プリテンダー

宮城ヒカゲ

プリテンダー

「おい、まだ寝てんのか?所長」


 京極きょうごく探偵事務所のドアが思い切り開かれる。所長の京極きょうごくは目をこすりながら、茶色い二人掛けのソファーの上で目を覚ました。かけていた毛布は床に落ち、肩はガチガチに凝っている。


「……おはよう、郷田ごうださん」

「今日の仕事は?」

「今のところ、なしかな」

「いつもどおりってことだな」


 郷田ごうだはゴリラのようなたくましい図体ずうたいを来客用の椅子に収め、事務所の中心を陣取るテーブルの上に乗っていた雑誌を読み始める。京極きょうごくは、郷田ごうだと対照的なその細い体を再びソファーに預けた。


 お察しのとおり、ここはうだつの上がらない弱小探偵事務所だ。家賃と給料を払うので精いっぱい――というのは、見栄を張り過ぎた。家賃は平気で何カ月も滞納しているし、郷田の給料も最低賃金以下だ。


 まあ、前科持ちの身寄りがない所長とゴリラみたいな元暴力団員がいる探偵事務所なんて、怖くて誰も寄りつかないだろう。たまに来る依頼は……そういう案件だ。


「そういえばよ、友達から一〇〇万円もらえる治験ちけんの話を聞いたんだ。これでひと稼ぎしてくるか?」


 京極きょうごくのスマホが鳴る。


「どれどれ……って、これ絶対危ないやつだろ」

「物を運ぶだけで一〇万円もらえるバイトも募集してるぞ」


 また、京極きょうごくのスマホが鳴る。


「これも却下」

「最後に探偵の仕事したの、いつだっけ? 所長」

「……ちょっと電波悪いかも」

「悪いのは電波じゃなくて経営だろ」


 やり取りは冗談めいているが、たしかに経営状況は良くない。そんなことを考えるとすぐに頭が痛くなってきたので、郷田ごうだの視線を毛布でさえぎり、京極きょうごくはそっと目を閉じた。



◇◇◇



「おい、まだ寝てんのか?所長」

「今日も仕事はないよ――」

松風まつかぜ《まつかぜ》の親っさんがいらっしゃってるぞ」


 窓からこぼれる陽の光を顔面に受けながら、京極きょうごくは陸に上げられた魚のようにソファーから体を起こす。いきなり体を動かしたので、全身に鈍痛どんつうが走る。


「仕事はいつぶりかな?」

「もう覚えていないですね……」


 そう言うと、事務所内に大きな笑い声が広がった。笑い声の主は松風まつかぜ組組長・松風 豪まつかぜ ごう。通称・松風まつかぜの親っさん。松風まつかぜ組は郷田ごうだが以前に所属していた組で、郷田ごうだ松風まつかぜ破門はもんされている。


 しかし、松風まつかぜ郷田ごうだの仲は良い。過去にとある事件で郷田ごうだが組員殺しのぎぬを着せられてしまい、松風まつかぜがどうしようもなく破門はもんにしたとのこと。破門はもんにしてしまった後ろめたさもあるのか、たまにこうやって依頼を持ってきてくれる。


 松風まつかぜが来客用の椅子に座り、郷田ごうだ京極きょうごくの隣に座る。郷田ごうだが来客用の椅子に座るとぎちぎちだが、やっぱり普通の人には十分な広さだな、と京極きょうごくは思った。


「それで、今日の依頼は?」

「うちの若頭わかがしら東堂とうどうが殺された」

「んなっ⁉」


 郷田ごうだは目を見開いて驚いている。だが、それも無理はない。若頭わかがしらは組のNo.2であり、殺されたともあれば大ごとだ。組同士の戦争が起こることもある。


「犯人は⁉」

「分からない。だから、君たちに依頼したいんだ。解決したら、郷田ごうだが組に復帰するきっかけになるかもしれない」

「さっそく調査だ京極きょうごく若頭わかがしらを殺すなんて許せねえ!」


 郷田ごうだはいつも以上に気合が入っているようだ。自身の復帰がかかっていることもあるだろうが、元暴力団員として、事の重大さが身に染みて分かっているのだろう。


「ただ、相当危険ではあるな……」

「なに言ってんだよ!久しぶりの依頼だし、何より親っさんの依頼だぞ!」

「まあ、落ち着け郷田ごうだ京極きょうごくさんの言っていることも分かる。たしかに危険な依頼ではある。ですので、報酬はたっぷり出させていただきます」


 京極きょうごくは膝に腕を置き、手を組み、前傾姿勢で依頼を受けるべきかじっくり考えていた――のではなく、これで滞納している家賃を何カ月分払えるか計算していた。長い付き合いだ。おそらく、郷田ごうだもそれを見抜いていただろう。


