初代魔王と第六十二代勇者
鷹城千萱
初代魔王と第六十二代勇者
──帝暦1300年。
世界に覇を唱えるミカルガ帝国の前に、突如として「魔物」が現れた。生みの親である「魔王ルア」に連れられた異形の魔物は、人間よりはるかに高い殺傷能力を持ち、あっという間に帝国の領土を侵食していった。
防戦一方であった帝国軍だが、とある賢者に、魔を焦がし斬る『天の剣』を与えられたことで、一時的に劣勢を覆すことに成功する。そして、これを使いこなせる者を帝国中から見つけ出し、これを「勇者」として旅に出すようになった────
「……というのがこの『勇者選抜』の歴史的経緯だが……まあ、ここに来ている諸君には説明不要だっただろうか」
いかにも軍人であるという風体の男が、俺たちの前でハキハキと喋っている。
「というわけで早速だが、これより第六十二回選抜を行う。ルールは単純、この格闘場で最後に立っていた一人が『勇者』となれる。では、はじめ!」
男が啖呵を切った瞬間、百人の戦士たちによる殺し合いが始まった。
俺は、魔物に家族を殺されている。父も母も、妹もだ。だが、そんな過去を持つ奴くらい、この国にはいくらでもいる、実際、金や名誉のために「勇者」になろうとする人間はほとんどいないと言う。なったが最後、誰一人として生還できていないからだ。今この場にいる他の九十九人も、おそらく皆復讐に燃えているのだろう。彼らの胸中は察するに余りあるが、かと言って負けるわけにはいかない。鍛錬の量で負けたつもりはない。俺は俺の復讐を成し遂げるだけだ。
「というわけで……みんな、ごめん」
俺は小さく謝罪を口にした後、目の前の乱闘に飛び込んだ。
「……勝者決定! 第六十二代勇者は、ユーリ・ロイゼン!」
俺が勇者に選ばれるまで、一時間もかからなかった。
足元には、俺が斬り伏せた戦士たちの亡骸が転がっている。
「素晴らしい戦いであったぞ、ユーリ!」
後ろから、護衛を引き連れた皇帝が手を鳴らしながらやってくる。
「気に入った、『勇者』としての待遇の他に、ひとつ褒美をやろう。何がよい?」
「……では、」
この選抜で散った戦士たちを手厚く弔ってほしい。俺はそう答えた。
皇帝は少し渋い顔をした後、
「まあ良いじゃろう。おいお前ら、すぐに墓の手配をしろ」
一応は納得したようで、護衛のひとりにそう命じた。
そこからの数週間は、大忙しだった。勇者としての出発の用意は勿論、首都中に顔を出して回らないといけなくなった。まだ何も成していないのにとも思ったが、これまでの勇者の末路を考えると、これは大規模な生前葬のようなものなのだろう。失うものも死への恐怖もないつもりだったが、いざこうやって近づいてくると少し身震いする。
ちなみに、一度国の外へ出ると魔王を倒すまで国の中には戻れない。「一度魔物が国内に入れば、国が終わる」という迷信を皆が信じているからだ。その厳しさでまだ国がつぶれていないのは無理があるだろう。「天の剣」も勇者が死ぬたび回収されて新たな勇者に渡されるというが、誰が回収しているかは一切不明であり、ここ数百年はレプリカが渡されているという噂もある。
要するに、「勇者」という肩書は特攻隊のそれに等しいのだ。だからと言って、魔王を倒せる可能性はゼロではない。ゼロではないなら、それに賭けたい。この数週間、俺はずっとそんなことを考えていた。
いよいよ出発を明日に控え、早めに寝ようと思っていたその頃。
「すみませーーん!」
首都にある我が家の戸を叩く者がいた。
いくら勇者が国中から憐れまれる存在だといえど、流石に守衛はつけるべきだっただろうか。
自分の田舎臭さを若干恨みつつ、俺は門を開けてやる。
「なんなんだ一体、よりによってこんな時に……」
「勇者様! お願いです、私を旅に連れて行ってください!」
「……?」
想定外の懇願すぎて、すぐには反応できなかった。
改めて、目の前の女性をよく見てみる。黒髪のツインテールに金色の瞳。白シャツの黒のスカートと、綺麗な身なりをしている。その辺の貴族の召使とかだろうか。
「あっ、申し遅れました!私、アルと申します。あちらにあるガストン卿の邸宅で小間使いとして働いていたのですが、卿が私を襲おうとしてきて……思わず逃げちゃったんですが、このままだと追手に捕まってしまいそうで……なんとか連れ出してくれませんか!?」
「なるほど。何とかしてやりたい気持ちは山々だが、出発は大勢の人間に見送られるからすぐバレるぞ?それに外は危険がいっぱいだかr」
「だからいいんです!一度国の外に出てしまえば、卿も私のことを諦めるはずです!それに────」
刹那、俺の顔に蹴りが飛んできた。油断していたが、間一髪かわす。
「戦闘には自信があります♪」
