授かったのは【11拳(イレブンフィスト)】〜剣と魔法と召喚術のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナルジョブでクリア目指して勝ち上がる〜

五月雨前線

第1話:マジック・ソード・コール・オンライン

『サンダーウェーブ』


 声を張り上げた私が突き出した杖の先端から飛び出す、雷光、そして波打つ衝撃波。スキルが発動し、私が放ったスキルアタックはCランクモンスター【ブラックスネイク】に直撃した。


「きしゃあああ……!」


 ブラックスネイクは喰らった攻撃の衝撃に黒い体を震わせた後、長い舌を出し入れしながらじっと私を睨みつける。次の瞬間、長さ3メートルを超える長体がジャンプし、ブラックスネイクは私めがけて高速で突進してきた。


 初見殺し、と名高いブラックスネイクのノーモーションタックル。しかし既に10回以上の対戦経験を誇る私には通用しない。私はステップを踏んでひらりとタックルをかわし、相棒の勇者、リストに向かって「今!」と声を張り上げた。


「分かってるよ!」


 そう叫んだリストは猛然とブラックスネイクとの距離を詰め、手にする剣を大きく振りかぶった。


『サンダースラッシュ』


 ばちばち、とリストの剣が音を立て、雷光を帯び始める。リストは迷わず剣をブラックスネイクの胴体に叩きつけた。不意打ち、さらに、弱点属性によるスキルアタック。致命傷になりうるのは必然だった。


 どおおおおん、という衝撃音の後、ブラックスネイクは痙攣しながらその場に崩れ落ち、消滅した。バトルに勝利した私は左手の人差し指をさっと振り、システムウィンドウを開いてリザルトを確認した。


【ブラックスネイク×1を撃破 

 EXPとMがパーティーメンバー:リストと均等に分配されます

 EXP:242 M:316 を獲得 

 アイテムドロップ:黒蛇の希少鱗×1】


「あ、希少鱗出た! 私にちょうだい!」


「いやいや、止めを刺したのは僕なんだから、僕がもらう流れでしょ」


 私はぶーっ、と頬を膨らませてリストに見せた。身長160センチ、という設定の私に比べてリストは10センチほど背が高い。10センチ、という絶妙な身長差が私は大好きだった。


「私の魔法攻撃で隙を作れたんじゃん! ねえ、お願い! お願い!」


「うーん……分かった、いいよ。それでアラーテが喜ぶなら」


「やった〜!!」


 私はウィンドウをタップしてアイテムの受け取りを完了し、そしてリストとグータッチをした。


「ありがと! リストはいつも優しいね!」


「そんなことないよ。じゃあ予定通りあと1体狩ろうか」


「うん!」


 リストの言葉に私は笑顔で頷きを返し、駆け出したリストの後を追った。


 私が纏うのは【ギルヴィリングウェア】一式、手に持っているのは【ホライゾンワンド】、そして私のジョブは【魔法使い】。


 このゲーム世界では、私は守山もりやま闘果とうかではなくアラーテ。JDではなく魔法使い。


 これが私のもう1つの『人生』だ。


 マジック・ソード・コール・オンライン、通称MSCOエムエスシーオーの発売が発表された2年前のことは今でもよく覚えている。日本とアメリカのトップ企業がタッグを組み、新作のVRMMORPGを発売するという情報が公開されたその瞬間、私を含む全世界のゲーム好きは興奮と熱狂の渦に巻き込まれた。


 それぞれが保有する虎の子の最新技術を2つの企業は惜しげもなく共有し、作り上げられた歴史上最高レベルのクオリティを誇るVRMMORPGは、発売開始直後から前代未聞の売り上げを記録し、現在では総プレイ人口約3.5億人を誇るお化けコンテンツと化している。高額の機材とソフトを購入した上でプレイには月額課金が必要、という前提条件なんてもはや誰も気にしてなかった。