「分かりました。この依頼、受けます」

「ありがとう。それではさっそく、これが事件の捜査資料だ」


 そう言って、松風まつかぜはテーブルに東堂とうどう殺害事件の捜査資料を広げた。どこから手に入れたのかを聞くと、優しい笑みを浮かべて「世の中には知らないほうがいいこともある」と一言。郷田ごうだ一瞥いちべつすると無表情で深くうなずいていたので、京極きょうごくはゆっくり捜査資料に視線を戻した。


 被害者は松風まつかぜ組の若頭わかがしら東堂とうどう。犯行時刻は昨夜二三時ごろで、犯行現場は松風まつかぜ組近くの公園。胸を刃物で刺されたようだ。


「やっぱり、怪しいのは松風まつかぜ組の組員ですかね……。昨夜、組員はどこにいましたか?」

「それが、私は今朝まで入院していたので、分からないのです」

「じゃあ、今から組に行って聞きましょう!」


 郷田ごうだの勢いに引っ張られるように、京極きょうごく松風まつかぜ松風まつかぜ組事務所に向かった。






 ぱっと見はただの廃ビルだが、どうやらここが松風まつかぜ組の事務所のようだ。郷田ごうだが「懐かしいな……」とつぶやいていたので、長らくこの場所に事務所を構えているのだろう。


 中に入ると、松風まつかぜ組の組員たちがすでに集まっていた。松風まつかぜが入ると、全員が一斉に立ち上がり頭を下げた。京極きょうごくもつられて頭を下げそうになる。


 隣を見ると、郷田ごうだはガッツリ頭を下げていた。暴力団のイロハは、まだ体に染みついているようだ。その後ハッとして、郷田ごうだは何事もなかったかのように聞き取りを開始する。


「みんな、昨夜はどこで何をしていたんだ?」

「昨日は二一時ごろに解散になって、東堂とうどうさんと風間かざま藤城ふじしろが一緒に出ていきました」

東堂とうどうさんは今の松風まつかぜ組で逆らえる人はいないくらいの権力を持っていて、風間かざま藤城ふじしろは特に可愛がられていました。正直あの二人は嫌そうでしたけど」

「じゃあ、風間かざま藤城ふじしろが犯人ってことか?」


 郷田ごうだは前のめりで、およそ推理とは呼べない安直な考えを大声で披露する。


「分からないですけど……どっちも今日は来ていないですね。藤城ふじしろからは連絡が来ましたけど」

藤城ふじしろなら、俺も連絡先を知っている。アポを取るから、話を聞きにいこう!」


 京極きょうごくはまたも前のめりな郷田ごうだについていく。松風まつかぜは組員から詳しい事情を聞くために、事務所に残った。






「おう、郷田ごうだ。相変わらず元気そうだな」

「お前もな、藤城ふじしろ


 いたって普通のアパートである藤城ふじしろの家に着くと、さっそくこのような会話が繰り広げられた。疑っていたわけではないが、この二人は本当に仲がよさそうだ。


 郷田ごうだが昨日のことについて聞くと、藤城ふじしろはテーブルにコーヒーを置きながら話し始める。


「昨日は東堂とうどうさんと風間かざまと俺で事務所を出た後、バーに連れていかれたんだ。でも、二三時くらいに東堂とうどうさんに電話がかかってきて、東堂とうどうさんはそのまま帰っちまった。女も捕まらなかったし、俺と風間かざまもすぐに解散したんだ」

「二三時……ちょうど犯行時刻あたりだな……」

「ああ。その後、風間かざまがどこに行ったのかは分からないが、あいつ、ぽろっと東堂とうどうさんの悪口を言っていたんだ。いつものことといえばそうなんだが、事件を聞いたときは、やったな……って思ったよ」