「……オーケー分かった、連れていこう。その代わり、ダメだと思ったらすぐ帰すからな」
「ありがとうございます! 足を引っ張らないよう頑張ります!」
その後、俺たちは少し語らった後に寝た。
最初はなんだと思ったが、話してみるととても素直で優しい同い年の女子であった。彼女となら少しは楽しい旅になる、そんな気がした。
そして翌朝。
「というわけで勇者よ、頑張るんじゃぞ~!」
「「「頑張れ~~~!!!」」」
地獄への片道切符の割には軽すぎる声援を受けて、俺は旅立った。俺を見送る人々の中に、何故か件のガストン卿の姿は見えなかった。
そして国境を超える直前。
「うおおおおお!……セーフ!なんとか間に合いましたぁ……」
「よし、急ぐぞ!」
国境付近で待機していたアルを連れて、俺たちは魔物の世界へと走り出した。
「ふう、この辺まで来れば大丈夫だろう。というわけで、今度こそ旅の始まりだ」
「勇者様。私をあの国から解放してくれたこと、改めて感謝します」
アルが深々と頭を下げてくる。
「いいって、あくまでお供としての契約だしな。あと『勇者様』はやめてくれ。流石に恥ずかしい」
「分かりました!では、」
「これでいいかい、勇者『クン』?」
「!?」
突如として、アルの口調が変わった。
口調だけでない。目つきや表情までも、とても挑発的になっている。
そして何より、溢れている気迫が違う。とても人間が発するものではない、魔物のそれだ。
「おかしいと思わなかったのかい?帝国随一の権力者であるガストン卿が、勇者の門出という式典に代理すら派遣しなかった。まるで死んでしまって何もできないかのようにね」
「どういうことだ……?」
「どうもこうもないよ。奴が私の素晴らしい肉体に欲情して凌辱しようとしてきたんだ。だから殺した、それだけだよ」
「……昨日の蹴りを見るに、人間を殺せるほどの強さには見えなかったけどな」
「あれ、そう?流石に弱すぎたかなあ。ちょっと人間の加減がわかんなくてさ、ごめんよ」
「ああもうじれったい!お前は誰なんだ、言え!」
「わーん怖い、女の子にはもうちょっと優しくした方がいいよ?まあいいや────」
「私の名はルア・エルケーン。もうちょっと分かりやすく言うと、魔王だよ☆」
魔王。
その言葉を聞いた瞬間、俺はアル──いや、魔王ルアに斬りかかっていた。
「おっと。もうちょっと人の話を聞きなよ。えっと、好きな食べ物はね」
「黙れ!! この、家族の仇が……!」
「なるほどそういうことか。それはうちの子が悪いことをした。慰謝料はいくら欲しい?」
「……お前の命だけだ!」
「残念ながらそれはできないなあ、この世界では全ての人間に生きる権利が与えられているからね。あっでも私、人間じゃないや……えーと……やれるもんならやってみなよ、勇者クン」
「言われなくても叩っ斬ってやる!!」
俺は怒りのままに『天の剣』を振り回すが、魔王には切っ先すら当たらない。
避けているというよりは、俺の攻撃がずらされている感覚である。
勇ましく戦いながらも、俺は人智を越えた目の前の存在に恐怖していた。
数分の戦闘の末、俺は疲れ果ててその場に跪いた。
「うん、君は結構骨があったよ。ここ百年でも三本の指に入るんじゃないかな」
「ここ百年……?ということはまさか」
「そう、私は今までの全ての勇者の旅に同行している。大体すぐ死んじゃうけどね」
「どうしてそんな真似を……?」
「えー、どうしてだろうね。簡潔に言っちゃうと『楽しい』から、ちゃんと言うと『勇者の死に目を見たい』からかな。あ、でも私が殺すわけじゃないよ?それは簡単すぎてつまらないからね」
悪趣味とかの次元ではない。この魔王は、完全に人間という種族を舐め腐っている。
「まあ許してよ。私も何百年と魔王やってるとさ、話せる人が少なくなって寂しいの。だからこういう勇者とのコミュニケーションがせめてもの癒しなわけ。ありがとね♡」
「……よくわかった。お前は人類どころか世界の敵だ。必ず俺が殺す」
「ヒュウ、かっこいいよ勇者クン!それならぜひ私を殺してみてくれ。できるなら、ね」
「……」
もうひとつ分かったことがある。少なくとも今は、この魔王を殺すことは不可能である。
「まあそう焦らなくてもさ、勇者クンは今後の旅で成長していくわけだ。そうしたらどこかで、私を殺せる時が来るかもしれない。それまで我慢しようよ、ね?」
「……お前はいつか絶対に倒す。分かったら今すぐここから去ってくれ」
「え~~!?それは流石に薄情すぎるよ勇者クン!言っただろ?私は今話し相手がいなくてモーレツに寂しいんだ。こんないたいけな少女を君は泣かせるのかい?これじゃどっちが人間じゃないか分からないね」
「あああうるさい!もう勝手にしろよ、俺はお前に何もしてやらないけどな」