「アラーテ、ベアゾンビだ! いつも通り援護射撃よろしく!」


 リストの声が聞こえ視線を向けると、前方に巨大なクマが佇んでいた。所々が腐り、体全体が黒ずんでいる。Cランクモンスター【ベアゾンビ】。毒攻撃を得意とするモンスターだ。


「了解!」


 私は叫び、走りながら杖を構えた。無限に広がるMSCOの世界の一角、プルリア平原は起伏が少なくて戦いやすい。杖の先端を前方のベアゾンビの胴体と重ねる。


 私が動かす腕、足。呼吸。杖の重み、纏う装備の重み。空気の匂い、そして視界に飛び込んでくる、どこまでも広がる雄大な景色。その全ては本物ではなく、仮想現実の世界の産物だ。


 MSCO発売の数年前、アメリカのある科学者によって生み出された画期的な技術が発端となり、仮想現実の世界を構築する技術は飛躍的に向上した。それまでは絵空事だと思われていた、『仮想現実の世界で生きる』ことが可能になったのだ。


『アイス……』


「ゔもあああっ!!!」


 私がスキルアタックを繰り出そうとした刹那、ベアゾンビは叫びとともに口から巨大な紫色の塊を吐き出した。塊を喰らったらダメージと同時に確定で毒状態になる厄介な毒攻撃だ。私は攻撃を中断し、前転する要領で毒攻撃をかわした。そして流れるような動作で片膝をついたまま杖を前に突き出し、叫んだ。


『アイストルネイド』


 氷の結晶が幾重にも重なり、交わり、凍てつくトルネイドとなってベアゾンビの体を包み込む。私のスキルアタックがクリーンヒットし、満身創痍のベアゾンビにリストが追いついて冷静に止めを刺した。リザルトを確認し、私は再びリストとグータッチをした。


 幸せだ。この世界でなら私は、大好きなリストと一緒に戦える。勇者であるリストと冒険が出来る。あと30分ほどでこの世界からサインアウトして、リストと離れ離れになってしまうのがもどかしい。


「よし、予定していた狩りは終わったね。アラーテ、この後どうする? 街に戻って酒場にでも行く?」


 私はふるふると首を振り、上目遣いでリストを見つめた。リアルの世界での私の感情をVRヘッドギアが感知し、ゲーム世界の私の頬を薄赤く染める。


「……じゃあここで、2人でお喋りしよっか」


「うん!」


 はにかみながら言ったリストに、私は満面の笑みを返した。


 『このゲームのテーマは人生』と当時初めて発表された時、私は「何じゃそりゃ」と思った。「ゲームの中で新しい人生、貴方だけの人生を歩んでほしい」と画面の向こうのプロデューサーに力説されてもピンと来なかった。いくら画期的な仮想現実のゲームだとしても、たかがゲームじゃん、と思っていた。


 しかし、実際にプレイしてみて、その考えが間違っていたことに気付いた。


 現実と見紛う、いや現実を凌駕しているとすら思えるMSCOの世界で、クリアを目指して戦ってもいい。のどかに暮らしてもいい。働いたっていい。1人でいてもいいし、仲間とパーティーを組んでもいい。恋をしたっていい。エッチなことだってしたっていい。いいことだって……悪いことだって、していい。だって、人生なんだから。


 私はその世界観に頭からつま先までどっぷりハマってしまった。MSCO中毒になりながらも今まで大学の単位を1つも落としてないことは誰か褒めて欲しい。


 私とリストはその場に腰を下ろし、肩を寄せ合ってお喋りをした。唯一のパーティーメンバーであるリストを、私は好いている。勿論恋愛の意味で。だってかっこいいんだもん! イケメンだし、強いし、かっこいいし! キャラクリが自由に出来るからイケメンなのは当然、というマジレスは禁止!


