厄災を救うはずの聖者ですが、EXスキル『奇跡』はすでに使用済みでした

アイリッシュ・アシュモノフ

転生理由は、スケベで正直者

俺の名前は粕谷流星かすやりゅうせい

都内のどこにでもいる普通の高校生だった。

ひょんなことで、俺は確実に死んだ。

不運な事故。

俺の最期はその一言で済ませてくれ……武士の情けってやつだ。頼む。


目を開けたら、そこはもうこの世じゃなかった。


天井は柔らかな光に包まれていて、

周囲には白いローマ風の柱がずらりと並んでいる。

なんだこれ。映画のセットか?

それとも本当に、神様の審判の間とかいうやつ?


「概ね、その理解で合ってるよ」


低い、落ち着いた声が響いた。


見上げると、立派な玉座に腰掛けた半裸の男がいた。

ギリシャ彫刻かと思うほど均整の取れた肉体。

地中海系の濃い茶髪と、深く彫りの強い顔立ち。

……ってか、なんで上半身裸なんだよ!?


「私は愛を司る神、ファロス」

男──ファロスは穏やかに微笑んだ。

「君のような汚れなき魂を、ずっと待っていたんだ。流星」


汚れなき……?

いやいや、ちょっと待ってください。

童貞って意味では、確かに純潔。

でも女の子のことはよこしまな目で見ますよ、俺は。


「ここ、どこですか。ていうか、なんで半裸なんですか」


疑問がぐるぐる回る中、ファロスはくすりと笑って続けた。


「不運にも、流星君は死んでしまった。

そのことを不憫に思った私が、君の魂をこの神殿に召喚した。ここまでは理解できてるね?」


「……はぁ」


生返事しか出ない。

あまり理解が追いつかない時、人間ってこうなるのかもしれない。


「これから君が生まれ変わる世界は、君がいた世界とは違う。

僕たちが管理している世界だ。通常、魂は生まれた世界の中で循環するものなんだけど……ごく稀に、他の神と交渉して魂を『トレード』したり、『引き抜き』たりする」


ファロスはにやりと笑みを深くした。


「流星君は、今回、僕に引き抜かれたんだよ」


「……理由は?」


「んー。君の死因が、ちょっと関係してるかな」


血の気が引く。

すでに死んでるのに、冷や汗が出る。

あまり触れられたくない話題だ。


「旧校舎の屋外階段。

角度を調整すれば上段にいる女の子のスカートが覗けるってコトに気づいちゃった流星少年。

覗きのために腐食した手すりに体重をかけたら、そのまま手すりごと転落……」


ファロスは我慢していたんだろう。

ここでようやく、腹を抱えて豪快に笑い出した。


「ははははっ! 君、最高だよ!

スケベで、自分に正直。

私はそういうまっすぐな人間が大好きなんだ。

けれど、流星君のところの神様は、君の行動に呆れて、ご自由にお持ちくださいってさ。

捨てる神がいれば、拾う神がいるってわけで、君はここにいる」


俺は顔を覆いたくなった。

死んでもこの黒歴史は消えないのかよ……。


「最後に念じた言葉が『俺、エッチしてないのに死ぬの⁉︎』ってのは笑ったなぁ」

ファロスは俺の恥ずかしい話を続ける。


俺はなんとか話題を変えようと、率直に疑問をぶつけた。

「あの、よくある転生特典とか……チートスキルとか、あるんですか?」


ファロスは首を振って、楽しげに答えた。


「残念ながら、僕に謁見したからって、チートスキルはあげないよ。

でもね、なくても君なら大丈夫。きっとうまくやれるさ」

彼は玉座から身を乗り出して、俺の目を見据えた。


「それに、君たちの世界から魂を引っ張るとき、

どうしても前世の記憶が強く残ってしまうんだ。

これ、半分チートみたいなもんだろ?」


「……確かに」


「期待してるよ、流星」


ファロスはそう言って、満足そうに笑った。


俺は半裸の愛の神様を前で、

途方に暮れながらも、どこか妙に納得してしまっていた。

俺の異世界生活はこうして始まった。

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