「やった~~!ありがとう勇者クン、大好き♡チュッ♡」
日が暮れてすこし冷静になってきたところで、ここまでの出来事を整理する。
俺は貴族の小間使いを連れて、家族の仇である魔王討伐の旅に出た。しかし、その小間使いが魔王本人であり、おしゃべりクソ魔王が俺の旅についてくることになった。
改めて考えてみても、訳が分からない。だが、今考えても仕方がない。俺はこの旅で力をつけ、憎き魔王をこの手で斬り殺すのだ。
「勇者ク~ン。おなか減ったよ~、そのパン一個だけくれないかい?」
「その辺の草でも食ってろよ」
この魔王はずっとやかましい。途中からティアラとマントを装着し、いよいよそれっぽい見た目になってきている。話し相手が欲しいなら、部下の魔物とでも話しておけばいいだろう。
「さっきから当たり強くない!?……そんな、ひどいです、勇者様……!」
ルアは急に「小間使いアル」の顔に戻り、声を震わせてそう言った。
「……ひとかけらだけやる」
「愛してるよ、勇者クン♡」
正直言うと、俺はアルの顔や性格がとてもタイプであった。一緒に旅してたら万に一つそういう関係になるのかな、とまで思っていた。あの時の自分を魔王の次に殺したい気分である。
「もぐ……ん、美味い!人間の保存食なんてまずい印象しかなかったんだけど……君たち人間も成長したんだね、お姉さんが褒めてあげよう。えらいえらい♡」
「……保存食が美味くなったのはお前ら魔物が毒により飯を腐らせるせいで、期限より味による幸福度を優先するようになったから、らしいんだが?」
「おっと、私たちのせいだったか。こりゃ失敬☆」
「……」
ずっとこんな調子なので本当に疲れる。朝の憤怒の感情も心労で引っ込んでしまった。
「……ところで」
「なんだい?」
「魔王、もとい魔物ってのはどこから生まれたんだ?歴史書を見ても何も分からない」
「なんだ、そんなことか。まず、魔物は自家繁殖することができる。そして、その魔物の祖は全部私が生み出した。私が生まれたのは……また今度教えてあげよう☆」
「そこを一番知りたいんだが」
「旅に謎はつきものだろう?まあ安心しなよ、君が死にそう!ってなった時にまた教えてあげるからさ」
「……分かった。絶対に死んでやらない」
「精々頑張りなよ?これでも私、君には結構期待してるんだ」
「すぐ死んでくれそうって期待か?」
「違う違う、ここから結構伸びるんじゃないかって期待だよ。今朝の手合わせでも、君の剣さばきは結構よかった。並の魔物ならあっという間にやられるだろうね」
「……!」
「ん?私、何か変なこと言ったかい?」
「い、いや、なんでもない……」
正直、嬉しいと思ってしまった。地獄のような訓練施設で育てられた俺は、腕前を素直に褒められることは無かったからだ。こんな奴の言葉に惑わされてしまった、危ないところだった。
「ふわぁ~。もう眠くなっちゃったから寝るね。おやすみ~☆」
魔王はそういうと、簡素なテントの中に戻っていった。
「……よし」
逃げよう。俺はそう思い立ち、一晩中走り通した。でたらめな方向に走ったので、しばらくは見つからないだろう。その時は、そう考えていた。
翌朝。
「お~い、勇者クン。おはよう、もう朝だよ~」
「ハッ……!お、お前、なんでいるんだ……!」
「キミねぇ……私は魔王なんだよ?勇者クンの匂いくらいとっくに記憶済みさ」
流石に舐めすぎていた。人間にしか見えないが、ちゃんと魔の者であるらしい。
「まったく、こんなか弱い女の子を置いてくなんて……勇者様……!」
「はいはい、また『小間使いアル』だろ?同じ手には乗らないぞ」
「……いや、今回は本当に悲しかったかな……起きて誰もいなくて、寂しかった……」
かなりドキッときた。勿論顔がタイプだというのもあるが、何より今の言葉にはこれまでと違い、ふざけていない「本音」があるように感じられたからだ。
「……分かった。置き去りにしたことは謝る」
俺はなぜ憎き魔王に謝っているのだろうか。自分でも分からない。
「うん、ありがとう。……もうしないでくれると嬉しいな?」
ルアはそういうと、小指だけを俺に出してきた。よく分からないまま、俺も小指を出す。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った♪……ふふ、約束ね」
まさかこの歳で指切りをするとは思わなかった。俺は二十歳、ルアに至っては数百歳であるというのに。
……でも、なぜか悪い気はしない。
俺は知らず知らずのうちに、魔王の人心掌握の術にかかっているのかもしれない。
とりあえず、俺たちは仕切り直して隣国まで行くことになった。
