。


そしてその場で紙を一枚引きちぎり、

インク壺に指を突っ込んだ。


「おい、何してんだ?」

「レイヴ、またヘンな詩でも書くのか?」


聞こえた。

笑われてもいい。

いつものことだ。


俺は、指先を真っ黒にしたまま、紙に書いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


同じ話を見るたび思う。


あれは才能じゃない。

最適化だ。


冒険者が欲しがる展開だけ拾って、

危険な言葉は切って、

安全な気持ちよさだけ並べてる。


それってもう、“物語”じゃなくて“呪文”だろ。


正直――

そのノリ、胸張って外で言えるのか?


妄想は悪いことじゃない。

でも、妄想を妄想のまま“物語”ヅラさせるのは違う。


俺は、知識も才能も、たぶん足りない。


でも、物語は書ける。


そう思ってギルドに来てみたら、

「誰に向けて書いてんだこれ?」みたいなのが、

想像以上に多かった。


俺の物語が“重い”?

じゃあ“軽い世界”ってどこにあるんだよ。


俺は自分の世界観を削らない。

痛みも消さない。

都合よくもしない。


少なくとも「今の時代にウケるため」には書かない。

というより、書けない。


でも俺は、才能に負けたと思ってない。


負けたのは“内容”じゃなくて“仕組み”だ。


どこ開いても同じ味。


テンプレ?あれは呪文だけど、そこじゃない。

この流れを作った仕組みが良くない。


自分で自分の作品を量産品にして、

胸張れるのか?


それが術者の誇りなのか……


俺の考えが違うなら――俺はこの世界で、ずっと浮いたままだ。


……でも、俺は浮いたまま書く。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


書き終えた瞬間、酒場が静かになった。


紙の上のインクが、ほんの一瞬だけ――光った。


俺は気づいた。

この世界では、物語はただの愚痴じゃない。


魂の言葉は、“術式”になる。


俺は紙を持って立ち上がり、

掲示板の真ん中――一番目立つ場所に、ぶち貼った。


バン。


木板が震えた。


誰かが息を呑んだ。

誰かが笑いかけて、途中で止めた。


「……おい」

「なんだこれ」

「ギルド掲示板に貼る内容じゃねぇぞ……」


「やべぇ……喧嘩売ってるだろ」

「でも……ちょっと分かる……」

「いや、分かるけどヤバいってこれ」


笑いが、消えた。


俺は酒を飲み干し、立ち上がる。


外は夜。

街は静かで、

世界はいつも通り、都合よく回っている。


――だから俺は、浮いたまま書く。


世界が嫌がる痛みごと、物語にするために。


それだけが、俺の剣だ。


そう思って扉に手をかけたとき。


ギルドの鐘が鳴った。


ゴォン、と低い音。


それは“依頼達成”の鐘じゃない。


規律違反。

掲示板汚損。

秩序の乱れ。


そして――

流行への反逆。


酒場の奥の扉が開き、黒い外套の男が現れた。

ギルドの監察官――“回収屋”。


目が合った。


その視線だけで分かった。


(ああ……)


俺は今、

世界の敵になった。


監察官が言った。


「掲示板に“異物”が貼られた」


彼の背後で、もう一人現れる。

金色の紋章。


テンプレ物語を束ねる一族――“出版貴族”。


そいつが笑った。


「面白いね。

 君が“書いた”のか」


俺は言った。


「そうだよ」


「消すよ?」


「やってみろ」


心臓が震えた。

怖い。

でも、それ以上に――気持ちいい。


俺は浮いたまま書く。

この世界の中心で。


俺の物語で、

こいつらの“仕組み”をぶち壊すために。


監察官が、杖を掲げた。


「回収する」


その瞬間――

俺の貼った紙が、ギルド掲示板の上で燃えるように光った。


そして。


酒場の誰かが、無意識に呟いた。


「……これ、この人の話、読みたい」


――たった一言で、世界が揺れた。


俺は笑った。


「ほらな」



「物語は、剣になる」



その瞬間だった。


掲示板の紙の端に、金色の粒が落ちた。

小さな★の形をしていた。


ひとつ。

ふたつ。

みっつ。


酒場の空気が変わる。


「……え、今のって」

「★……付いた?」

「いや、まさか……」


回収屋の目が、わずかに揺れた。

出版貴族の笑みが、一瞬だけ消える。


――呪文が、破られた。


俺は息を吐く。


(ほらな)


浮いたままでも、届く。

仕組みの中でも、世界は揺れる。


俺は、笑って言った。


「回収?やってみろ」


「この術式は、もう──世界の中に入った」


そして俺は、世界の敵になった。


――だから、面白い。



物語は、予定表じゃない。


痛みと迷いと選択がある。


ここは掲示板だ。

俺は、物語を貼る。


――燃やせ。


俺はまた書く。

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