 ここまでの話がすべて本当なら、東堂とうどう殺害の犯人は風間かざまということになる。なんて割のよい仕事だ、と京極きょうごくほほゆるめる。


風間かざまはどこにいるんだ?」

「分からねえ。連絡もつながらない」


 京極きょうごくゆるめたほほを再度引き締め直した。






 風間かざまの行方を追うため、京極きょうごく郷田ごうだは昨夜風間かざまたちが飲んでいたバーに来た。大通りからは一本外れた場所にあり、まさに隠れ家といった感じだ。


 周辺で聞き込みをするが、風間かざまの居場所は分からない。


 休憩がてら一服していると、京極きょうごくの携帯が鳴った。松風まつかぜからだ。


京極きょうごくさん、風間かざまが……」






 急いで言われた場所へ向かうと、きれいな海辺だった。松風まつかぜと舎弟らしき人物――と、砂浜に仰向けに寝ている体が一つあった。その顔を見た郷田ごうだは、またも目を見開いて驚いていた。


「気分転換に海を見にきたのですが、人が浮いているのが見えて、引き上げたら……」

風間かざまだったと……」


 立ち尽くしている郷田ごうだを尻目に、京極きょうごくは膝をついて風間かざまの死体をよく観察する。首に絞められた跡があり、吉川線よしかわせんもある。誰かに殺されたようだ。


「おい、あそこに何かあるぞ」


 いつの間に正気を取り戻したのか、郷田ごうだが拾ってきたのはスマートフォンだった。舎弟いわく、風間かざまが持っていたもので間違いないとのことだ。


 指紋認証でロックを解除して中身を見ると、発信履歴に“大学病院”の文字があった。昨夜二三時過ぎという時間も気になる。


 なんか探偵らしいことをしているな。京極きょうごくはそんなことを思いながら、郷田ごうだと大学病院へ向かった。






 大学病院は松風まつかぜ組の近くにあり、東堂とうどうが殺害された公園も歩ける距離にあった。


 大学病院の中へ入ると、多くの患者が診察を待っていた。見るからに元気そうな郷田ごうだは明らかに場違いだったが、お構いなしにずんずん進んでいく。


「昨日、風間かざまって男から電話が来なかったか⁉」


 郷田ごうだが、受付の女性に詰め寄っている。迷惑そうな顔をされているが、郷田ごうだの目には入っていないだろう。その後、郷田ごうだと受付の女性は二言三言ふたことみことやり取りをした。


「あー、らちが明かねえ!病院長はどこだ!会わせろ!」


 京極きょうごくは知り合いではないふりをしてそっと距離を取るが、無事に二人とも外へ追い出されてしまった。郷田ごうだはまだ、ぶつぶつと文句を言っている。


「あのー、すみません。先ほど受付で揉めていたのは、あなたたちですよね?」

「そうだ、あんたはなんだ?」


 怒られる、と思い、京極きょうごくが左足を軸に右足を動かしてその場を立ち去ろうとした瞬間、郷田ごうだが返事をした。京極きょうごくはため息をつき、左足を軸に右足をもとの位置に戻す。


「私は佐伯さえきといいます。ここの大学病院で准教授をやっているのですが、最近病院長の動きが怪しくて、こっそりといろいろ調べていたんです」

「ほう、それで?」

「昨夜、病院長が夜遅くまで残っていたのですが、手術室に向かう姿が見えたんです。そっと後をつけると、政治家の人も来て、『今回は風間かざまという男か。東堂とうどうさんは来ないんですか』って言っていたんです」


 こんなところでつながるか、と京極きょうごくは感心した。ドラマや小説で見たような展開に、少し心が躍る。


「私はそのすきに、病院長のデスクを調べてみたんです。そしたら、なんと“人間入れ替え”の研究論文が出てきたんです」

「人間入れ替え?」


 詳しく話を聞いてみると、人の人格や記憶を入れ替える技術の研究で、いわば“器”だけを入れ替えることができるらしい。准教授はそんな話は聞いたことがなく、おそらく病院長が政治家や裏社会とつながって水面下で研究を進めているのではないかということだった。


「な……なんだよ、それ……」


 郷田ごうだは脳がショートしたのか、虚空こくうを見つめている。


 そんな郷田ごうだはひとまず置いておき、実際に“器”を入れ替えることができるとすると、風間かざまは“器”を入れ替えて今も逃走している可能性がある。海に浮かんでいた風間かざまの死体には、別の誰かの記憶や人格が入っている状態だったということだ。


「しかし、まだ研究段階で確実に成功する保証はないと思うんです。例えば、記憶の移植がうまくいかず記憶喪失になったり、人格の移植がうまくいかず自我が崩壊したり……」


 佐伯さえきあごに手を当て、ロダンの考える人よろしく、斜め下を見つめて考え込んでいる。


 だとすると、誰の中に風間かざまが入っている? さすがに成功する確率が低い実験に一般人を巻き込むわけにはいかないだろうから、最悪いなくなってもいい人となると……暴力団員だろうか。東堂とうどうが関わっていたことも考えると、その線が濃厚だ。