魔物が棲むエリアを一ヶ月も横断せねばならないので、今や帝国と隣国の関係はほぼ消滅しているに等しい。出発時に国王より渡された、「世界共通」の通行手形のみが頼りである。
「ねーねー勇者クン」
そして旅の最中も、魔王ルアはひたすら俺に話しかけてくる。こいつはこれだけ話してて疲れないのだろうか。俺は結構疲れている。
「なんだよ」
「勇者クンが持ってるその『天の剣』さ、ちょっと見せてくれないかな」
「それはできない。これは俺が勇者であるほぼ唯一の証拠だからな」
「ちょっとだけちょっとだけ!先っぽだけだから!」
「気持ち悪いこと言うな!分かったよ、焼け死んでも知らないぞ」
「ありがと♡どれどれ……?……やっぱりね、これ偽物だ。現にほら、私が触っても焼けやしない。切れ味が良いだけのタダの金属剣だね」
「……やっぱりか」
「あれ?キミのことだからもっと発狂して嘆き悲しむかと思っていたよ」
「発狂言うな。いや、それがパチモンだって噂は前々からあったんだよ。持って行った勇者は全員死んだし、遺品が毎回帝国に回収されてるとも考えられないしな」
「なるほどね、まあそりゃそうだよ。だって、」
「初代勇者に『天の剣』あげたの、私だもん♪」
「……は?」
「七百年くらい前かな、人間にとても見込みのある子がいてね。その子なら私を殺せるかも、と思ってあげちゃった☆……その子は結局初代勇者になったんだけど惜しいところで死んじゃってね、それ以降『天の剣』は私が回収して保管してる。私の城に行ったら見れるよ」
ここで、俺は一つの可能性にたどり着いた。
「……お前、マジで出鱈目ばっか言ってるんじゃないか?」
「ふぇ?」
「お前が魔物なことは分かった。が、俺が知ってる魔王像はこんなのじゃない。本当に魔王だってんなら、何かしら証拠でも見せてくれ」
「……きたきた。今までの勇者も全員同じことを言ってきた。えーと、これで六十二回目かな?魔王の力が見たい、ね。合点承知☆……後悔しないでね」
ルアは意味深な一言をつぶやくと、ピュイと口笛を鳴らした。
その瞬間。
「「「「ウォォォォォォォォ……!」」」」
数百もの魔物の軍勢が、一瞬にして集まり、襲い掛かってきた。
「どう? これで信じてくれた?」
「ああ、もう疑わねえ!とりあえずこいつらを追っ払う!」
「頑張れー。私は頑張ってる勇者クンを見ながら昼寝でもするよ」
ルアがぐうたらしている横で、俺は切れ味が良いだけの剣で孤軍奮闘した。
数時間後。
「はあはあ、やっと倒しきったぞ……」
「むにゃ……お、終わったんだね。あの量をよく捌いたよ、お疲れ様」
「……お前、怒ったりしないのか?」
「なんで?私が怒るのは無視されたときだけだよ」
「なんでって……お前の部下の何百って魔物を俺は皆殺しにしたんだぞ?そもそも勇者の旅に着いていくのもどうなんだ、部下を見殺しにすることにならないのか??」
「ああそれ?別に何も気にしてないよ。昨日も言った通り、魔物は自家繁殖するんだ。最初に作った子達はともかく、その子々孫々にまで愛着は湧かないね」
ああ、やっぱりこいつは「魔物」なのだ。人間の言葉や見た目を真似ているだけの、人間的な情が一切ない化け物なのだ。
「……俺には分からない」
「まあそんなことはどうでもいいじゃん。それよりほら、もう日が沈んじゃうよ。今日のごはんは何?わくわく」
これからずっと、この人間のフリをした何かを連れて旅をせねばならない。
そう考えると、今朝こいつに抱いた正の感情もしぼんでいく。
「……今日はその辺の山菜を煮込んだ鍋だ」
「山菜か。健康的でいいね」
ひとつ分かっているのは、今この女を怒らせるべきではないということ。
複雑な感情をひとまず胸にしまって、俺は夕食の準備に取り掛かった。
一ヶ月後、俺たちは隣国に到着した。
例の通行手形を見せれば、ここで食料や装備の調達をさせてもらえるはずである。
しかし着いて早々、番人に止められてしまった。
「なんだお前達は!この方角から来たということは……やはり魔物か!」
ここ数百年、勇者以外に人を迎え入れなかったのだ。こうなるのは当然である。
「違いますって、ほら!ちゃんとミカルガ帝国から選ばれた勇者ですよ」
通行手形を見せた瞬間、番人は顔色を変えた。
「ゆ、勇者様でしたか……!これは失礼いたしました。どうぞ、お入りください」
「どうも。ほらアル、行くぞ」
「はい、勇者様!……ったく、どれだけアルのことが好きなのさ」
「魔王と同じ名前の女とか怪しすぎるだろ!これは仕方ないことなんだ」
「はいはい……分かりました勇者様!これでよろしいでしょうか……?」
「……俺しかいない時はやめてくれ、落差にげんなりしてしまう」
「落差とは何さ!あんな小間使いより今の私の方が何倍も魅力的だろう?」
「何と張り合ってるんだお前は……」
