第21話 至高の断罪と崩れゆく虚飾

アレンは領主邸の重厚なバルコニーに立ち、眼下に広がる白亜の都を見渡していた。 早朝の静寂を破り、西の街道から砂煙を上げて走る一台の豪華な、しかしボロボロに傷ついた馬車が視界に入る。 執事が静かに運んできた紅茶は、深層の極寒地帯にのみ育つ氷晶花の蕾を煮出したもので、一口啜るだけで全身の魔力が洗練されるような至高の味わいだった。


「アレン様、王都公爵家本人が、正式な降伏勧告を受け入れるべく正門に到着いたしました。かつての威光は見る影もなく、同行している護衛兵たちの鎧も魔力枯渇によって錆が浮いております。彼らは門外の露店から漂うグリフォンの手羽先焼きの香りに、さながら飢えた獣のような視線を送っているとのことです」


執事の淡々とした報告を聞きながら、アレンは冷徹に目を細めた。 アレンを無能と罵り、一銭の価値もない荒野へと追放した張本人が、今やその荒野が産み出した至高の文明に縋らなければ生きていけない。 これほど爽快な逆転劇が他にあるだろうか。 アレンはすぐには面会せず、公爵を門前で数刻待機させるよう命じた。


「かつての私と同じように、待つという日常の苦痛を味わってもらおう。私はこれから街の視察を兼ねた昼食に出る。彼らには、我が街の繁栄を外から眺める特等席を用意してやれ」


アレンは領主邸を出て、活気あふれる中央広場へと足を運んだ。 露店通りは、今日も行商人の荷馬車と、美味を求める住民たちの熱気に包まれている。 屋台からは、火焔鳥の脂でカリカリに揚げた飛竜の軟骨から揚げや、世界樹の葉を巻いて蒸し上げた銀鱗魚の包み焼きの香りが立ち上っている。


「領主様、本日の目玉は深海大ダコの吸盤ステーキです。雷鳥の卵で作ったタルタルソースをたっぷりかけてありますよ。デザートには、氷精霊が冷やした真珠苺のシャーベットを添えた、黄金りんごのキャラメリゼパイも用意しております」


露店商が満面の笑みで、アレンに一皿を差し出した。 アレンは一口運び、その濃厚な旨味と、創造魔法で完璧に調整された魔力的栄養価に満足した。 冒険者たちは、訓練所での新人訓練を終え、併設された診療所で癒やされた身体を休めながら、屋台で買った熱々のシチューや骨付き肉を豪快に頬張っている。


酒場を覗けば、肉持ち込みで調理を依頼した者たちが、地底湖で冷やした至高の蒸留酒を片手に、王都の没落を肴に盛り上がっていた。 宿屋の窓からは、昨夜の夜食に虹色豚のステーキを楽しんだ旅人たちが、朝食の太陽麦の厚焼きパンを心待ちにする幸福な光景が見える。 この至高の日常こそが、アレンが築き上げた揺るぎない理であった。


午後、アレンはついに領主邸の応接室で、ボロボロになった公爵と対峙した。 公爵はアレンの姿を見るなり、その圧倒的な魔力の威圧に耐えきれず、ガタガタと震えながら絨毯に膝を突いた。


「アレン、いや、アレン様……。どうか、どうか我が公爵領を見捨てないでいただきたい。武器屋の炉は消え、防具屋には穴の開いた鎧しか残っていない。診療所には疫病が蔓延し、雑貨屋の棚は空だ。我々が間違っていた。君こそが、王国の至宝であったのだ」


「今更、そのような言葉に何の意味がある。私が荒野に捨てられた時、貴方は笑っていたはずだ。今、貴方の領民が飢えているのは、貴方が私の特許管理と物流管理を無視し、己の私欲のために権利を乱用した結果だ」


アレンの声は、応接室の空気を凍りつかせた。 公爵は必死に顔を上げ、アレンの足元に縋り付こうとしたが、護衛兵によって無情に制止された。 アレンは机の上に一通の労働依頼書を叩きつけた。


「条件は一つだ。公爵家の全財産と営業権を商業ギルドに譲渡し、貴方自身は、この街の解体場での雑用依頼に一生従事することだ。そこで、命の重みと、自らが捨てたものの価値を学べ。拒否するなら、王都もろとも歴史の塵となるがいい」


公爵は絶望に顔を歪め、そのまま力なく崩れ落ちた。 かつてアレンを無能と切り捨てた傲慢な権力者が、今やアレンが産み出した理の、最も末端の労働者として生き長らえることになったのである。 わくわくするような爽快な断罪は、見守っていたメイドや執事たちの心をも晴らした。


夕暮れ時、アレンは騎士団詰所と衛兵詰所の連携による、公爵領の接収完了の報告を受けた。 これからは、アレンの創造魔法によって再定義された、新しい物流と理が王国全土を覆うことになるだろう。 武器屋や防具屋には、王都から運び込まれた無価値な鉄屑が次々と運び込まれ、それらはアレンの手によって、即座に至高の装備へと造り替えられていった。


夜、アレンは料理人が腕を振るった、地竜のヒレステーキと月の雫で蒸した温野菜の晩餐を楽しんだ。 デザートの冷たい天国鳥の卵プリンを口にしながら、アレンは窓から見える、昼間のように明るい魔法灯の輝きを眺めた。


「嫉妬と策略の果てに、何が残るか。自らの身で確かめるといい」


アレンは静かに紅茶を飲み干すと、明日からのさらなる都の拡張計画を思い描き、穏やかな眠りについた。 至高の辺境開拓は、今や一つの伝説として完成し、新たな神域の歴史を刻み始めていた。

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