プリテンダー
宮城ヒカゲ
プリテンダー
「おい、まだ寝てんのか?所長」
「……おはよう、
「今日の仕事は?」
「今のところ、なしかな」
「いつもどおりってことだな」
お察しのとおり、ここはうだつの上がらない弱小探偵事務所だ。家賃と給料を払うので精いっぱい――というのは、見栄を張り過ぎた。家賃は平気で何カ月も滞納しているし、郷田の給料も最低賃金以下だ。
まあ、前科持ちの身寄りがない所長とゴリラみたいな元暴力団員がいる探偵事務所なんて、怖くて誰も寄りつかないだろう。たまに来る依頼は……そういう案件だ。
「そういえばよ、友達から一〇〇万円もらえる
「どれどれ……って、これ絶対危ないやつだろ」
「物を運ぶだけで一〇万円もらえるバイトも募集してるぞ」
また、
「これも却下」
「最後に探偵の仕事したの、いつだっけ? 所長」
「……ちょっと電波悪いかも」
「悪いのは電波じゃなくて経営だろ」
やり取りは冗談めいているが、たしかに経営状況は良くない。そんなことを考えるとすぐに頭が痛くなってきたので、
◇◇◇
「おい、まだ寝てんのか?所長」
「今日も仕事はないよ――」
「
窓からこぼれる陽の光を顔面に受けながら、
「仕事はいつぶりかな?」
「もう覚えていないですね……」
そう言うと、事務所内に大きな笑い声が広がった。笑い声の主は
しかし、
「それで、今日の依頼は?」
「うちの
「んなっ⁉」
「犯人は⁉」
「分からない。だから、君たちに依頼したいんだ。解決したら、
「さっそく調査だ
「ただ、相当危険ではあるな……」
「なに言ってんだよ!久しぶりの依頼だし、何より親っさんの依頼だぞ!」
「まあ、落ち着け
「分かりました。この依頼、受けます」
「ありがとう。それではさっそく、これが事件の捜査資料だ」
そう言って、
被害者は
「やっぱり、怪しいのは
「それが、私は今朝まで入院していたので、分からないのです」
「じゃあ、今から組に行って聞きましょう!」
ぱっと見はただの廃ビルだが、どうやらここが
中に入ると、
隣を見ると、
「みんな、昨夜はどこで何をしていたんだ?」
「昨日は二一時ごろに解散になって、
「
「じゃあ、
「分からないですけど……どっちも今日は来ていないですね。
「
「おう、
「お前もな、
いたって普通のアパートである
「昨日は
「二三時……ちょうど犯行時刻あたりだな……」
「ああ。その後、
ここまでの話がすべて本当なら、
「
「分からねえ。連絡もつながらない」
周辺で聞き込みをするが、
休憩がてら一服していると、
「
急いで言われた場所へ向かうと、きれいな海辺だった。
「気分転換に海を見にきたのですが、人が浮いているのが見えて、引き上げたら……」
「
立ち尽くしている
「おい、あそこに何かあるぞ」
いつの間に正気を取り戻したのか、
指紋認証でロックを解除して中身を見ると、発信履歴に“大学病院”の文字があった。昨夜二三時過ぎという時間も気になる。
なんか探偵らしいことをしているな。
大学病院は
大学病院の中へ入ると、多くの患者が診察を待っていた。見るからに元気そうな
「昨日、
「あー、
「あのー、すみません。先ほど受付で揉めていたのは、あなたたちですよね?」
「そうだ、あんたはなんだ?」
怒られる、と思い、
「私は
「ほう、それで?」
「昨夜、病院長が夜遅くまで残っていたのですが、手術室に向かう姿が見えたんです。そっと後をつけると、政治家の人も来て、『今回は
こんなところでつながるか、と
「私はその
「人間入れ替え?」
詳しく話を聞いてみると、人の人格や記憶を入れ替える技術の研究で、いわば“器”だけを入れ替えることができるらしい。准教授はそんな話は聞いたことがなく、おそらく病院長が政治家や裏社会とつながって水面下で研究を進めているのではないかということだった。
「な……なんだよ、それ……」
そんな
「しかし、まだ研究段階で確実に成功する保証はないと思うんです。例えば、記憶の移植がうまくいかず記憶喪失になったり、人格の移植がうまくいかず自我が崩壊したり……」
だとすると、誰の中に
二三時に
「
「……あ? ああ」
まだ話を整理できていないようだったが、
「なるほど。それなら、これがアリバイになりますかね」
「
左のケツポケットに手を当てると、たしかに感触がない。戻ってもいいのだが、時間がもったいない。そこで、入れ替わりの話が出て以降、頭の上にはてなマークが出ている
「
事務所にいた
「私は入院していたと言っただろう」
「どこの病院ですか?」
「……」
「言えないんですか?」
「……そこの大学病院だ」
ビンゴだ。
程なくして、
「“器”の入れ替わりの話を聞く限り、元の記憶はそのまま引き継ぎ、新しい“器”の記憶は引き継がない。つまり、いま目の前にいる
そこにいた全員が、
「
「……
「っ⁉」
「当時勢いがあった
「俺は
「……いいんです、親っさん。俺は、今もこうやって気にかけてくれるだけでうれしいです!」
大団円ムードの中、
「じゃあ、入れ替わりなど元々関係なく、
「いや、私は殺しなどしていない。これは本当だ! 信じてくれ!」
全員の言うことを信じていたら、
「親っさん……俺は悲しいです……」
「なに?」
「実は、俺に
「
「もうやめてくれ親っさん! ……いや、
あまりにも急な展開に、
しかし、これで一件落着。
……そう納得しようとした
“なぜ、事件の調査を
そんな風に考えを巡らせていると、
「
「
「ああ、前に俺に教えてくれたろ?」
「……ああ、そんなのあったな。行ってねえよ。なんでだ?」
「その
「……っ!」
「入れ替わりの話が出てきてから調査に消極的になったり、いきなり
「
「だってよ、どう?
「さっきの
「おい、お前――」
「
「おい、
そう言いかけた
「嘘……だろ……」
そのあとすぐにやってきた警察が
◇◇◇
――プルルル。
いつものようにソファーで寝ている
「あい、もしもし」
「お前、よくうまくいったな」
「ああ、正直ひやひやしたけどな。探偵ごっこも楽しかったよ」
「計画通り、
「おお、よかったな、藤城。じゃあ、お前が
「ふ。さすがに結果を残さないと、ほかの組員から反発が出るからな。もちろん、
「ああ、頼んだぜ
「ふ、ほどほどにしろよ。じゃあ、またな。
プリテンダー 宮城ヒカゲ @h_miyagi
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