そう、俺とルアはこの一ヶ月でそれなりに打ち解けてしまった。こいつの価値観には納得できない部分が沢山あるが、なにより顔がタイプなのと、黙っていてもずっと話しかけてくるので嫌々返事しているうちに、少し盛り上がってしまったのだ。
こいつは家族の仇のはずなのに……いやでも、こいつは他の魔物など知らないといった感じであった。ならば恨むべきは家族を殺した魔物であり、こいつではないのかもしれない。
……いや、これ以上考えるのは止めよう。旅はまだまだ長いのだ、こんなところで懊悩している場合ではない。
延々と喋るルアに生返事をしつつ、俺たちは国の中心部へと向かった。
「ようこそ勇者様!長旅で疲れたでしょう、こちらの食糧をどうぞ!」
「勇者様!私の宿はいかがですか?最高級ルームをもちろん無料で提供いたします!」
「……勇者クン、モテモテだね。嫉妬しちゃうな」
「そりゃああの人たちからしたら俺は世界を救うかもしれない勇者だもんな。手厚くもしてくれるだろ」
「どうかな。今のうちに恩を売りたいだけかもしれないよ」
「それでもいいんだ……結局は、世界を救うか死ぬかの二択なんだからな」
少々シリアスな会話をしながら、俺たちはこの国の王城へと向かった。
「ようこそお越しくださった勇者様!……と、そちらのお嬢さんはどちらさまかな?」
国王が恭しく俺たちを出迎える。これではどちらが偉いか分からない。
「こいつはお供のアルです。出発前に皇帝にあてがっていただきました」
「なるほど……では勇者様とアル様、まずは長旅お疲れ様です。王城の部屋に宿泊していただくのですが、お二人とは聞いておらず……一室しか準備できていないのですが、よろしいでしょうか?」
「え、ホントですか……仕方ないですね、受け入れましょう」
「勇者様、どうか勇者様だけがベッドで寝てください!あの時とは違って……」
「ああいや、流石にベッドは二つありますのでご心配なく……一つにもできますが」
ルアがいらんことを言うせいで国王に変な気を遣わせてしまった。
「二つでお願いします、絶対」
「……ちぇ、勇者クンは私と添い寝したくないのかい?」
部屋に入った途端、アルはルアになった。
「悪いがマジでお前はそういう目で見れないんだ」
「キミは本当に見る目がないね。今までの勇者は大なり小なり私に欲情していたよ。寝込みを襲ってきた三十五人目は流石にぶっ飛ばしたけど」
「見る目がないのはそいつだよ……てかお前、毎回毎回勇者に同行しているのになんで今までバレてないんだ?一回くらい誰かに見破られたりしてないのか」
「そりゃあ勇者が死ぬのは魔物の生息区域だからね、誰も見ちゃいない。まあ昔何人目かが宿で病死したことがあってね、その時は本人の名誉のために腹上死ということにしてあげたよ」
「むしろ名誉を傷つけてる気がするんだが」
「そうかい?魔王と性行為に及んで死んだというのはなかなか勲章な気がするんだけどね」
「魔王に欲情した時点で勇者失格だよ!」
「こりゃ一本取られた。そうだ勇者クン、賭けをしないかい?」
「全ての会話が唐突なんだよお前は。一応聞こう、なんだ?」
「最近物分かりが良くなって助かるよ。ルールは単純だ、もし私が今後魔王だとバレてキミに迷惑がかかることがあれば、キミは私の体を好き勝手にしていい。殺すも犯すもキミ次第だ」
「……!」
────一瞬、生唾を呑んでしまった。ルアの言葉がいちいち卑猥なのがいけない。
「決まりだね。私のことはそういう目で見れないんじゃないの?このむっつりスケベ♡」
「まだ何も言ってないぞ」
「やらないの?」
ルアはそう言いながら、シャツの胸元のボタンを開ける。白い柔肌が、少し覗いた。
「……お前が最後までバレなかったらどうなるんだ?」
「いぇ~い勇者失格☆……よく考えてみなよ、最後というのはキミが魔王である私を倒すときだ。つまり、私が死ぬ。それだけだよ」
「……それじゃ余りにもお前に得がないんじゃないか?何が目的なんだよ」
「本当に裏はないよ。これは私の持論なんだけどね、本当の『死』とは誰とも喋らなくなることだと思う。キミが今まで見てきた通り、魔物というのは殆ど意思疎通ができない。できる個体を生み出そうにも、そいつは私の思考回路を基にしているから話してもつまらない。……だから私は、人間の姿や声に執着しているんだよ。特に勇者に選ばれるような人間は本当に刺激的で、私がこの世界に飽きた時はちゃんと殺そうとしてくれる……いわば最も都合のいい存在なんだ。と言っても、人間のキミには分からないだろうけどね……はは」
「……いや、今までで一番納得できた。特に『本当の死とは~』のくだり」
「っ……!?ほ、本当かい……?」
「ああ。俺も会話ってのはとても大事だと思ってる。殺してくれる云々は分からんけどな」
