【孤独のリベンジ】

柊 蓮音

〔Prologue〕

_____時は中世中期。『アレティー王国』の王、『エブギニス・イルドス』は、国の景気が右肩下がり傾向であることを気に留めた。そこでイルドス王は、隣国との交流を深めることで、自国の景気の回復を試みた。


 結果は大成功。隣国の人々は、互いの国との文化の違いに感激し、その結果、アレティー国産の生産品の購入数が莫大に激増、遂にはアレティー国に移住してくる者まで現れた。アレティー王国の景気は、イルドス王が生きるこの時代に全盛期になった。


 イルドス王は、先祖代々伝わる「鎖国」の概念を取っ払い、自国の繁栄に成功したのだ。この、イルドス王の政策を『イルドスの改革』という。


 しかし、イルドス王の政策は必ずしも全ての人々を幸福にすることは無かった。隣国の王がその1人だ。『エフトロース王国』の王、『ノミミ・ディケオシーニ』はこの政策に不満を抱いていた。


 無論、アレティー王国の景気が良くなる=エフトロース王国の景気が悪くなるということだ。ディケオシーニは、そうなることを事前に予想していなかったため、アレティー王国との契約を呑んでしまったのだ。


「アレティー王国の品質は最高だ。それに比べて、この国の食べ物は品質が悪い。」


「この国は治安が悪すぎる。アレティー王国では宿の鍵を閉め忘れても空き巣に入られない。」


「イルドス王は私達国民のために手を尽くしてくれる。私達の母国の王は私達に何か恩恵を恵んでくれたことがあったか?」


 と、自国の人々から非難の声が次々上がり、エフトロース王国は経済的にもイメージ的にも危機的な状況に陥った。


 それに腹を立てたディケオシーニ王は、自国から全てを奪った張本人、イルドス王の首を取ることを決意した。ディケオシーニ王は、自身の息子、及びエフトロース王国の王子、『ノミミ・アミナ』を連れて、イルドス王の城に乗り込んだ。


 エフトロース王国は、剣術の強豪国で有名であり、その中でも特にディケオシーニ王は「天下無双の剣士」とも呼ばれるほど剣術を得意とし、右に出る者はいなかった。そのため、王を守ろうと前に出た騎士らは、なす術なく殺された。


 そんな中でも、イルドス王は剣を手にすることはなかった。ただ1人の家族の、娘『エブギニス・ソフィア』を死守することに精一杯だった。娘の前で殺生はしたくないと、イルドス王の独特なこだわりが無意識に滲み出してしまったのだろう。


 我が子のために剣を捨てたイルドス王の行動に、またもやディケオシーニ王は腹を立てた。イルドス王の行動を、自身への侮辱と捉えたのだろう。ディケオシーニ王は、まずソフィアの命を奪おうと決め、剣を振りかぶった。


 ソフィアを狙ったその剣は、目の前に立ちはだかるイルドス王の胸元を貫いた。イルドス王は倒れ込み、そのまま目を覚ますことはなかった。我が身を捨てて娘を庇い、イルドス王は死んだ。


 ソフィアは、自身の父が殺されたその現状を、すぐに受け止めることはできなかった。冷たくなった父の体を揺すり、ひたすら父の名前を呼んだ。返事は返ってこなかった。ソフィアは、父が死んだと自覚し始めた。


 父の体や自分の手に付着した血、鼻の奥をツンと刺す鉄臭い匂い、冷たい父と生暖かい血、受け止めたくなかった事実が、五感を通してソフィアの脳に流れ込んできた。彼女は涙を流した。幼くして母を失い、ただ1人の家族である父も、今ここで失った。彼女は孤独になってしまったのだ。


 父の血に染まった指一つ一つを絡め、ソフィアは天を仰ぎ、神に救いを懇願した。


「神様、お願いします。お父さんを連れて行かないでください。」


 目から泉のように溢れ出す涙が地に落ちても、手についた血が変色し固まって手が離れなくなっても、彼女は声を枯らして叫んだ。何度も、何度も、何度も、何度も、たった1人の親である父の生還を叫び続けた。祈り続けた。


___彼女の願いは、神に届くことはなかった。


 ソフィアの悲しみは、時が経つに連れ、憎しみへと姿を変えていった。大切な父を殺しても尚、多くの民に恵まれ、今も幸せを噛み締めているディケオシーニ王を心底恨んでいた。


「ディケオシーニを殺す。お父さんの仇を討つ。」


彼女は幼くして、ディケオシーニ王への復讐を誓ったのであった。


 その後、ソフィアは行方不明となった。ディケオシーニ王に始末されたのか、それとも今でもどこかに身を潜めて暮らしているのか、その真相は誰にもわかっていない。


 王と王の後継者を失ったアレティー王国は、やがて時間と共に廃れてゆき、遂にエフトロース王国の1つとなってしまった。エフトロース王国は、その後次第に勢いを増してゆき、中世中期、最も強い国として有名になった。イルドス王の死を悲しみ、エフトロース王国の存在を非難する声もあったが、時代と共に薄れていってしまった。


 そこにはもう、イルドス王の名誉ある生涯を覚えている者はいなかった。



______たった一人を除いて。

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