あいつさえいなければ・・・

@haruki481

第1話

「くそ!」

起床早々、亜香里はペットボトルを壁に投げつける。

最近はずっとこんな具合だから、家はゴミ屋敷のように散らかっている。

しかしもはや何とも思わなくなっていた。どうでもよかった。


「彼を返して!」

もう何度目か分からないそのセリフを口にしながら、再び近くにあった

ペットボトルを投げつける。驚いたのか、外の雀達が物凄い速さで飛び去る。


今日は水曜日、登校しなければならないことは分かっている。

しかしそんな気力は全く無かった。

机の上にあるスマホを手に取る。通話ボタンを押すとすぐに相手が出た。


「もしもし、優香?」


「おはよう、どうしたの亜香里?」


「大学休むから伝えといて」


「えー、また休むの?昨日もだったよね?大丈夫?何かあったの?」


「・・・」

こう聞かれては面倒くさい。しばらく沈黙するが、

ここは適当な嘘でやり過ごすことにしよう。


「いやー、実はさ最近咳が止まらなくて・・・」


「え、そうなの?亜香里すごい元気そうだったのに・・

 この間なんて朝まで飲んでたじゃん、あんなにはしゃいでたのに

ねー、どうしたの?」


ああー、何でこの人はこんなにしつこいのだろう?

早く終わらせたいのに余計なお世話だ。


「飲みすぎた影響もあると思う。とにかくそういうことだから、よろしくね」

 

「分かったけど・・・

 早く学校来てね・・・待ってるよ」


そう言って通話は終了した。


「あー!もう!」

なんで優香と友達になったのだろう?

こんな根堀り葉堀り聞かれることが分かってたなら、親しくなんてならなかったのに。優香のせいで朝から感じていた怒りのレベルはマックスに到達する。


「全部、終われば良いのに!!」

そう叫びながら、ティッシュケースを床に向かって投げつける。

もう嫌だ、嫌だ、嫌だ、本当に終わって欲しい。

家にあるあらゆる物を投げ続ける。幸い一人暮らしなので騒音は響かない。

しかしそれでストレスが解消されることは無く、怒りは増すばかりだ。


ドン


しばらくしたところで、床に落ちているペットボトルに引っかかって

転んでしまった。ズキン、と激痛が頭に走る。


「痛い・・・」

 顔を上げて態勢を起こそうとしたその時、1枚の写真が床に落ちているのが

目に入った。それを手に取り眺めているうちに、我慢していたものを洗い流すように

涙が溢れてきた。


「翔、なんでこんなことになったの・・」

一度泣き出すと止まらなかった。止めようとしても止めようとしても涙が

頬を伝ってくる。嗚咽を漏らしながら猛獣のような叫び声をあげる。

少し時間が経ってくると今度は怒りの感情が湧いて来た。

今、翔と仲良くしているあいつのこと。

翔と毎日遊んでいる彼女のこと。翔と旅行に行っているあの不細工のこと。

翔と駅で待ち合わせをしているあの出来損ないのこと。

あいつのことを考えているだけで、憤慨する気持ちを抑えられなくなっていった。

徐々に悲しみの気持ちは消えていき、癇癪の気持ちがメラメラと湧いてくるのを感じた。


そうして気付いた時には口にしていた。



「あの女さえいなければ・・・



 こんなことにならずに済んだのに」


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