「……ねえ、勇者クン。今夜はずっと語り明かさないかい?キミと、話がしたい」
「いいだろう。……が、ひとつ条件がある」
「やっぱりか。……お望みのプレイは何だい?」
「違う!脱ぐな!……簡単だよ、」
「俺のこと、名前で呼んでくれないか」
「……ふぇ?」
「そのままの意味だよ。俺、めちゃくちゃ厳しい訓練施設にいてさ……そこでは番号でしか呼ばれなかったし、今も勇者様としか呼ばれてないんだよ。だからさ……一人くらい、本名で呼び合う奴が欲しいんだ」
「……わ、」
「わかる……!私も魔物には魔王様、人間には魔王としか呼ばれなくてさ、勇者に名前で呼んでもらうの嬉しかったんだよね。もしかして私たち……似た者同士なのかな?」
「……どうやらそうみたいだな」
気が付けば俺たちはお互い自然に手を出し、固い握手をしていた。
「改めてよろしく、ユーリ」
「こちらこそだ、ルア」
この後、俺たちは本当に一晩中語り明かした。
そして、魔王ルアは憎むべき仇から、孤独を癒しあう友達となってしまった。
数日後。
俺たちは目一杯の食糧や新しい装備を受け取り、出発することになった。
大勢の国民が見守る中で、国王が近づいてくる。
「次はいよいよ魔王城ですか。より厳しい旅になると思いますが、頑張ってください」
「ありがとうございます、国王陛下」
国王はこの滞在中、常にいろんな援助をしてくれた。たぐいまれな善人である。
「それじゃあそろそろ行こうか、ユーリ」
ルアが出立を急かしてくる。隠しているとはいえ、魔王が多数の人間の前に出るのはやはりリスキーなのだろう。
「あっ待て『ルア』、置いてかないでくれ」
俺がそう言った瞬間、場の空気が凍った。
「……勇者様、そちらの方の名前はアルのはずなのでは?なぜ、『魔王』の名前を呼ばれたのですか……?」
ここまで言われて、俺はようやく己が犯した致命的なミスに気が付いた。
「違うんです!これは単に言い間違いでして……」
「国王!」
俺の言い訳にかぶせるようにして、鳩を抱えた男が国王の元に駆け寄り、鳩に括りつけられている伝書を渡した。
「ご苦労。ふむふむ……勇者様、あなたを送り出したミカルガの皇帝は『お供の女性などつけた記憶がない』とおっしゃっているが……?」
まずい。まさか伝書鳩で確認を取ってくるとは思わなかった。
「どういうこと……!?」
「まさかあの子が……!?」
現場も一瞬にして騒然としだす。ここをどう切り抜けようか考えていた刹那。
「ええい、そのガキを取っ捕まえて吐かせりゃいいじゃねえか!俺に任せろ!」
明らかにゴロツキと思われる大男が、ルアに飛びかかった。
「……もう隠しても意味がないね」
ルアはぼそっとそう呟き、さっと身をひるがえすと、
ズドン。
手の平から大剣を生やし、大男の胸を貫いた。
大男の亡骸が地面に触れると同時に、現場は今度こそパニックに陥った。
「おい何してんだよお前!ほら、逃げるぞ!」
「すまない、思わず体が反応して……!」
混乱に乗じて、俺たちは王国からなんとか逃げ出した。
「大変だ、勇者様は魔に穢されてしまった……お前たち、行け!」
後ろで国王が何かを命じているのが聞こえた。
何かは不明だが、今から俺たちの旅が最悪なものになることだけはハッキリとしていた。
「しかしユーリも馬鹿だね、名前にはあれだけ気を付けていたのに肝心な場で」
「なんでだろうな……最近ずっとお互い本名で呼んでたのが抜けなかったからか?」
「つまり私たちがマブだったせいか。それなら問題ないね」
「問題大アリだ!ここはまだ王国から遠くない上に魔物もいない、すぐに追手が来るぞ」
「まあまあ、追手なんか私が全部はねのけてあげようじゃないか」
「……それだと俺の立つ瀬がないな」
「友達を守るのは当たり前でしょ? こういう時は大人しくお姉さんに守られておきな」
「……なら、任せた」
「りょーかい♡」
俺とルアは相変わらずの軽口を叩きながらも、追手からの逃避行を続けた。
だが、そんな余裕もじきになくなっていった。
王国が差し向けた追手は予想以上に多く、ルアだけで対処するには限界が見えてきた。曰く、
「まだホントの姿にもなってないし、へーきへーき☆」
とのことだったが、その「ホントの姿」に関してだけはまだ何も教えてもらっていない。
また、帝国・王国の両方から指名手配にされているため、生活物資の確保も難航を極めた。この二国以外にまともな国がなく、全てを自然から採取するしかなくなったからだ。
俺とルアは身体的にも精神的にも弱っていき、それに伴って俺たちの関係性も変わっていった。
ある日の夜。
「……ユーリ、起きてる?」
「……ああ。どうした、ルア?」
「ずっと疑問に思ってなかった?なんで私は魔王なのに城に帰らないのか。なぜ、追われているユーリと一緒に行動してるのか」
