『泉の祝福を受ける日』

初見さん

プロローグ 観測記録:未登録


世界が、彼を見失ったことは一度もない。


それは神の目ではない。

裁定でも、祝福でもない。


ただ、観測だ。


人が生まれ、精霊が寄り添い、世界が循環する。

その流れの外側で、記録だけを続ける何かがある。


かつて、似た存在はいた。

始祖、原初、管理者。

呼び名は時代ごとに変わり、やがて神話になった。


だが、彼らは皆「知っていた」。


自分が何者で、何を背負っているのかを。


今回の個体は違う。


彼は、生まれた瞬間に“知った”。

そして同時に、“知らないまま”でいることを選ばされた。


相棒の精霊は、名を持たない。

拒否されたのではない。

必要がなかっただけだ。


上位存在は気づく。

英霊は察する。

だが、誰も語らない。


語れば、観測が変質するからだ。


やがて彼は、祝福を受ける。

世界の形式に従い、義務として。


その祝福は、力を与えない。

代わりに、継続を与える。


世界が続く限り。

彼が在る限り。


これは、英雄の物語ではない。

世界を救う話でもない。


ただ一つ。


世界が「在り続ける」ために、

何が観測されているのか。


その記録が、今、再開される。


――観測対象、起動。

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