 二三時に東堂とうどうを殺してから大学病院に来て“器”を入れ替えたと考えると、二三時以降にアリバイがない人が怪しい。松風まつかぜ組の組員だと、松風まつかぜ東堂とうどう風間かざま藤城ふじしろ以外はみんな一緒にいたらしいから、殺された東堂とうどうと犯人の風間かざまを除くと、松風まつかぜ藤城ふじしろか……。


郷田ごうださん、藤城ふじしろさんと松風まつかぜの親っさんにもう一度話を聞きにいこう」

「……あ? ああ」


 まだ話を整理できていないようだったが、京極きょうごくはお構いなしに郷田ごうだを連れていく。






 藤城ふじしろはまだ家にいたので、すんなり話を聞くことができた。


「なるほど。それなら、これがアリバイになりますかね」


 藤城ふじしろはそう言って、部屋の天井しか映っていない動画を見せてきた。どうやら、風間かざまと別れた後に自宅へ帰り、スマホをベッドに投げたときに誤作動で録画していたようだ。二三時一五分から二三時四五分くらいまで録画されており、その間、藤城ふじしろの声は聞こえ続けている。これなら、大学病院に行くことはできなさそうだ。


 京極きょうごく藤城ふじしろを頭の中の容疑者リストから外した。






 松風まつかぜのところへ行く道中、藤城ふじしろから京極きょうごくに電話がかかってきた。


京極きょうごくさん、俺の家に財布忘れていってますよ」


 左のケツポケットに手を当てると、たしかに感触がない。戻ってもいいのだが、時間がもったいない。そこで、入れ替わりの話が出て以降、頭の上にはてなマークが出ている郷田ごうだに取りにいってもらうことにした。


 郷田ごうだはうわの空のまま了承し、うわの空のまま藤城ふじしろ宅へ向かった。






松風まつかぜの親っさん、あなたは昨日の二三時ごろ、何をしていましたか?」


 事務所にいた松風まつかぜに質問を投げかけると、組員たちはみな驚きの表情を見せた。


「私は入院していたと言っただろう」

「どこの病院ですか?」

「……」

「言えないんですか?」

「……そこの大学病院だ」


 ビンゴだ。松風まつかぜが入れ替わりの“器”に使われた可能性は十分にある。風間かざま東堂とうどうを殺し、松風まつかぜの“器”も手に入れることで、松風まつかぜ組を牛耳ぎゅうじろうとしたという絵も浮かんでくる。






 程なくして、郷田ごうだが財布を持って藤城ふじしろのところから帰ってきたので、京極きょうごくは最終確認を始めた。


「“器”の入れ替わりの話を聞く限り、元の記憶はそのまま引き継ぎ、新しい“器”の記憶は引き継がない。つまり、いま目の前にいる松風まつかぜの親っさんが本物なら、松風まつかぜの親っさんしか知らない情報を言えるはずです」


 そこにいた全員が、固唾かたずを飲んで京極きょうごくへ視線を向けている。


松風まつかぜの親っさん、何か言えることはありますか?」

「……郷田ごうだが濡れ衣を着せられた事件の真犯人は……東堂とうどうだ」

「っ⁉」


 郷田ごうだはもちろん、その場にいる全員が驚きの表情を浮かべた。


「当時勢いがあった郷田ごうだを邪魔に思った東堂とうどうは罠を仕掛け、組員殺しの濡れ衣を着せることで郷田ごうだを組から追い出したんだ」


 松風まつかぜが話している間は、誰も口を挟まない――いや、挟めなかったといったほうが正しいだろう。それほどまでに、現場は独特な雰囲気に包まれていた。


「俺は東堂とうどうの思惑に気付いていたのだが、証拠がなく、どうにもできなかった。組員殺しが起きたのにおとがめなしというわけにはいかなくてな、仕方がなく郷田ごうだ破門はもんにするしかなかった。すまん……郷田ごうだ……」

「……いいんです、親っさん。俺は、今もこうやって気にかけてくれるだけでうれしいです!」


 郷田ごうだ松風まつかぜは泣きながら抱き合い、組員たちは泣きながら拍手している。


 大団円ムードの中、京極きょうごくは一人、風間かざま探しが振り出しに戻ったことを案じていた。松風まつかぜが本物だと確定すると、風間かざまの“器”候補がいなくなる。


「じゃあ、入れ替わりなど元々関係なく、松風まつかぜの親っさんが東堂とうどうを殺して郷田ごうだに解決させることで、自分が犠牲になってでも郷田ごうだを組に復帰させようとしたってことですか?」