この頃のルアは以前のようなくどい言い回しをやめ、素直な口調になっていた。これが打ち解けたことによるものなのか、あるいは彼女に余裕がなくなっているのか、それは分からない。
「……正直、思ってた」
「だよね。……もう正直に言う、」
「私は、ユーリのことが好き。初めて本音で話せた人だから。初めて、私と対等に接してくれた人だから。そんなユーリと一緒にいたいから、私は今こうしてここにいる」
「って理由で、納得してくれるかな……?」
「……ああ、大大大納得だ」
「……っ、てことは……!」
「ああ、俺もルアのことが好きだ。初めて俺を名前で呼んでくれたしな」
「……嬉しい……ねえ、そっちに行ってもいい?」
「……ああ」
この夜、ついに俺とルアは一線を越えた。
魔の者に触れることが「穢れ」なのなら、今の俺の体は全身穢れきっている。
でもこれでいい。ルアと、愛する人とついに結ばれたのだから。
次の日から、ルアは目に見えて元気になった。
「追手はこれで全員殺せたかな?あなた、行きましょ♪」
「できればその新妻みたいな呼び方より名前の方が嬉しいかもな」
「OK、行きましょユーリ!」
追手の死亡を確認してから、俺たちは再び魔王城を目指す。
「……なあ」
「なに?」
「……俺が魔王城を目指してるのって、なんでだっけ?」
「そんなのも忘れたの?魔王である私を殺すため……アレ?」
「そう、俺は魔王のお前が憎くて、お前を殺すために勇者になった。でも実際は……」
「その魔王と付き合って目的を見失っている……ってことか」
「ああ。もう俺には勇者としての誇りがない……今や殺す対象も魔物じゃなく人間の追手が殆どだ……これはいくらなんでもダメだ」
「そんなこと気にしなくていいよ。私と一緒にいてくれる限り、私は絶対にユーリを守る」
「そうだよな……ありがとうルア。もうこんなことは言わない」
「分かればよろしい♡」
上機嫌になって先に進むルアの後ろで、俺は小さく呟いた。
「……ごめん」
その日の夜、俺はルアに置き手紙を残し、ミカルガ帝国へと戻った。
ここ数日のめちゃくちゃに見えた進路も、彼女にバレずに帝国に戻るためのものであった。
「お、お前は……反逆の勇者、ユーリ・ロイゼン!」
「随分かっこいい二つ名がついたもんだ……ほら、降参だ」
俺は帝国の国境の番人に対し、大人しく両手を挙げた。
「久しぶりじゃのう……この、裏切り者が!」
「ずいぶんお久しゅうございます、殿下」
縄に繫がれた俺の前に、皇帝がやってきた。
「折角目をかけてやったのに、まさか魔王と内通しているとは……あの勇者選抜のときも魔の力を使っておったのではないじゃろうな?」
「信じられるわけがないでしょうが、あれは実力でございます」
「ふん、どうだか。まあそんなことはいいのじゃ。どれ、お主にチャンスをやろう。魔王軍の知ってる限りの情報を全て話せ。そうしたら、終身刑で済ませてやるわい」
思ってもみない提案だった。この結果次第では、無駄死にを防ぐことができる。
「……分かりました。全てお話ししましょう」
そこから俺は、魔王軍の情報を全て話した。魔物が自家繁殖で増えていくこと。魔王が歴代の勇者の旅に同行していたこと。「天の剣」はやはり偽物であったこと。文字通り全てである。
「……という感じです。これらの情報を駆使すれば、次の勇者は必ず世界を救えるでしょう」
「なるほどなるほど、大変助かった。では、……構え」
皇帝がそう言った瞬間、無数の銃口が突如として俺に向いた。
「なっ……皇帝、これは一体……!?」
「お前のような穢れきった存在を生かしておくわけないじゃろう!情報を聞き出したらもう用済み、即刻銃殺の上市中引き回しじゃ!」
「なるほど……分かりました、受け入れましょう。ただその前に、もうひとつよろしいでしょうか」
「む、まだ何かあるのか。いいじゃろう、言うてみい」
「先ほどまで魔王軍の情報は話しましたが、魔王本人の人となりについてはまだ話せていませんでした。少し語ってもよいでしょうか」
「なんじゃ、出し惜しみしておったのか!仕方ない、さっさと申せ」
「ありがとうございます」
「魔王はとても嫌な魔物でした。貴族の小間使いに擬態して自分を国の外に出させ、出た直後に本性を現して勇者を挑発する。その癖強くて、とてもお喋りで、我儘で……でも本当は寂しがり屋で、誰かに名前で呼ばれたくて、とても優しくて、とても可愛くて……」
「何を言っておるのじゃ?ついに錯乱したか、者ども!」
「結局何が言いたいかというと────」
銃部隊が引き金を引こうとしたその時。
「サイコーの魔王だったってことです。……な、ルア?」
