森のソロキャンプと運命のもふもふ 8

 川から戻る途中、来たときとは違うルートを通ってみることにした。


 どうせなら、森のことをもっと知りたい。

 地図を見ながら歩けば、迷うこともないし。


「お、あれはキノコかな」


 倒木に生えている白いキノコを発見。


 でも、キノコは危険。

 素人判断で食べたら、死ぬかもしれない。


 スルー。


「あ、木の実だ」


 赤い実がなっている低木を見つける。

 ラズベリーみたい。


 検索してみる。


 『森苺(もりいちご)』

 『甘酸っぱい味が特徴の食用果実。生食可能。ジャムにも適している』


 これも食べられる!


 一粒食べてみる。


 甘い!

 そして、ちょっと酸っぱい。

 野生の味がする。


「美味しい!」


 これも四次元バッグへ。

 デザートゲット。

 ルンルン気分で歩いていると、何か変な音が聞こえた。


「キュゥン……キュゥン……」


 動物の鳴き声?

 それも、苦しそうな声。


「どこから?」


 声のする方に向かって、そっと近づく。


 茂みの向こうに、白い何かが動いているのが見えた。


「わ、真っ白」


 それは、真っ白な子犬……いや、子狼? のような生き物だった。


 大きさは、中型犬の子供くらい。

 毛は真っ白で、ふわっふわ。

 耳と尻尾の先だけ、銀色に光っている。

 そして、その子は……。


「罠にかかってる!」


 後ろ足に、錆びた鉄線の罠の罠が食い込んでいる。

 血が出ている。


 必死にもがいているけど、鉄線は外れない。

 むしろ、動けば動くほど、深く食い込んでいく。


「ひどい……」


 誰がこんな罠を?

 猟師? 


 でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


「助けなきゃ」


 近づこうとすると、白い子は威嚇の唸り声を上げた。


「グルルル……」


 怖がっている。

 当然だ。

 人間が近づいてきたら、もっとひどいことをされると思うよね。


「大丈夫、怖くないよ」


 ゆっくり、ゆっくり近づく。


 でも、唸り声は止まらない。


 あ、そうだ!


「【もふもふテイマー&翻訳】!」


 能力を意識して、心の中で語りかける。


『怖がらないで。助けてあげるから』


 白い子の耳が、ピクッと動いた。


『……聞こえる? 人間の言葉、分かる?』


 唸り声が、少し小さくなった。

 青い瞳が、不思議そうに私を見つめている。


『痛いでしょう? その罠、外してあげる。だから、ちょっとだけ我慢して』


『……本当? 本当に、助けてくれる?』


 わあ! 返事が返ってきた!


 子供みたいな声。

 性別は……男の子かな?


『本当だよ。約束する』


 10徳ナイフを取り出す。

 金属を切断できるペンチの機能もあるはず。


 そーっと近づいて、罠を確認。


 複雑に絡まっている。

 これは、慎重にやらないと。


「動かないでね」


『うん、動かない。我慢する』


 健気だ。

 すごく健気。


 ペンチの刃で、少しずつ鉄線を切っていく。


 パチン。


 パチン。


 硬い。錆びていて切りにくいけど、通販のナイフの性能は抜群だ。


「もう少しだよ」


『痛い……でも、我慢する』


 足に食い込んでいる部分は、特に慎重に。

 傷を広げないように、ゆっくりと。


 パチン。


 最後の一本が切れた。


「取れた!」


 切れた鉄線を外す。

 土や血で汚れているはずなのに、不思議と白い子の毛は真っ白なままだ。泥や汚れを弾いているみたい。それに、獣臭さも全くない。むしろ、陽だまりのような良い匂いがする。


 なんだろう、この子。普通の動物と、なにかが違う……?


 その不思議な清潔さに、野生動物に触れることへの抵抗感が少しだけ和らぐ。


 傷を確認。

 深くはないけど、結構血が出ている。


「消毒しないと」


 救急セットから、消毒液と包帯を取り出す。


「ちょっとしみるよ」


『うん、大丈夫』


 消毒液を傷口にかける。


「キュゥゥゥン!」


 痛そうな声。

 でも、逃げない。

 じっと耐えている。


「ごめんね、もう少しだけ」


 包帯を巻く。

 きつすぎず、緩すぎず。


 よし、応急処置完了。


 でも、これだけじゃ不安だ。


「《治癒》!」


 ダメ元で唱えてみる。

 生活魔法に治癒が含まれているか分からないけど。


 手が、ほんのり光った。


 その光が、白い子の傷に染み込んでいく。


 みるみるうちに、傷が塞がっていく。

 血も止まった。


「すごい……」


『痛くない! もう痛くない!』


 白い子が、驚いたように自分の足を見ている。


 そして、次の瞬間――。


「わっ!」


 白い子が、私に飛びついてくる。


 うわっ、舐められる! 破傷風とか大丈夫!?

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