おれは柿の木

魔山十銭

おれは柿の木

 おれは柿の木。

 じぶんで言うのもなんだが、どうやら〝柿〟という木らしい。下にいる小さな〝おらたち〟がそうはなしているもので、おれは〝柿〟ということだ。そんなことはべつにかまわない。すみわたるあおにひかるきらきらと、ふるえるようなあめのざあざあをあびて、おれは大きくなっていった。うすいしろが上にたなびくころになるとおれは実をならす。これも〝柿〟だ。このころになるとくろいぎゃあぎゃあがとんできて実をつつきにくる。まったくうるさくてしかたがない……。


「そろそろ柿を取っぺが」

「んだな、今年は夏が暑くて、雨がざんざん降ってよ、変な天気でよ。んだども見事に実って……」


   ◇   ◇   ◇


 おれは柿の木。

 おれの下には〝おらたち〟が根をはっている。山というところからやってくる小さなきいきいにも似ているがへんてこれんな皮を着て動いている。緑をとったり白をとったり、くらくなると四角に入っていってあかるくなると出てくる。

 おれは動けない。

 くやしいわけじゃないぞ。動くひつようがないだけだ。上は〝空〟というものでそこに光るのが〝おてんとさん〟、ざあざあの雨だけはなぜか知っていたな。あつい日が来てすずしい日が来てまたおれは柿の実をならす。

 何だ、〝おらたち〟のひとつがおれにのぼってきやがった。実をもいでいる。


「嘉助! おめ、また仕事さぼってからな」

「いいべな母ちゃん、柿はうんめえぞ」


   ◇   ◇   ◇


 おれは柿の木。

 前におれにのぼっていたやつがおれから落ちた。おらたちはえらいさわぎであつまってきてあいつをはこんでいった。

 しばらくしずかになった。


「嘉助はどだ」

「馬鹿だぁ、もう二度と歩げね」


   ◇   ◇   ◇


 おれ……〝俺〟は柿の木。

 〝俺〟がいるここは〝村〟で〝おらたち〟は〝ニンゲン〟というそうだ。ずいぶん長生きしてきたが知らないことも多い。

 〝畑〟が見える。黒い〝もおもお〟は〝牛〟というそうだ。〝ぎゃあぎゃあ〟はカラス、〝きいきい〟はサル。

 へんてこれんな恰好をしてニンゲンが列をなしていく。ニンゲンのぶつぶつもわかってきたぞ。「ばんざいばんざい」なんのこっちゃ。


「お国のために行ってまいります」

「万歳! 万歳!」


   ◇   ◇   ◇


 俺は柿の木。

 最近は暗い夜空の向こうが俺の実のような鮮やかな色になっている。どんどんと空が怒っている時の音がする。

 その内にみょうちきりんな四角が疾走して村にやってきた。背の高い緑色の帽子のおらたちじゃない変なニンゲン。


「ヘイヘイ、カムヒヤ」

「兵隊さーん、ぎぶみーちょこれーと! ぎぶみーちょこれーと!」


   ◇   ◇   ◇


 俺は柿の木。

 山が削られ、村は山裾に広がる街になって、ニンゲンたちは変わっていった。空の上に鳥以外も飛ぶようになり平らになった道には車も増えた。ずいぶんと煙たい。

 俺は植わっている家の庭から見えるテレビとやらを見るようになった。眼はないが見えている聞こえている。

 俺は……ばけものだろうか。

 ニンゲンの言葉が解る柿の木なんて。

 長生きする内に肌で感じる。

 太陽の熱や雨の冷たさだけじゃない、解ってしまうようになったんだ。

 やはり、ばけものだろうか。

 最近は俺の周りで聞こえるパトカーのサイレンが多い。見た事のない黒い大きな獣がテレビに映っている。


『いや、まさか市街地に熊がねえ……』

『ご覧下さい、親子の熊とみられるものが河川敷を……』

『犠牲者は……』


   ◇   ◇   ◇


「それでは、ただいまより熊害防止対策として当該樹木の伐採作業を開始致します。こちらの樹木は先日より見受けられる成獣の熊と見られる個体の誘因となっており、被害拡大防止の観点から所有者の許可を得て撤去となりました。それでは撤去作業開始」


 鋭い鋸の刃が俺を容赦なく切り裂いていく……俺は幹だけになっ――。


   ◇   ◇   ◇


   お

          れ


        は


    か    き

           の


      き


    だ

              っ た





      ゆ

     

   き

       が


             ふ

              っ 

         て


               き



                   た

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