「いや、私は殺しなどしていない。これは本当だ! 信じてくれ!」


 全員の言うことを信じていたら、風間かざまはもう存在しないことになる。京極きょうごくが頭を悩ませていると、郷田ごうだくちびるを噛みしめた後、口を開いた。


「親っさん……俺は悲しいです……」

「なに?」

「実は、俺にぎぬを着せたのは東堂とうどうだってこと、知っていました。さっき藤城ふじしろから聞いて。藤城ふじしろが知っていたのなら、風間かざまが知っていてもおかしくはないですよね」

郷田ごうだ……何を言っている……私は――」

「もうやめてくれ親っさん! ……いや、風間かざま!」


 あまりにも急な展開に、京極きょうごく含めその場にいた人たちは全員、面食らった。


 しかし、これで一件落着。松風まつかぜの中に風間かざまが入り、今まで潜んでいたということか。


 ……そう納得しようとした京極きょうごくだったが、どうしても気になることがあった。


 “なぜ、事件の調査を京極きょうごくたちに依頼してきたのか”


 風間かざまの立場からしたら、大事おおごとにせず、適当に犯人をでっちあげることもできたはずだ。もちろん、実際に東堂とうどうを殺したのが風間かざまなら、調査を進めれば自然と真相に近づいてしまう。風間かざまの死体を見つけたとわざわざ連絡してきたことも、メリットがないように思える。


 そんな風に考えを巡らせていると、京極きょうごくは一つの可能性にたどり着いた。それは信じがたく、口にするのもはばかられる結論だった。


郷田ごうださん、そういえばこの前話していた治験ちけん、行ったのか?」

治験ちけん?」

「ああ、前に俺に教えてくれたろ?」

「……ああ、そんなのあったな。行ってねえよ。なんでだ?」

「その治験ちけんが行われる場所、大学病院だったよな?」

「……っ!」


 郷田ごうだは何かを察したように、目を見開いた。


「入れ替わりの話が出てきてから調査に消極的になったり、いきなり松風まつかぜの親っさんを風間かざまだと言いだしたり、引っかかるところはあった。……まさか、こんな近くにいたとはな……」

ちげえ! 俺は風間かざまじゃねえ! 信じてくれよ!」

「だってよ、どう? 藤城ふじしろさん」


 京極きょうごくは胸ポケットに入れていたスマホをテーブルに置いた。画面には「通話中」の文字がはっきりと見える。


「さっきの郷田ごうだぎぬを着せたのは東堂とうどうだって話。あれ、俺は郷田ごうだに言っていない。知っているのは、親っさんと俺、そして風間かざまだけだったはずだ」

「おい、お前――」

郷田ごうだを……捕まえろ……」


 松風まつかぜが苦虫をつぶしたような表情で言うと、組員たちは郷田ごうだの周りに集まり、郷田ごうだ羽交はがめにした。


「おい、藤城ふじしろ! お前なんで――」


 そう言いかけた郷田ごうだはまた何かを察し、それまで暴れていた体を落ち着け、膝から崩れ落ちた。


「嘘……だろ……」


 そのあとすぐにやってきた警察が郷田ごうだを連れていき、東堂とうどう殺害事件は幕を下ろした。



◇◇◇



――プルルル。


 いつものようにソファーで寝ている京極きょうごくは、スマホの着信音で目を覚ました。


「あい、もしもし」

「お前、よくうまくいったな」

「ああ、正直ひやひやしたけどな。探偵ごっこも楽しかったよ」

「計画通り、東堂とうどうがいなくなったから、俺が次の若頭わかがしらになりそうだ」

「おお、よかったな、藤城。じゃあ、お前が若頭わかがしらになった頃合いに組員の誰かの“器”をもらって、良い役職を与えてもらおうかな」

「ふ。さすがに結果を残さないと、ほかの組員から反発が出るからな。もちろん、わりを食ったのはお前だから、できるかぎり尽力はするが」

「ああ、頼んだぜ若頭わかがしら。俺はもう少し探偵ごっこを楽しむわ」

「ふ、ほどほどにしろよ。じゃあ、またな。風間かざま

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プリテンダー 宮城ヒカゲ @h_miyagi

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