邪魔をする全てを破壊しながら、巨大な黒竜が王城に突入してきた。
「全く……あの置き手紙は何?おかげでこんなことする羽目になったんですけど」
「悪い悪い。しかしよくここが分かったな」
「前に言ったでしょう?『勇者クンの匂いくらい覚えてる』って」
俺が残した置き手紙には、最悪の事態に備えての愛の言葉、そして『ある場所』に向かった旨が書かれていた。
「やっと見れたぜ、それが『ホントの姿』か」
「こうでもしなきゃ間に合わなかったからね……どう?気持ち悪い?幻滅した?」
「まさか。むしろそんなカッコいい姿、なんでもっと早く見せてくれなかったんだって感じだよ」
「カッコいい……カッコいい、かあ……」
「満更でもなさそうで何より。さて、とりあえず今はこの場を切り抜けるぞ」
「……な、なんなんだお前たちは!」
ようやく事態を飲み込んだ皇帝が、必死に言葉を紡ぐ。
「なにって……嘘つきを許さない、世界を救う勇者と魔王ですよ」
ルアにお手製の剣をもらった俺は、彼女と共に城内の兵を片っ端から斬り伏せていく。
「お、お前ら……こんなことが許されるわけ……」
「助けるって約束破ったのはそっちじゃないんですか?……まあ、俺も殺しは少しやりすぎちゃいましたがね。それに聞きましたよ、俺が選抜に勝った時に言った『他の候補者の埋葬』も全くしてないんですってね。……そもそもなんで勇者を決めるために百人が殺し合いしなきゃいけないんですか?どうせアンタが殺し合い見るのが好きな気狂いってだけじゃないんですか?」
絶好の有利対面になったのを機に、不満が口をついてドンドン出てくる。ちなみに埋葬の話はルアの魔法(遠隔視というらしい)で知ったものである。人智を越えていると恐怖していた存在も、彼女になると本当に頼もしい。
「すっ……すまん!全てわしが悪かった!埋葬もする、殺し合いによる勇者選抜もやめる!そしてお前らには最高の待遇を与える!だからどうか、命だけは────」
「なるほど、ではお言葉に甘えて───」
俺が合図すると同時に、ルアが皇帝目がけて炎の球を吐く。
火だるまになって悶える皇帝に対し、俺は最後にこう言った。
「この世界、いただきますね」
その後はあっという間であった。
王城の人間を全滅させ、ミカルガを制圧した俺たちは、全ての魔物に人間への攻撃を命令。善良な人間と醜悪な人間を見分ける審美眼は、とっくに失われていた。かくして、数ヶ月もしないうちに俺以外の人類は滅亡。世界は、完全に魔物が支配するところとなった。
そして今、俺とルアは魔王城へと来ていた。
「ここが魔王城か、初めて来たな」
「本来の目的地はここだったもんね。……改めてありがとう、ユーリ。あなたのおかげで愛を知ることができた。ホントの自分に自信を持てた。……いくら感謝しても足りないよ」
人間の姿になったルアは、俺にべったりくっついている。
「こちらこそだ、ルア。……そして、受け取ってほしいものがある」
俺はそう言うと、懐から小さな箱を出した。
「……!それってまさか……!」
「ああ、そのまさかだ。……ルア、俺と結婚してほしい」
「……喜んで♡」
誰もいない魔王の部屋で、俺たちはついに正真正銘の夫婦となった。
「そうだ、この機会だしやりたいことがある。ユーリ、顔を近づけて」
「こ、こうか……?」
何回もしているとはいえ、やはりキスは緊張する。そう思っていたが、違った。
「これでよし……っと」
ルアは手に持ったペンのようなもので、俺の両頬に何やら怪しげな紋様を描いた。
「今、ユーリに二つの呪紋を描いた。ひとつは『不老不死になり、いつでも好きなタイミングで死ねる呪紋』、もうひとつは『私とユーリのどちらかが死んだ時、もう片方も同時に死ぬ呪紋』よ」
「……?それってつまり……」
「私とユーリは永遠に愛し合えるってこと!ユーリ、大好き♡」
意味を理解したと同時に、ルアが俺の胸に飛び込んできた。
「……俺も大好きだ、ルア」
老いも死にもしないということがどれほど重大なことか、まだ実感は湧かない。
ただ、自分は今後何百年とルアと添い遂げていけるのだということは分かった。
それが分かれば、今はもう何もいらない。
誰も訪れることのないこの空間で、俺とルアは無限の愛に堕ちていった。
数百年経った今でも、魔王城は現役で稼働している。
だが、奥の奥にある一室──『王の間』は、今なお閉ざされている。
一説によると、過去に駆け落ちした勇者と魔王がその余生をここで過ごし、共に眠っているらしい。
今でも話し声のような音が聞こえることは、今の魔王以外は誰も知らない。
初代魔王と第六十二代勇者 鷹城千萱 @Tikaya_Hawks
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