俺と王女、そして最強の銀髪奴隷が世界を理想郷(エデン)にする!

奴鯖(雪楽党)

第1話

 目覚めた瞬間、見慣れない天井だった。学校からの帰り道で、のんびり歩いていたら突然トラックに轢かれ、次の瞬間にはここにいた。


「なんかまるで、ゲームみたいだなぁ」


 少年は周囲を見渡してそう呑気につぶやく。


 (異世界なら、せっかくなら──。面白いことをしたいな)


 なんだろうか、いかにもファンタジーといった具合の家具や装飾品を見て、思わず笑みがこぼれる。




 突然、部屋の外から使用人の声が響いた。


「アデル様。朝食の用意が済んでおります」


「ありがとう。今行こう」


 アデル、そう呼ばれた少年は軽く答えると立ち上がる。窓の外に映し出されるのはのどかなヨーロッパ風の畑風景。




 きっとこの世界は何かのゲームか、物語の中だろう。その瞬間、これまでの記憶が流れこむ。


 アデル・フォン・モルゲンロートとしての今までの記憶。王国の辺境に小さく領地を構えるモルゲンロート家の4男。辺境とはいえ国境からは少し離れているが外征の最には大きな力を発揮する。 




 部屋を出て、廊下を歩くと歴代の当主たちの絵画が並ぶ。無駄に長い廊下を歩いていくとその先には食堂が。重々しい扉を開け、中に入るとそこには既に一人の男がいた。


「お前は来週から魔法学園にいけ」


 この世界における父の唐突な言葉にアデルは目を見開いた。


「この屋敷の使用人も人手不足でな。4男のお前につけられる者がいない」


「はぁ」


「そこでだ、奴隷でも買って、それを学園に連れていくと良い」


 父のそんな粗雑な言葉に思わず呆れてしまう。来週から学園、奴隷を使用人として連れていく。


 なんとも、まぁ。ありきたりなのだと。


「はい。父上。承知いたしました」


 アデルがそう答えると、父は目を細めて言葉を続けた。


「まぁ。無駄遣いはしないように」




◆◇




「これはこれは、モルゲンロート家の4男様ではございませんか」


 アデルを前に奴隷商は下品な笑みを浮かべ、手をこすり合わせる。


「御当主様から伺っております。ささ、こちらへ」


 アデルを中へといざなわれると無数の牢屋と中には鎖でつながれた奴隷たちの姿。そのいずれも虚ろな表情をしており生気がない。


「ほとんどの奴隷には隷属の呪いを付与しております。気に入られたモノがあればいつでもお申し付けください」


「隷属の呪い?」


 アデルの問いに奴隷商は笑みを張り付ける。


「物事を考える〈脳〉という臓器を外部から魔法によって書き換えてしまうのですよ」


「なるほど、なんともまぁ」


 ご都合主義なことで。




 中に歩みを進めていくと、最奥に目を引く存在があった。


「店主、これは?」


 アデルが指を指す先には牢屋の中で倒れる小柄な少女の姿。他の奴隷たちは立ったまま虚ろな表情をしているのに対して、彼女は気絶させられているようだった




 銀色の髪に病的なほど真っ白な肌。小柄で可憐なその体躯には見合わない、全身につけられた傷跡。一部は赤く腫れあがり、最近つけられたものなのだと示している。


「呪いが効きませんでな。暴れるので一度気絶させております」


「随分手荒だな」


「暴れさせておくわけにいきますまい」


 その言葉にため息を吐く。これもまた力ない者への理不尽だろうか。


「出自は?」


「近くの洞窟で震えているのを『自警団』が捕らえたようです」


「『自警団』ね」


 要は野盗だ。 違法な入手先ではないという建前が必要で、よくこういった言い換えをされている。


「いくらだ?」


「あまりオススメはしやせんが……」


「跳ね返り娘を服従させるのもいいと思わないか?」


 その言葉を聞いて店主は目を見開いたあと、下品な笑みをより一層強くした。


「ダンナも趣味が悪いですなぁ」


 店主はくっくっくっと喉で音を鳴らす。折角異世界に来たんだ、ルールに縛られずに自由に生きてやろうじゃないか。


 


 それに、どうせゲームの世界なんだから。


 何をしたって自由だろ?


 だったら、理不尽に抗ってやろうじゃないか。




◆◇




 それから、1週間後。魔法学園への入学を翌日に控えたアデルは朝から馬車に荷物を積み込んでいた。


「アデル様。わざわざそんなことをご自身でなさらなくても……」


 背後で困ったような表情を浮かべるのは奴隷のセリーヌ。


「君の華奢な体にはこの荷物は重いだろう?」


「執事を呼んでまいります」


「たかが4男の厄介払いに執事が手伝ってくれると思うかい?」


 セリーヌの言葉にアデルはそう答えるとニヤリと笑う。貴族といえど、4男ともなれば食い扶持だけで負担になる。


「むぅ……。アデル様はこんなにお優しいのに」


 その言葉にアデルは呆然とした。折角だから奇抜なことをしてみようと思い、彼女には色々なことを施した。


「お料理を教えてくれましたし、こんなにいい衣装だって──」


「勘違いするなよ? 目立つためと、俺が学園で不自由しないためだ」


「ふふっ。そういうことにしておきます」


 彼女がアデルの元に来てから一週間と経っていないが既にセリーヌはアデルに心酔していた。


「まぁ、こんなとこの四男が首都の魔法学園にいけばどんな扱いを受けるかわからないからな」


 王立魔法学園。それは、王家直属の魔法騎士養成のための学校。 軍とは別に少数精鋭を掲げるそれは様々な貴族たちが子供を送り込んでいる。


「ところで、『隷属の呪い』も無いのによく従順にしてるよな」


 アデルは最後の荷物を積み込むと馬車に乗り込むと、右手をセリーヌに差し出して彼女も馬車に引き上げると御者に馬車を出すように命じる。


 見送りはない。


 アデルが雇った一人の御者と、たった一人の奴隷とともに彼の旅は始まった。


「まぁ。アデル様の元から離れたら私はどう暮らせばよいのでしょう?」


 アデルの問いにセリーヌはいたずらっぽく笑う。


「それとも、困窮してやせ細って餓死していく私を見て愉しみたいのですか?」


「……。そんな悪趣味──。いや、それも面白そうだな」


 思わず素で答えてしまいそうになるのをアデルは悪役のような笑みを張り付けて笑う。


「まぁ。恐ろしい。でも、似合ってませんよ?」


「うるさい」


 セリーヌの言葉にアデルは窓の外に目線をプイッと向けた。


「高かったんだ。無駄にはせん」


 その言葉にセリーヌは目を見開く。そして、自身の胸に手を当てて呟く。


「私なんぞ、対した金額ではなかったでしょうに……」


 屋敷にいた他のメイドたちからの扱いでもそれはよくわかった。呪いが効かないという彼女の体質上、かなり安く売られたということは彼女自身がよく理解していた。


「何か言ったか?」


 アデルの問いにセリーヌは小さく微笑む。


「いいえ。なにも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る