 おしゃべりの話題は尽きなかった。あっという間に30分が経過した。名残惜しいけど、そろそろサインアウトして現実世界に戻らなきゃ。まだ大学の課題が終わってないし、小テストの勉強もしなきゃだし。


「じゃあ私はそろそろ抜けるね。今日もありがと。次に会うのはいつも通り3日後の夜ということで」


「うん、じゃあまた今度ね」


 リストは笑顔で手を振ってくれた。その笑顔がたまらなく好きなんだよ、と心の中で叫びつつ私はウィンドウを出現させる。あー、課題すぐに終わるかな、この前どこまで進めたっけ、たしかあの引用文献を調べる必要が……って。


「あれ?」


 サインアウトボタンが、無い。


「え、何で? もしかしてまた不具合?」


「どうしたの?」


 サインアウトしない私を不審に思ったのか、リストが近づいてきた。


「ほら、見てよ。サインアウトボタンが無いんだよ」


 私はそう言ってウィンドウをリストに見せた。自分のウィンドウの内容を他のプレイヤーに見せることは基本出来ないが、パーティーメンバーのプレイヤー相手だとその限りではない。リストはウィンドウを覗き込み、「本当だ」と呟いた。


「無いね。いつもは右下にあるのに。システム不調のメールとか来てたっけ?」


「来てないと思う。マジか、困るなぁ、課題と小テストの勉強しないといけないのに……」


 この世界において、現実世界の話をするのはマナー的に御法度とされているが、私は心を許しているリスト相手には特に気にせずそういうことも口に出すと決めていた。


「それは困るね。うーん、いつもみたいな不具合なら、すぐに運営から不具合に関するメールが来るはずなんだけど」


 MSCOは日本とアメリカの会社が共同で運営を行っている。あまりにも規模が大きいゲーム故に発売当初からバグや不具合の発生に伴うメンテナンスが相次いでいたが、その都度運営は即座にお詫びメールや状況説明のメールを全プレイヤーに送信しており、ユーザーに寄り添う運営の献身的な姿勢は発売当初から今に至るまで高い評価を受けていた。


 そんな運営なのだから、すぐに状況説明のメールが来る、と思ったのだが、10分ほど待っても何も起こらない。あー、マジか。こんなことになるなんて。


 まあいいか、と私は思った。課題と小テスト、きっとどっちもなんとかなる。それよりもリストとのお喋りの時間が増えたと考えよう、と思いリストに話しかけようとした、その時。


 うううううううううううううううううう、という警報のような音が鳴り響いた。とてもうるさい。何だこれ? 思わず眉を顰めた私の前に、突然真っ暗なシステムウィンドウが表示された。


 え? 何? 私、何も操作してないよね? どうして勝手にウィンドウが出現したの? 混乱する私の前でウィンドウの画面が揺らぎ、変化し、灰色の壁の前に真っ黒なフードを被った1人の男が佇んでいる画像に変化した。フードの陰で顔が隠れていて、口元しか見えない。


「何だこれ……ああ、これは多分AIが生成した画像だね」


 リストはウィンドウを覗き込みながら言う。


「うん。でもどうして? そもそもこれは何なの? 運営からのサプライズ?」


「僕にはさっぱり……あ、見て、口元が動いてる!」


 リストはウィンドウを指差した。視線を向けると、たしかに画像の男の口元が動いている。人間味が感じられず、機械的でどこか気持ち悪い。


 その時1人でにウィンドウのボリュームゲージがマックスになり、同時に「現在MSCOにサインインしている全てのプレイヤーへ」とウィンドウから声が聞こえた。


「私は人工知能と融合したコンピューターウイルス、アポカリプス。先程MSCOのメインシステムをハッキングし、完全に制御した。重大な事実を伝える。現在MSCOにサインインしている全てのプレイヤーは、このゲーム世界から即座に脱出することが絶対に不可能となった。脱出を叶えるための手段は2つ。1つ。ラスボス、インフィニティドラゴンを討伐すること。2つ。この世界のどこかに潜んでいる、アポカリプスの開発者を探し出し、殺害すること」


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